13話 領主からの召喚状
「なんだ、呼び出してクエストかと思いきや、手紙だと? つまらん。内容だけさっさと話して捨ててしまえ」
ノエルが治癒魔法をかけてくれたお陰でたちまち復帰した私。
いつものようにラムスとギルドに来ると、マスターのギーヴから呼び出されて手紙を渡されたんだけど、ラムスのこの態度ったら。
「そんなこと出来るか! 相変わらず不遜な奴め」
「誰からです? きれいな紙ですね」
動物の皮の紙やら品質の悪い紙がほとんどの中で、この紙はやけに上質だ。
「こんな手紙なんざ出せる奴は限られているだろう。ここらで一番えらいお方さ」
「オレ様だな。しかしオレ様は、そんなものをサクヤに出した覚えはない」
「ボケか? このお方の前でそんなバカ口はたたくなよ。このリーレット領の領主様だ。こいつは召喚状。お前らは領主様に呼び出されたんだよ」
領主様といえば、第二目標の令嬢ロミアちゃんを思い出す。
ようやくきっかけキターーッ!
「それは、すごいですね。でも、なぜ領主様ともあろうお方が、ただの冒険者を呼び出されるのです?」
「ただの冒険者じゃないだろう。お前さん方【栄光の剣王】は、領主様のクエストをダントツでこなしている。しかも先日は、領主軍さえ手をやいた【フレスベルク】を倒している」
「フハハそうか、領主もオレ様たちの実力を認めざるを得なくなったというわけか。英雄の名声にたかる気満々だな。そして次期領主をオレ様に頼みにきたというのだな」
「後半以外は当たりだ。何度も言うが、領主様の前でそのバカ口は閉じておけ。とくに次期領主様の話は冗談でも間違っても出すなよ。次期領主様だった坊ちゃんは、お亡くなりになってんだからな」
「しかし、呼び出してどうするつもりでしょうか?」
「知っての通り、この国は隣のドラトラム帝国と不穏な情勢だ。そして領主様は隣接してる関係で、強くて使える奴を求めている。サクヤ、多分だがお前さんは領主様に目をかけられたんだ。出世の機会だ。うまくやんな」
出世はともかく、令嬢のロミアちゃんに出会う機会ではあるね。
うまくやってエッチにもちこもう。
さて、手紙の内容だが、指定された期日に領主館へ来いというものだった。
偉い人の前に出る服とか買わないといけないね。
しかしラムスはプリプリ怒っている。
「ええい、まったく召喚とは面倒な。いったい何様のつもりだ、このオヤジは」
「何様って……領主様でしょ。そんなお方に呼び出されたら行かなきゃいけないじゃない。私達はただの冒険者なんだから」
「オレ様は英雄だ。ここら一帯の狂暴なモンスターを根こそぎ退治して領内に安寧をもたらした男だぞ。そんな権力者の横暴など知るか!」
ラムスが倒したのって、この間のフレスベルクのトドメを刺したやつだけじゃん。
「英雄だからこそ礼儀や立場はわきまえないとダメだよ。いくら強くても、ただの野蛮人に与えられる名誉なんてないんだから」
「ふん、これも英雄の道として必要なことか。しかたない。けったくそ悪い礼儀作法を今だけは思い出してやるか」
小国の王と言っても差し支えない領主様に、こんな不遜なことを言うラムスって、どこのお坊ちゃんなのかね。
ゲームでもその辺は、ぼやかされてて、私も知らないんだよね。
しかし、だからこそラムスと組んだ甲斐があるというものだ。
どんなに強くても、ただの冒険者では権力者に一方的に使われるだけ。
権力者でも一目置かざるを得ないラムスがいるからこそ、深層の令嬢にも会えるのだ。
◇ ◇ ◇
さて、召喚に指定された当日。
私とラムスは、買ったばかりのドレスと紳士服に身をつつみ、領都アンブロシアの領主館へ赴いた。
その館を、いや正確には高い塀をみて思わず固まってしまった。
小さな村なら余裕で入るであろう広大な敷地にグルリと高い塀が囲んでいるのを見て、呑まれてしまったのだ。
門前で物々しく槍を立てている守衛に近づくと、槍を交差し誰何される。
ラムスをしゃべらせると怖いので、口上は私がやろう。
「ご領主様の召喚に応じ、【栄光の剣王】ラムスとサクヤ、ただいま馳せ参じました。どうかご領主様にお目通り願います」
口上を述べ召喚状を見せると、彼らは槍を元の位置に戻した。
「【栄光の剣王】か、聞いている。ただいま侍女殿が来られる。案内は彼のお方がなされる故、ここで待たれよ」
「なんだ、オレ様を待たせるとは……ムグッ」
危険を察知して、すばやくラムスの口に手をやる。
やれやれ、領主様の館でもこの調子か。
いちおう私に上流階級への作法を教えたのはラムスなのに、本人がまったく出来ていないというのは、どういうことだ?
やがて程なくして、身なりのよい婦人が来た。
「お待ちしておりましたラムス様にサクヤ様。レムサス様付侍女のマーセイアと申します。ただいまレムサス様の元へご案内いたしますので、その先は彼のお方にお聞きなされますよう」
「ええい、まだるっこしい。さっさと……ムグッ」
ちょっと口を押さえるのが遅れた。
放り出されなきゃいいけど。
侍女さんは聞かなかったフリをしてくれて、案内してくれた。
そこはいかめしい大きな扉のある部屋の前。
そこに先日フレスベルク退治で出会ったレムサスさんが、仕立ての良い燕尾服を着て立っていた。
「ようこそラムス様にサクヤ殿。わが主、領主キンバリー様および次期領主様はすぐお会いになられるそうです。どうかよき関係を築かせていただきますよう」
あれ? 次期領主はお亡くなりになったって、ギーヴさんが言ってたけど。
レムサスさんが扉を開けて私達を中に入れてくれると、二人の人間が迎えた。
「よく来た。久しぶりだラムス君。そしてあらゆるモンスターを斬り伏せてきた剣豪サクヤ殿、会えて光栄だ」
応接室のソファーに座る、明らかに上流階級の者である初老の紳士のその後ろ。
そこには輝くような肌と髪の美少女が立っていた。
髪は肩までの長さできれいに切り揃えている白銀。
細い体だけど、胸はほどよくふくよかで。
透き通るような笑顔は輝くようだった。
ああ、そうだ。
領主様のプレッシャーで、ゲーム設定のこととかすっかり忘れてたよ。
たしかに彼女の立ち位置はそうだったが、兄弟が亡くなったためだとは知らなかった。
「次期領主にしてキンバリーの娘ロミアです。お久しぶりですラムスさん。はじめましてサクヤさん」
二番目の目標の彼女は、まるで本物の天使のように微笑んでいた。
キャラが上手く動かせない場合、名前を変えてしまうことがあります。
前作のシーザもそうだったし、今回はロミアをロリアから変えました。




