47話 ヤバイの連鎖
自衛隊員 長舩宗也視点
バッガーーン ドッガーーン ドグシャアッ
「バカ……な。特殊作戦群が……日本の切り札が……」
日本防衛の千引の岩・特殊作戦群の被害にめまいがした。
撃墜された輸送ヘリの数から考えて、損耗は千名をはるかに越える。それら一人一人が選びぬかれ、莫大な予算を投入して育成された、日本防衛に従事する戦闘のプロなのだ。
損耗した人材と装備から考えても、今年の防衛計画は悪夢となる。日本の未来に涙が出そうだ。
「これがカオスアイの魔力光か。前は魔法障壁で防いでたから本当の威力はわからず仕舞いだったけど、あの距離のヘリを撃墜なんてすごいな」
ブラックという彼女のポツリ言った言葉。だが、その内容は聞き逃せない。
「知っていたのか? あんなバケモノが城にいることを!!」
「知っていました。だけど今までいろんな事がありすぎて、その存在を忘れていました」
「くっ……そのせいで、特殊作戦群に甚大な被害が……!」
「それはないでしょう。私が忠告したとて、それでヘリを飛ばさないとは思えません。『日没後にあの城に近づくな』という忠告も言ったはずですが」
……いかん、落ち着こう。どのような被害であれ、彼女らに責任を問うことは出来ん。
何より日本の防衛戦力が激減した今、どうあっても彼女らに城のアンノウン対策に協力してもらわねばならない。
「隊長……」
「丹沢、私は大丈夫だ。すまなかったカリギュラのみなさん」
「いえ。それより民間人のみなさんの移動を急ぎましょう。いつ何が、アルザベール城から這い出てくるかわかりません」
アルザベール城? それがあの城の名か。
やはり彼女はあの魔城のことを知っているようだ。どうにか情報面だけでも協力をしてもらいたいものだ。
「うっ、マズイ!!!」
突然、ブラックの彼女が叫んだ。
「ど、どうした!?」
「カオスアイの殺気が民間人集団にも向いた! あそこにも魔力光が来ます!」
「な、なんだと!」
カアアアアアアッ
地上にもあの魔の光が輝いた。
すると―――
ドッゴオオオオオン
発車寸前の民間人を乗せた輸送トラックが爆発し、火災が起こった。
◇◇◇◇
サクヤ視点
私は長舩さん達を置いて、キャンプの避難民の元へ駆けだした。
「くっそおおッ! 怒っているな、カオスアイ!」
カオスアイの怒りは、この場にいる人間すべてを焼きつくさんとする意思を感じる。
次の標的は、ここらでもっとも多くの人がいるこの集団だ。
私は城に相対するようその前面に立った。
カアアアアアアッ
ふたたびの魔力光が襲う。
「チェストオオオオッ」
光をメガデスでとらえ、振り下ろし、気合一閃で潰す。
「バシュンッ」と音をたてて魔力光は消滅する。
「バ、バカな!? レーザーを剣で叩き落すなんて!」
近くにいる民間人防衛に立っている自衛隊員のおじさんが驚いている。
とにかくこの人に統率をとってもらって、避難民のみなさんを退避させてもらうしかない。
「すぐ民間人みなさんの移動を開始してください。もう移動の車なんか待っているヒマはありません」
「う、うむ。だがさっきの爆発でトラックの破片が飛び散って、ケガをした人達が多数いる。簡単には移動は難しい」
たしかに燃えているトラックの側に、破片でケガをした人が大勢いる。
足をやられた人もいるし、老人もかなりいる。自力で移動は難しそうだ。
「くっ、またか」
カアアアアッ……バシュンッ
またしても魔力光が襲い、それを打ち消す。
まいったな。みんなが撤退までにどれだけかかるか分からないが、こうやってガードし続けるしかないか?
