46話 嵐の過ぎた後
自衛隊員 長舩宗也視点
ほんの数分前にあった絶体絶命の危機は、いまだ十代にも見える少女二人組に薙ぎ払われた。自衛隊員として、見たことは余さず連隊長に報告が義務だろう。
「こちらマルサン。マルマル送レ」
『こちらマルマル。長船、よく生きていた。状況を報告せよ』
「はっ。多くの民間人と仲間部下を喪失し、恥ずかしながらも生き延びてしまいました。状況ですが、信じられないことに、わが派遣部隊をほぼ壊滅に追い込んだアンノウンは、たった二人の身元不明の者が撃退してしまいました」
『ではあの配信に映った出来事は真実だったのか? あまりに子供向けヒーロー番組のような構成で流されていたので、実際の出来事か疑問視されているのだが』
「配信? 何ですそれは。質問の意図を知るため、まずそちらの起こったことをご説明ください」
『うむ、そちらの現場の光景だがな。現在、ブイ・チューブで流されているのだ。先ほど言った謎のヒーローのような二人組が、アンノウンを殲滅した光景などもな』
「なんですって? ……そういえば彼女らの背後で、撮影のような事をしている者がいましたな。てっきり戦闘記録かと思いましたが、まさかブイ・チューブとは」
『どうやらあの映像は本当に現場で起こった出来事のようだな。で、長船の目から見て、恐るべきアンノウンを撃退した兵器はどのようなものだ? あの瞬間は光源過多で分析が難しいのだ』
「申し訳ありません。自分もあの瞬間はまぶしくて、よく分かりませんでした。形状は見るに大型の剣と杖としか」
『ふうむ、やはり観察だけでは何も分からんな。よし長船、彼女らに接触しろ。彼女らからあのアンノウンと城の情報を聞き出してもらいたい。そして出来るなら、こちらへの協力を願うんだ』
「了解。長舩1尉、ただいまより重要関係者との接触をはかります。向こうからの要求などがあった場合は、よろしくお願いいたします」
連隊長との通信を切り、彼女らの撮影をしている丹沢に彼女らの様子を聞く。
「四人のうち二人は、アンノウンの骸をまわって研究素材の回収らしき事をしています。あちらは私たちが出会った異世界人ですが、残り二人は新顔です。日本人少女のようにも見えますが、アンノウンを撃退したのは彼女ら二人です。やっぱり異世界人でしょうかね」
「その調査も我々の仕事だ。日本の危機が明確になった以上、生き残った我々がもたらす現場情報の価値は、戦略決定に直結するほど高い。彼女らに接触するぞ。丹沢、ついて来い」
「はい、会話中の彼女らを撮るんですね。しっかし民間人の方々から妬まれますねぇ。『彼女らと話したい』って要望がひっきりなしなんですよ。民間人保護中の隊員はそれを抑える方が大変な状態でして」
「あれに民間人が接触したら大変なことになる。機密になるような事も多々あるだろうからな。ともかく行くぞ」
私と丹沢は、この事件最大の謎の一角である黒と白の二人組に向かった。
◇◇◇◇
サクヤ視点
半径二百メートルのグレーターデーモンを殲滅すると、その他はアルザベール城へ逃げていった。とりあえずは撃退に成功といったところか。
モミジが今後の戦闘のためにグレーターデーモンから素材を回収すると言ってラムスと共に行ってしまったので、今はそれの待ちだ
だがしかし真琴ちゃんを休ませつつ待機していると、自衛隊の人二人が私達の所へやって来た。偶然にも二人とも顔見知り。
長船という隊長さんと通信班の丹沢さんだ。
「そちらの方は大丈夫か? よければ医官に診てもらうが」
「おかまいなく。ただの集中疲れですから。はじめての実戦がコレだったものでね」
「そうか。それで君達は何者だ? こちらの実働部隊を壊滅させたあの敵性生物を相手に、どうして戦える?」
「どうしてでしょうね。私にもよくわからないです」
