44話 対魔族殲滅チーム出動!
ガガガガガガガガ……
「一斉精射! 向かってくる彼らは、もはや人間ではない。動かなくなるまで撃ち続けろ!」
被災民キャンプ地防衛の部隊は元第二偵察中隊のゾンビの肉体が完全に粉砕されるまで小銃を撃ち続けた。同じ迷彩色ボディアーマーを着た彼らを撃つごとに精神は削られる。
「ハァハァ。どうして仲間だった彼らをこんな風に……」
一面赤い絨毯となった彼らを見た誰かが言った。
それでもこれは、この夜の脅威と惨劇のほんの一部にすぎないのだ。
「輸送車両に被災民は乗せたか? どこでもいい。一刻も早くこの場を離れなければ危険だ」
「は、はい。ですが到着したのは輸送トラックですので、乗せるのが難しい方も多いです。それにとても全員は……」
「順次輸送バスも来る。ともかく急げ。陸機団もいつまでアンノウンを押さえておけるか分からんのだぞ……うっ!?」
ふいに夜の闇がいっそう濃くなったように感じた。
空から「ギャアギャア」と巨鳥のような鳴き声が鳴り響いた。
「バカな………最精鋭集団の陸機団を抜いて、あれだけの数が……」
その声に空を見上げた物はみな、絶望に心が染められた。
巨大コウモリのようなアンノウン生物の無数の群れで、空一面が覆い尽くされていたのだから。
「マルマルこちらマルサン。送れ」
長船はなかば反射的に連隊ベースキャンプに通信をつなぐ。
『こちらマルマル。状況を報告せよ』
「第三偵察中隊属長船宗谷1尉、これが最後の通信です。連隊長、もはや事態は日本の危機です。我々の救助は考えず撤退してください。そして直ちに新宿全域の封鎖を要請します」
◇◇◇◇
サクヤ視点
西新宿雑居ビル アリサソフト広報事務所屋上
「昔の私だったら、何も考えずあそこに飛び込んで行ったろうな……」
雑居ビルの屋上から、はるか彼方のアルザベール城をぼんやり見つめる。
その空には無数のグレーターデモンが舞い、その元には何人もの人間と無数の魔物の濃厚な気配。
されど人間の気配は一方的に消えていき、対して魔物の気配はより濃密になっていく。それが意味する、くりひろげられる悲劇が、痛いほどよくわかる。
『行くなよ。お前の剣王の力をもってしても上級魔族は分が悪い。真琴に与えた力を使ってこそ、勝利の道は開けるのだ』
連絡用に持ってきた小型モニターテレビの画面のミスターXが、たしなめるように言う。
「わかっているよ、私が突っ走ったら誰も助からないって。それが理解できるくらいの経験は積んだよ」
でも、こんな悲惨な故郷を見たせいかな。
心の中で昔の私が泣いているんだよ。
『ならいい。で、オレのやったボディアーマーの具合はどうだ』
今、私はお兄ちゃんからもらった現代技術で作られた黒いボディアーマーを着ている。対魔族用に魔力遮断、瘴気防御の術式を幾層も施されているとか。
「うん、いけるよ。このフェイスメットも顔が隠れてちょうどいいし。でもデザインがハデすぎない? 私としては、こっちの世界じゃあまり目立ちたくないんだけど」
お兄ちゃんのくれたアーマーは黒くシブいのが下地だが、カッコ可愛いハートがそこらにつけられ、胸元には大きなリボン。フリルまでついて、すごく女の子らしく魔改造されているのだ。
『気に入らんか? 知り合いのキャラデザ屋に30万渡してパパッと描かせたのをモデルに、アーマーにデコったのだが』
「どうしてそんな無駄な仕事をするかなぁ? 実戦のアーマーなんて実用重視。リボンもハートもいらないよ」
さんざん大剣振り回して地獄仕事こなしてきたわが身。
今さらこんな女の子っぽいリボンもハートもフリルも恥ずかしいだけだよ。
『いいや、ちゃんとそれなりの理由はある。真琴を教皇クラスにレベルアップするために、リソースを払拭寸前まで使ったことは話したな? ゆえに、これからのためにも、早急にリソースを補充せねばならんのだ』
