36話 ダメだ、なにを選んでもBADENDになる気がする
――ダメだ、なにを選んでもBADENNDになる気がする。
拒絶するか、ヤツを信用するか、ここで決着をつけるか。
三つばかし選択肢を考えたが、どれも先行きに暗雲がたちこめている気がする。
ジリジリと焦燥にかられながら、巨大な転移魔導器を目を凝らして見やる。
いったいアイツの狙いは何だ?
さっき語ったアイツの話は本当なのか?
この魔導器は、本当に魔族どもを魔界へ送り返すものなのか?
ダメだ。何度見ても私にコレの機能なんてわかるはずがない。
私にモミジみたいな魔導具の機能を視ることのできる【錬金鑑定眼】とかあればな……
「あっ」
モミジを連れてくればいいんじゃないか!
そうだ、なんで私一人で事を決めようとしてんだ。
こういった複雑機構はもはや専門家に調べさせるのが一番。
ようし、モミジにまかせちゃうぞ!
「コレを仲間にも見せていいかな」
「なんですと?」
「判断がむずかしいからね。仲間にコレを見せて相談したい。悪いかな?」
「フム……まぁよろしいでしょう。じっくり相談してお決めになってください」
よしっ、この選択で悪い予感はしない。BADENNDにつながる選択肢はまぬがれたと思う。
◇ ◇ ◇
「―――と、いうわけなんだ。奴の言っている転移魔導器の説明が本当かどうかモミジに見てほしい」
みんなが待つ外へ出て、中の様子とモミジについて来てほしい旨を説明。
「おおっ、世界線転移魔導器やと!? そういう事ならまかせといてくれや。ウチの錬金鑑定眼で宝物庫のドえらい魔導器というのを視てやるわ!」
おおうっ、ノリノリですごく良い顔。モミジは本当にカラクリが好きだねぇ。
しかし、こういった物が好きなのはモミジだけではなかった。
「待て待て、二人で行こうとするな。そんなすごいモノがあるならオレ様も見たいぞ。オレ様もついていってやる」
そう言って同じようにノリノリに乗り出してきたのはラムス。
いつも面白そうなことを探しているヤツだから、宝物庫を見たがるのもわかるんだけどね。
「別にラムスはいらないんだけど」
「うるさい! そんな面白そうなものをサクヤとモミジだけで見るなど許せん。オレ様も行くぞ!」
「……まぁいいか」
とりあえず宝物庫の中に罠の類はなかったし。
ラムスもそれなりに腕は立つから、いざという時に足手まといにはならないだろう。
「はぁ、しょうがないな。それじゃ三人で行ってくるから待っててくれ。アーシェラ、みんなをまかせた」
「うん、気をつけてね」
「サクヤ様。お待ちしています」
「さっさと、かたずけて来い。早く帰って、あの女ブッちめてやりたいからな」
ラムスとモミジを連れてふたたび宝物庫へ戻ったが、やはりというか二人はそこに集めてある魔導具に大はしゃぎだ。
「おおー、これが魔人王の宝物庫! さすがドえらい魔導具が満載やなぁ。むむむっ、コレは伝説呪物のアレ! それにコレは幻の至高のソレ!」」
「わはは、ヘンな物がいっぱいあるぞ。これが魔人王の宝か」
「はいはい、いちいち足を止めない。君に見てもらいたいブツはこっちだよ」
ラムスははしゃぐままに放っておいて、モミジの手を引いて宝物庫の最奥の転移魔導器の場所に連れていく。
「おおっ、これはスゴイわ……」
しばし茫然と見やるモミジ。シロウトの私でさえこの複雑な機構のコレには圧倒されたんだから、モミジにはスゴイご褒美だろう。
「ああ、それとコイツも見てくれ。これがこの魔導器のエネルギーになるらしいんだけど」
聖者の石を取り出し、モミジの鼻先にかざす。
「…………なるほど。えらい生命エネルギーが凝縮されとるわな。たしかにコレなら、このデカブツも動かすに足りるアシになるわな。さて、こっちの機構はもうちっと詳しく見せてもらわんとな」
モミジはさっそく転移魔導器にとりつき、あちこちを調べてまわる。
「魔力エーテルチャンバー……霊子励起プラグ……エレメンタリィ樹霊胚呪……デオグラマトン干渉波動狐火……そしてこれは時空跳躍縮退炉? 信じられん完成度や! それをこの神聖秘文で補強しとるんやな。”離れ、辿れ、跳べ、果てへ至れ”……」
モミジのその様子をルルアーバは感心したように見ている。
