16話 ボーイ ミーツ ダンサー【シャラーン視点】
深い沼のようなまどろみから目を覚ました。
アタシ、なにしてたんだっけ?
……ああ、ラムスちゃんと酒場に行ってたんだっけ。
でも、いつの間にか意識がなくなっちゃって……
「ああ、起きたんですか。よかった。このまま目が覚めないかと心配でした」
目が覚めたアタシに声をかけたのは、見知らぬ男の子だった。
”美少年”と言っていいくらいにきれいな男の子。
やっぱりアタシ、すでに死んで天国にいるのかしら。
「君は?」
「あ、私は南沢真琴っていいます。ええと、サクヤさんのお兄さんに雇われて、ここに仕事できました。それでサクヤさんに、あなたの看病を頼まれたんです。大丈夫ですかシャラーンさん? 酒場で倒れたって聞いたんですけど」
サクヤちゃんの縁の子か。
そういや、髪も瞳の色もサクヤちゃんと同じ黒だ。
故郷に帰っているって聞いてたけど、この子といっしょに帰ってきたんだね。
「そっか、気を失っちゃったんだ。アタシももう終わりみたいだからね。最期なら、踊って踊って踊り抜いてから死のうと思ったんだけど……それも夢だったみたいね」
「きっと良くなりますよ。ご飯とかちゃんと食べてしっかり療養すれば。何か食べます? といっても、ここの食材とか初めて見るんで、適当に焼いたり煮たりしかできませんけど」
「ありがとう。でも、いいわ。食べたくないもの」
「無理にでも食べたほうがいいですよ。そんなに痩せちゃって。スープを作りましたから、もってきますね。待っててください」
見た目通りに性格も素直そうだ。
ああ、ヤバイな。
人生の最期に、こんな男の子と出会っちゃうなんて。
「待って。それより聞きたい事があるの。君ってサクヤちゃんの彼氏?」
「え? いや違います! サクヤさんとは……ええっと、雇用関係ってやつです。それに私は……」
「ふぅん……だったらいいかな」
「なにをです?」
ふいにマコトくんの手首をつかんで、ベッドに押し倒した。
「ちょっ! シャラーンさん、ナニを!?」
「君って童貞だよね? 反応かわいいし」
「い、いや私は女……」
「………ふうん。しゃべり方が妙だと思ったけど、精神的女の子ってやつ?」
たしかに女の子にも見える。
けど、アタシの握っている硬いコレは、たしかな男の子の証。
「でも、もったいないよ。君のここ、こんなに男の子なのに」
ギュムッ
「あっ、やめて! それって私のじゃないのに、なんで痛いの?」
「ふふっ、可愛い顔してんのに立派なの持ってるんだね。ホラホラ♡」
ギュムッギュムッ
「うわああああっ痛い、やめて!」
「君はやっぱり男なんだよ。自分のこと『ぼく』って言ってみなさい」
「い、いや、だから違うんです! 私は女で、それは……」
「あ、逆らうの? ナマイキ。そんな奴はこうだ!」
シコシコシコシコシコシコシコ
「ヒイイイイッ、こすらないでえ! ヘンな気分になる!」
ゾクゾクッ
ああ。いちいち女の子みたいな表情するなぁ、この子。
なんか妙に興奮してきちゃった。
「ふふっ、じゃあ、そろそろ君のココに教えてあげようかな。女を」
「ええっ!」
「最中に死んじゃったらゴメンね。トラウマになるかもだけど、強く生きて」
「うわあっ、それはイヤだ!」
心の中でもう一度あやまって、アタシはゆっくり腰をおとしていった―――
―――「あれ?」
お腹の中に「ドビュッ」と感覚がきた瞬間だ。
急に疲労感や脱力感が消えてなくなった。
かわりに来たのが猛烈な空腹感、飢餓感。
「お、お腹すいた!」
「ハァハァ。こんなこと無理やりして、自分の上でさんざん踊っておいてナニを?」
「ゴメン。なんか急に治ったみたい。でも、このままじゃ空腹で死にそう。お願い、ゴハンちょうだい」
「わ、わかりました! とりあえず、さっき作ったスープを温め直しますから待っててください。あれ? パンツはどこに?」
「フルチンでいいから早く! いまはプラーンとしたの気にする余裕もないわ!」
「わ、わかりました! ううっ、こんなガリガリの体で、どうやってあれだけ腰をまわせるんだろ」
マコトくんは下半身裸の状態でフラフラと部屋から出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇
――――「と、いうわけ。どういうわけかマコトくんと人生最期のえっちをしてたら、いきなり治っちゃってね。ガツガツ」
しゃべっている間も、食事をする手は止まらない。
これ、ぜったい体重にクルよね。
「あああ、我が家の食料をあんなに。あとで食べた分のお金はいただきますからね」
「いやそれより、えっちしたら治ったって、どういう事だろう?」
ムシャムシャバリバリ。
「…………おそらくやが、あの錬成男根の力やな。アレには神力のようなモンを感じる。それがシャラーンはんの体内の悪しきモンを打ち消したと考えられるわな」
パクパクモグモグ。
「まぁ治ってなによりです。セリア様の病を治す方法も見つかって、問題もひとつ解決ですね」
「ちょっと待って。病を治す方法って、アレだよね? セリアさまと真琴ちゃんをやらせるの? それって王家につらなる女性の貞節を奪うとかだよね? 大丈夫なの?」
ゴフッ! 喉につまった! 水、みず!
「あっ! 大丈夫やない。ヤバいわ、それ!」
「ううむ。少し面白くないが、それであの厄介な病が治るのならな。ま、問題なかろう」
「いやいや問題大アリや! 婚姻前の王家女性への姦通罪なんて前代未聞や! やらせたらマコトはんも、そそのかしたウチらもそろって処刑や!」
ゴクゴクゴクッ
ふい~っ、助かった。さすがにペース落とさないと死ぬわ。
「あ、でも婚前前のセリア様との姦通なら、以前にラムスがやったよね?」
「あれはキサマだろうが! キサマがオレ様に化けてやらかしたことだろうがぁ‼」
カチャン
ようやく飢餓感がおさまったわ。
でも、あっちはまだ揉めているわね。
そういや、ドルトラルからとんでもない女を連れてきちゃったんだっけ。
まぁ、あの女をどうするのかは、後で考えるとして。
今は、みんなが揉めている間にマコトくんと続きをしようかな。
感謝の意味をこめて、思いっきりサービスしてあげたいしね。ウフフッ。
「ごゆっくり。じっくり時間をかけて話をまとめてね」
アタシは立ち上がって揉めている居間を後にした。