「うん、それで?」
『そこでお前らの活躍を動画配信で日本中に流し、魔族の危機で絶望にあえぐ日本中から、リソースの元となる感情を集めていただくのだ。すなわち”希望”という感情をな』
希望。それは絶望の底にあって強い感情となり、多くの人間のそれは神の力を飛躍的に高める元となるもの。
「つまりこれを着て謎のスーパーヒーローになって、魔族をバッタバッタ倒して、ギャラリーを喜ばせろと」
『うむ、その通りだ。余裕があったら無駄なポーズをキメて視聴者を喜ばせることも忘れるな』
今さらながら、妹に何させる兄なんだろうね。
『おっと、どうやらモミジの方も杖が仕上がったようだ。来るぞ』
ようやくか。
無意識にメガデスの柄を握りしめグレーターデモンの空を睨みつける。
「サクヤはん、お待たせや。ようやっと仕上がったで」
「ガチャリ」と下の階に続くドアが開き、真琴ちゃん、ラムス、モミジが上がってきた。
モミジは何やら大がかりな機材を持っている。
真琴ちゃんは手にさっきの大きな術師杖を持っていたんだけど、何より目を引いたのは、その身に纏う衣装だ。
「真琴ちゃん? その恰好は?」
真琴ちゃんが身に着けているのは純白の重層型ローブ。あちこち金の装飾がされていて、乙女ゲーのイケメン仕様みたいだ。
「岩……ミスターXさんにこれを着て戦えって。乙女ゲーのホストになった気分です。学校でもそういう需要はイヤになるくらいありましたけど」
「いやーすっごい美少年術師様やなぁ。王都に連れてったら、貴族奥さんの人気すごそうや」
「フン、変態め。このミスターXというヤツ、普段からロクなことを考えていないゲス野郎のようだな」
そうだねラムス。君ももうちょっと年をとったら、似たようなことを考えるようになるよ。
「さて、戦闘の方はサクヤはんマコトはんがやるとして、ウチの役割は、コレで戦ってる二人の絵をおさめることやと。なんでもコレで見たモンを世の中にひろく広める道具やそうやけど」
モミジが持ってきた機材から取り出したのは、すごく高そうな撮影用カメラ。
モミジは嬉しそうに、それの性能を確かめるべくあちらこちらを覗いて見回す。
「スゴイわぁコレ。ごっつい遠くのモンも近くに見えるし、目で見るよりキレイに見える。それに高速で飛び回るモンもハッキリ追尾できるんやと。ウチの錬金鑑定眼でもコレの機能の把握には時間かかるわ」
プロ仕様の本物の撮影カメラじゃない。
そんなものを異世界人なのに扱えるって、本当にモミジの技術把握能力はチートだね。
「まぁ撮影とかは、私にはどうでもいいし。好きに撮ればいいや。それより早く行って、まだ生きている人達を助けよう」
『うむ、すぐ転移で送ってやる。だがその前にもうひとつ。咲夜と真琴の本名は明かせん。よって二人の呼び名と、ついでにチーム名を決めておこう』
「故郷で名ぁ名乗れんなんて、いったい何やらかしたんや。お二人さん」
「聞いてやるなモミジ。やらかした過去は聞かないのが冒険者の流儀というものだ」
何もやらかしてないからね! こんな力を持っている人間が、こっちの世界では異常だから隠したいだけなんだからね!
チーム名は【妹はつらいよ】にしよう。お兄ちゃんの使命で苦労させられっぱなしだし。
『というわけで、オレがナイスな名を考えてやった。その名も……』
ゴクリ。お兄ちゃんのセンスに期待していいのかなぁ?
『【ふたりはカリギュラ】だ!! そして咲夜は【ギュラブラック】、真琴は【ギュラホワイト】と名乗れ!』
「ぶっ!! ぶげらっ!!!」
おもちゃ会社の開発部長とかが、女の子向け商品名を無理やり考えて、失敗したような絶悪なネーミング!
ぶっちゃけ、ありえなーい!!!!




