30話 その頃の王都
【真琴視点】
侍女の朝は早い。
よその家の新参者だろうと、主や執事の前の起きて城中をホコリ一つなく磨き上げ、城の権威を保たねばならない。
「ふあーあ眠い。セリア様ってば早く寝かせてくれないかなぁ。あんな聡明で美しいお方が、どうしてこうメチャクチャ求めるんだろ」
やっぱり私を預かった理由は、夜のお相手が目的だった。
毎夜セリア様のお相手で夜が遅い。
「ああいう女ほどドロドロしているのだ。ラムスの奴が総督をクビになってから、まったく通わなくなったのもあるのだろうな」
ふいに股下のあの部分から声がする。
なんでもこのおち〇ちん、サクヤさんのお兄さんの岩長さんのモノとつながっていて、こうして連絡もできてしまうのだ。
「ちょっと! 岩長さん、誰もいないからって話しかけないでください! いつ誰が来るかわからないんですから」
「心配はいらん。この声が聞こえるのは貴様だけだ。空気ではなく貴様の骨を振動させて声としているのだからな」
「そこに岩長さんが居るのを忘れたいんです。乙女心が泣いてるんですから」
あの日以来、岩長さんは遠慮なく話しかけてくるようになった。
おち〇ちんが話すことに慣れるまでは精神ダメージの連続だったよ。
「オレも紳士としてその辺はわきまえているがな。この象さんはエロスなイベントが起きる予兆がすると、自動的につながるよう設定してあるのだ」
女の子にこんな卑猥なものをつけて、女性の相手をさせて変態道に堕とすのが紳士? 紳士の意味がわかんないよ!
「あ、でもエロスなイベントって? 今は朝方で、そんなもの起きるはずが…………うひゃあっ!」
ふいに背中から抱きしめられた。柔らかい感触から女性らしいけど、その手は胸とおち〇ちんをまさぐっている!
「ふふーん。久しぶり、マコトちゃん。ここで侍女とかやってるって話、本当だったのね。この胸、本物ね。両方ついているなんて、トンデモな子だったのね」
「シ、シャラーンさん?」
「ちょっと! どうして胸と大事な所を揉んでいるんです。痴女ですか?」
「ゴメンね。カワイイ子には我慢できないタチなの。その代わり、しっかりじっくり愛してあげるから」
「だからダメ……仕事中だし、こんな所で……」
シャラーンさんの後ろには七賢者という役職のバニングさんが、あきれたように見ている。
「コホン、シャラーンはん。姫殿下お抱えの侍女にあまり悪ふざけはやめといてくれんか。客分の分は守ってほしいもんですな」
「ふう残念。ま、姫殿下に早く聞かせなきゃならない話もあるし、仕方ないか。それじゃ、またね。マコトちゃん」
シャラーンさんがセリア様の部屋に入ってほっとすると同時、あんな悶えた顔を男の人に見られたことに落ち込む。
「ううっ、あんなエッチな顔を男の人にも見られるなんて」
「気にするな。女につつしみは大事だが、そういう不意のサービスも男のごほうびに必要なのだ」
「そんなサービス提供する女になんかなりたくない!」
「ところで真琴よ。同僚の侍女とシケこんだりせんか? シャラーンの指テクでハンパに硬くされて辛抱たまらんのだ」
「しませんよ! 同僚の子とそんな関係になったら、どんなことになるか」
「む……たしかにここで手を広げるのはイカンか。仕方ない、ひさしぶりにデリヘルでも呼ぶか。ヤバいテクのある女だから、真琴もしっかり味わうがいい」
ヒイイイイッ!? 私はいま仕事中だってのに、ナニ味合わせようとしてんのよ!
