16話 開拓部クエスト
ドンッ
「くそっ! とんだバカアマだよ、あの娘は!」
ガンガンガン
「アタイは、人を利用するだけのクズだってのによォ! あの娘は、あの娘は、あんなにもこんなアタイなんかを信じてよォ! どこまでバカなんだよ!」
などと宿屋でやっている所に、ラムスが迎えにきた。
「うるさいぞサクヤ。何を一人芝居している」
芝居じゃないよ。
自己嫌悪で、昭和の不良少女になってしまったんだよ。
「だいたい何が『人を利用するだけのクズ』だ。利用しようとしたのはロミアの方だろう。お前の戦闘力を、外交や防衛に有効に使おうとして取りこもうとしたのだ」
ごもっとも。
でもロミアちゃんの次期領主としての覚悟に、なんとなく自分の行いが恥ずかしくなって、謎の自己嫌悪を感じてしまったのだ。
「サクヤがロミアをどう利用するか知らんが、したいなら気にせずやれ。お互い様というやつだ」
…………『したいならやれ』か。
私はロミアちゃんとエッチしたいのだろうか?
目的のためとはいえ、どうにもする気になれない。
「サクヤ様、何を荒れているか知りませんが、ベッドにいらしてください。このノエルが悩みなんて粉砕してみせます!」
「冗談ではないわぁ羊娘! これからサクヤはオレ様とクエストだ! ええい、すっかり奴隷を愛玩動物にしおって。きさまは奴隷らしく主人のいない部屋を掃除でもしてろ」
「ちがいまーす。今日からノエルもクエストに行くんでーす」
「なんだと? サクヤ、どういうことだ」
「ああ、ノエルには魔法の才能がかなりあるみたいだからね。戦闘で使ってみようかと思ったんだ。邪魔はさせないから、連れていかせてよ」
ここしばらくのポイントはノエルにふって、風と水の魔法をレベル3にまで上げたのだ。
「ふん、ペットの面倒はちゃんと自分で見ろよ。さぁそろそろクエストに行くぞ」
◇ ◇ ◇
私達はギルドに着くなりギルド長の私室へ呼び出された。
領主様からのクエストは領主様の機密に触れることも多いため、ここで聞くことも多い。
さて、今回の内容を聞くなりラムスは叫んだ。
「なにい、また開拓部だとお? 断る! いくら報酬が良くてもワリに合わん!」
開拓部というのは、文字通りリーレット領の辺境を開拓中の地域である。
前にもここに出現するモンスターの討伐依頼を受けたが、成功はしたものの散々な目にあったのだ。
まず、単純にそこまでの道のりが長い。
馬車で赴くだけで3、4日はかかってしまう。
そしてそこに赴いてクエストをこなして帰るまでの水や食料を確保することが難しいのだ。
用意して持っていこうにも、量がかなりのものになって、運ぶのに一苦労。
現地調達しようにも、そこは水源がまだ確保されていないため、開拓民はかなりシブかった。
水なしのクエストは死ぬほどキツかったよ。
「でも、どういうことです? あそこに出てたウシガエルリザドは確かに討伐したはずです。他にも何か出たんですか?」
「虎ゴーンだ。五匹も出て、開拓民に尋常じゃない被害が出ているらしい。本来なら、あそこでの討伐は冒険者じゃなく領軍の仕事だがな。例によって動けない。で、アレを狩れる冒険者はお前らしかいない。引き受けろ」
虎ゴーンが出ただって?
あのモンスターは、元々このリーレット領には生息しないものらしい。
そして、それはドルトラル帝国の魔物使いが大量に飼育し戦力としているとのことだ。
つまりこれはまた、帝国からの嫌がらせだ。
「嫌だジジイ。そもそも、あそこの防衛は領軍がやるべきものだろう。そこまでの遠征をする力のない冒険者にやらせることではないわぁ。おととい来い!」
―――「それはごもっとも。ですが当方としましても、これはぜひ引き受けていただかなければならない案件。開拓は主の大切な事業ですから」
「あっ、あなたは!」
ノックもなしにギルド長の部屋へ入ってきたのは、領主様のなんでも係レムサスさんであった。
「この前の開拓部クエストでは失礼いたしました。たしかに冒険者に無理の多いあの場所では、バックアップは当方がすべきことだと気づかされました。そこで、今回はこちらが遠征に必要な馬車、水、糧食などをご用意させていただきました」
「ふん、クエスト料からその分を引いたりしないだろうな」
「もちろん。これは必要経費として、当方が負担させていただきます」
このクエストからノエルを連れて行くことにして良かった。
前に開拓部に行ったときは長期に宿を開けて、ノエルをメチャクチャ不安にさせたからね。
ノエルも「ギュッ」と私の手を強く握ったので微笑んであげる。
――あっ!
いきなり原作を思い出した。
この展開って、もしかしてあのイベントのフラグなんじゃ……
「あの、レムサスさん」
「おや、何か質問ですかサクヤ様」
「私達、本当に長期にここを開けてよろしいんですか?」
「どういう意味です?」
「開拓部の虎ゴーン出現は明らかに陽動です。もし私達がいない間に、こちらでまたフレスベルクでも出現したら被害は大きくなるでしょう。ここは開拓を中断して、開拓民の方たちを避難させるべきでは?」
「……知っていたのですか、モンスターの背後を。さすがですね」
原作知識です。
帝国が魔物使いの操るモンスターを使って、リーレット領を混乱させようとしてるのは承知だよ。
「質問にお答えしましょう。サクヤ様の言う通りあそこを空白地帯にしてしまえば、そこに兵を伏せられる可能性があるのです。そうなれば、たやすく奇襲を受ける危険性が出来てしまいます。多少の無理をしてでも、あそこの火消しはしておく必要があるのです」
でも……大丈夫かな?
この陽動が、あのイベントのトリガーだったりしないかな。
【ドルトラル帝国大侵攻】
原作ではラムスが開拓部のモンスター退治に赴いた間に、帝国がリーレット領へ侵攻するイベントが起きてしまうのだ。
でも、さすがに軍事のことまで聞けないしなぁ。
それに私が残ったところで、軍隊の侵攻に何かできるわけもないし。
「わかりましたレムサスさん。開拓部へ行きましょう。お隣には気をつけてください」
「はい、もちろんです。『備えは出来ている』と言っておきましょう」
その言葉を信用するしかなかった。