【スキル】という謎の力は今もってよく分からない。なんでただの女の子が、剣の達人とかになれちゃうんだろうね。
「ふざけているのか? 配信ばえするような、戦う前の妙な名乗りといい」
「あのふざけたやり方が私たちの流儀。そういう物だと思ってください」
「我々はあの敵性生物のことは何も知らない。これ以上の犠牲を防ぐためにも、あの生物の情報を渡してほしい。そしてその対抗策なども」
「協力は出来ません。私たちはあなた方と合いませんから。でも城の中のモンスターが外に漏れるのを防ぐことはやります」
「我々はこの国の防衛機関だ。この国の安全保障は我々が行う。正体不明の君達に好きに行動させるわけにはいかない」
「でしょうね。そのあたり、どうしようか」
魔法少女にマジモンの防衛機関が詰問に来るとかキツイ。
あれって、アニメだから許される行動いっぱいだからなぁ。
と、彼の後ろの丹沢さんが話しかけてきた。
「あの、ブラックさん。もしかしてあなた、お嬢様ですか? その剣の記録も取ってたんで、見覚えがあるんですよ。超重量のその剣を持てているからもしや」
「よく分かりましたね丹沢さん。あの姿は魔法で変えられていたものです」
「やっぱり! 魔法少女が魔法で大人になるって、昔懐かしき王道ですもんねぇ」
「いえ、こっちが本当の年齢。私があの年だったら、グレーターデーモンとかと戦おうなんて考えませんよ」
考えてみれば、年端もいかない少女をモンスターと戦わせるとか。
魔法少女モノはなんて非道な物語なんだ。
「魔法で子供に? あなた方の世界ではそんな技術もあるのですか。よろしければ、その話もお聞かせ願いたいのですが」
うわぁ、隊長さんがガッツリ食いついてきた!
やっぱりごまかせばよかったかな?
「よろしくありません。あれは好きでなっていたわけじゃないし、私達がその魔法を使えるわけでもないし」
バタバタバタ……
と、空がやけにローター音でうるさくなった。
見上げると、空いっぱいのヘリの大編隊がこちらに向かって飛んでくる。
「特殊作戦群の出動だ。ここら一帯は非常安全監視区域に指定となります」
「なんでヘリが? まさか城へ空からの侵入とか考えてないですよね。全滅しますよ」
「脅威度から考えて、城内侵入はまだ行いません。まずは外部からの徹底的な調査と、アンノウンの死骸を調べて不死身の秘密を知るところからですな。その情報をあなた方からもお聞かせ願いたいのですが」
後ろの要望はあえて無視。ヘリのローター音で聞こえなかったフリをする。
「でも数が多すぎません? 上空からの撮影が必要だとしても、あれだけの数は必要ないでしょう」
「万一の備えです。もし、ふたたび脅威度が他地域の安全をも脅かすほどの事態になった場合。あの城は跡形もなく破壊します」
そういえば、空輸ヘリだけでなくアパッチみたいな戦闘ヘリも多数。
もし爆撃で魔界貴族を葬ることが出来るなら、私たちは安全に目標を達成できるから良いんだけど。そこまで楽な展開になるかなぁ。
キュピィーーン
―――!!?
高魔力反応? この背筋の凍るような気配。憶えがある!
まさか、アレが来るのか?
「ヘリを全機さげて! 撃墜される!」
「なに? なにを言って……」
ドッゴオオオオオン
突如、一機のヘリが爆発した。
アルザベール城から一閃の光状放たれ、ヘリを撃墜したのだ。
さらに間髪を入れず光状は次々放たれ、ヘリ群は次々に爆散四散して墜落してゆく。
ドゴオオオオン バゴオオオン ドガゴーーン
「あ、ああ……特殊作戦群が……日本の切り札が、この一瞬で消滅だと……」
地獄のような空の光景に、隊長さんはじめ丹沢さんも民間人警備の隊員たちも茫然自失。
民間人集団からは阿鼻叫喚の悲鳴があがる。
【カオスアイ】
強力な魔力光線を放つ、全身目玉のような姿の魔界上位の魔物。
そう言えば城の中にアレも居たな。ヤツラも目覚めたか。