「お、お願いだから、今だけは冷やしておさめてください! そっちでエッチなんかしたら、私はここで悶えた姿をさらさなきゃならなくなります!」
「そうか、そっちは仕事中だったな。しかしシャラーンがここに来たということは、何かしら情報をつかんだのだろうな。面白いことになりそうなら介入するぞ、真琴」
シャラーンさんの持ってきた情報で、また何か起こるのかなぁ。
これ以上のイベントはカンベンしてほしいんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇
【セリア視点】
わたくしの執務室に入ったシャラーンさんは、意味深な面白そうな顔をしてわたくしを見ます。
「マコトちゃんを侍女にするなんてセリア姫殿下もやるわね。ラムスちゃんは知ってるの?」
「どうしてわざわざ彼に言う必要が? サクヤ様の前の戦いのお礼に、彼女に縁のある子に王室の礼儀作法を教えているだけですが?」
「ふうん? ま、いいわ。それより、あの女の対策はできてんの? ずいぶん、きな臭い動きをしてるわよ」
あの女……ユリアーナですね。
やはりシャラーンさんはの訪問何か情報をつかんだからですね。
「何か有用な情報でもいただけるのでしょうか?」
「アタシもあの女にはさんざんな目にあってるからね。とにかく足を引っ張るネタがないか嗅ぎまわっているワケよ。そしてその情報を買いあげてアイツに痛い目見せてくれそうなのは、姫殿下しかいないのよね」
「良いでしょう。有益な情報ならば価値に応じてお支払いいたします」
「そうね……まずは『マーレイド商会』ってのを知っている?」
わたくしは国内外の商会の記憶を手繰った。だけど、その名は知らない。
「いいえ。国内外の有力な商会は熟知していますが、そのような名前の商会は存じません」
「そこから? だったら、かなりの額をいただかないとね。ハッキリ言うけど、姫殿下はあの女の工作を何も知らないわよ」
わたくしはため息をついてわたくし付の侍女を呼んだ。そして指でこれだけ用意しろと合図をする。侍女は一礼をして出て行き、戻ったときにはかなりの金貨を捧げ持ってきた。
「こんなに? さすがは姫殿下。情報の価値をよく知っておられますね」
「下手な値段交渉で時間を潰したくありません。これで知っていることを全てお話しなさい」
「いいわ。マーレイド商会ってのは、最近できた新興商会。でも実際はあの女が設立したものね。で、それの動きを追ってみると、商会を通じてかなりの数の貴族を抱きかかえているわけよ」
そんな話はゼイアードから聞いていなかった。
おそらく彼は囮。側近という立場を与えられていても、裏切ることは想定されているのだろう。
やられました。ユリアーナの側近という彼の立場を信じすぎて、地道な情報収集を怠っていた。
「それだけでなく、隣国のイーディスア王国にも通じているみたいね。軍備品がかなり動いているわ」
「軍備? ドルトラル帝国はもう滅んだのに、どうして?」
イーディスア王国は長く対ドルトラル帝国のために同盟を結んでいた国だ。そのドルトラル帝国が滅んだ今、軍備を増強するような理由はないはずなのに?
「わからない? 今この国はかなり手薄でしょ。サクヤちゃんみたいな腕のたつ連中は帝都の調査に行っちゃってるし、王様も兵団をつれてモンスター退治のご遠征。さて、守りは?」
「――!!! まさか? イーディスアとは何年もの友好関係を築いています。それが、いきなり悪化するなど!?」
「それもドルトラル帝国があったからこそでしょ。帝国が消えたいま、どう心変わりするかお考えになりませんでした?」
バサリ
彼女は冊子をわたくしの前に出した。
「これはアタシがまとめたマーレイド商会の資料。新興なのになぜか資金が豊富で、イーディスアをそそのかしているフシがあるわ」
ペラ……ペラ……
ページをめくるたびにユリアーナの工作の痕跡が見えてくる。
「くっ、あの女妖魔……!」
その報告書にはマーレイド商会の貴族への働きかけやイーディスア王国の接触が事細かに記されていた。そしてなぜか莫大な資金がどこからともなく動いているのだ。莫大な資金……?
「そうか、帝室財宝! あの女がそれを手にしているならば!」
「どうやらゼイアードはあの女に食わされたみたいね。おかげでサクヤちゃん達は遠く帝都に行っちゃったし、国王陛下は王国軍の精鋭を連れてご出陣。しかけてくるわよ」
やられた!
裏切りを見越してゼイアードにアルザベール城の財宝の話を信じさせたのでしょう。じっさいは自分が握っておきながら!
と、バニングさんが「姫殿下、失礼堪忍や。緊急事態が起こりましたで!」と叫んで部屋に飛び込んできた。わたくしはかまわず指示を叫んだ。
「すぐにイーディスア王国との国境を固めなさい! それから帝都調査隊はクエストを中断して帰還するよう早馬を!」
「なにか情報をつかみましたか。せやけど遅かったです。すでにイーディスア王国から宣戦布告をされました。そして国境のラウシュビル砦に攻撃がくわえられたそうです」
「あらら、アタシも出遅れたわ。これだけの工作をこの速さで実行できる才覚。アイツ、想定よりはるかに手強いわよ」
くうううっ、完全にやられました!
あの女、謀略の天才なのですか!!?