「フム、あのお嬢さんはかなりの……いえ、人間内で最高峰の錬金術師とお見受けします。まさかあのお年で、あれを構成する機構を理解できるとは……いえ、サクヤ様の眷族でありましたな」
「なんなの、私の眷族って。そっちの世界のお仲間関係とかと勘違いしないで。モミジは普通に友達だよ」
肉体関係はあっても友達だよ。ちょっとただれているけど、そうなんだよ。
やがてモミジは魔導器の調査を終えると、コンソールの席に「ドカッ」と座った。
「コイツは間違いなく世界線跳躍システムと見てええな。もし想定通りに動くんやったら、世界線の壁越えて別の世界行けるわ」
「じゃあルルアーバの説明に騙しはなかったってことか」
「ま、そうなんやけどな。ただコイツは上の魔物どもすべてを別世界に送ることは出来るやけど、別世界からその世界の住人を大量に召喚することもできるんや。その辺、慎重にならなあかん」
「ふうん?」
ジロリとルルアーバを睨んでみる。
「ハッハッハたしかにそのような使い方もできますな。しかし拙者ルルアーバ。誓ってそのような言葉をたがえる使い方はいたしませんぞ」
うーん……コイツのことは信用できないけど。かといって、アレを動かせるのはコイツだけだしなぁ。
「モミジ。アイツの操作を見て、ちゃんと魔族どもを送り返すか分かる?」
「いっそ操作はウチがやれば間違いないやろ。サクヤはん、聖者の石を渡してくれな」
「ええっ! 調べただけでコレを操作できんの?」
「バカな……この機構はかなりの難物。一見しただけでお嬢さんに出来ると?」
ともかくもモミジの言う通りに石を渡すと、モミジはそれをコンソールのとある収納場所にセット。そして流れるような指さばきでコンソールを操作する。
と、「ヴイイイイ」と魔導器は起動を開始した。
「……本当に調べただけで操作法までわかったのですか。なんというお嬢さんだ」
しかしモミジの指は途中で「ピタリ」と止まった。
「ええっと……魔界ってどこにあるんや? ルルアーバはん、この魔導器の中には魔界の座標位置が入っておらんのやけど。その情報はどっから引っ張ってくるんや」
「聖者の石から位置情報を抜いてください。成功したなら、おそらく入っているはずです」
成功したなら? いや、そもそもどうして聖者の石の中に魔界の位置情報なんかが入っているんだ?
「おっ、本当に入っとる。うしっ、これをメインに入れて……サクヤはん、成功したで。まもなく世界線跳躍がはじまるはずや」
ズズズ……ガクガクガク
いきなり宝物庫の壁や床が大きく揺れはじめた。
「魔族どもを魔界へ送り返す機能が働きはじめたのか。しかし、ちょっと揺れすぎじゃないの?」
「そりゃ上の魔族ども全部を魔界に送り返すんやからな。こんくらいの振動は当たり前や。ええっと、転移範囲は……あり?」
「クルン」とこちらを向いたモミジは、ものすごい青い顔をしている。なんか涙まで流しているような?
「ル、ルルアーバはん? これ、もしかしてこの皇城閣ごと転移する魔導器なんかな?」
「ええ、その通りです。お嬢さんの見事な指捌き、操作技術に見惚れて、言うのを忘れていましたよ。いや、失敬失敬」
ギャアアアアアアッ! 失敬失敬じゃねーよ!!!
「急いで出よう! モミジ!!」
モミジは立ち上がるも「ステン」と転んでしまった。
「こんの揺れん中で走るなんて出来へん。サクヤはん、助けて!」
ああ、剣術スキルを持っている私みたいな平衡感覚はないか。
モミジをお姫様抱っこで抱え上げ、宝物庫の出入り口へダッシュ。
「宝物庫の扉は、中の安全のため間もなく閉じて開かなくなります。お急ぎください」
ルルアーバを心の中で千回ほど斬りながら全力疾走。
宝物庫の出入り口が見えると、扉は自動で動いており半分ほど閉じかけている。
ギギギギギ……
くっ、ギリギリだ。扉で体が潰されないよう、さらにダッシュを……
―――「サクヤぁ! オレ様も助けてくれえっ! 床が揺れすぎて走れーん!」
こ、この声はラムスゥゥゥ!?
『ラムスもそれなりに腕は立つから、いざという時に足手まといにはならないだろう』
――なーんて考えてた時の自分を斬り殺したい。
思いっきり足手まといだよ!!!