「おーい、サクヤはん。後ろの人らはウチらにまかせて、そのまま気張りぃや」
「モミジ、ラムス、真琴ちゃん!」
モミジとラムスが素材集めから戻ってきて、真琴ちゃんも長舩さんらと来た。
「こうなれば、ケガ人、ご年配の方々はわれらで担いでいくしかないな。君達、力は期待できるのか?」
長舩さんが問うと、真琴ちゃんは杖を掲げて言う。
「いえ、ケガをした人達は私にまかせてください。『大いなる癒しの御手よ。やさしき光となりて子らを抱き、立ち上がらせたまえ。【ライトヒール】」
杖から輝く光がケガをした人達にふりそそぐと、見る見るうちにケガが治っていった。
さすが最高位教皇の白魔法師!
「なっ! ケガをした人が一瞬で? いったいコレは何だ?」
「だから魔法ですよ隊長。RPG的にホワイトさんは僧侶ですかね」
丹沢さんの方が理解が早いみたいだね。まさにゲームから選んだ職業なんだよ。
「じいちゃん、ばあちゃんはウチにまかせぇな。元気の出るアメちゃんあげるで」
モミジは老人の人達をまわって、謎の丸薬を渡してまわる。
すると……
「な、なんだと!? 老人が若返った?」
そう。薬を飲んだ人達は若返って、中年くらいの年になってしまった。
こんな魔法のような出来事にはみんながビックリで大騒ぎ。
いや魔法なんだろうけど、こんな奇跡みたいな出来事は今まで見たことがないぞ!
「いやーさすが魔界の騎士身分のグレーターデーモンやな。あれの骸を元に活性薬作ったら、ジジババも若返るほどのモンになるなんて、ごっついわぁ」
そうか。上級魔族の骸で作ったものだから、あんなスゴイ効果になるのか。
でも”若返り薬”なんて奇跡みたいな話が広まったら、もしかして大変なことになるんじゃ? ……ぜったいヤバイ。口止めとかできないかな?
「―――って、ラムス!! なに撮ってんの!?]
なんと、ラムスは一部始終を撮影カメラで撮っていたのだ!
それはヤバイ! あの薬を求めて、モミジの争奪戦とかが起きるかも!
「うん? ミスターXに活躍を映せと言われてるだろうが。ちゃんとお前が魔力光を弾いてる所も撮っているから心配するな」
「そうじゃなくて……うおおおっ、忙しい!」
バシュンッ バシュンッ
「おい、アンタ! これは映すな!」
長舩さんも同じ考えにいたったみたいだ。ラムスからカメラを取り上げようとするも。
「なんだキサマ。このオモシロ道具をオレ様から盗ろうとはいい度胸だ。てぇい!」
ラムスは「ドガァッ」と長船さんを蹴っ飛ばし、長船さんは女性が集まっている場所にふっ飛ばされた。その中の女の子の一人が、まともに長船さんの下敷きになってしまった。
「うぐっ……すまなかった。君、大丈夫か?」
「い、痛い! 足がすごく痛いです」
当たり所が悪かったらしい。よりにもよって足とは。
だけど、ここには真琴ちゃんがいる。その程度のケガなんか。
「私にまかせてください。【ヒール】!」
彼女が「サッ」と杖をふるって回復術をかけると、たちまち女の子の痛みの声は無くなった。
「すごい! まったく何ともなくなった。ありがとうございます……え? もしかして真琴?」
……え?
「どうして真琴が、そんな恰好で魔法とか使ってるの! ハッもしかして一千万のお仕事って魔法使い!? それじゃ、あっちのスゴイ剣を振り回している人は?」
そう言えばこの子の声、聞き覚えがある。まさか……
そして彼女は私の側にも近寄ってきた。
「ちょっと! こっちは危ないよ! 来ないで」
「その声、やっぱり野花センパイ! どうしてそんな大きな剣でレーザーを弾くなんてことが出来ちゃってるんです?」
背中ごしに見た彼女の顔。それはやっぱり私と真琴ちゃんが仲良しだった後輩の女の子。
唯ちゃんだ! うおおおっ、これからどうしよう?




