14話 シャラーンの病
シャラーンは宿屋で寝かせているというので、我が家で療養させることにした。
そして宿屋に行って彼女の様子を見たのだが、あまりの悲惨な変わりように驚いた。全身が痩せこけ、顔は青白く、手足は棒のようだ。
「ひどいな、意識すらないなんて。それにこんなに痩せちゃって」
「お前の家に来るときまでは意識はあったし、歩くこともできたのだがな。衰弱が限界にきたらしい。もう目を覚まさん」
ともかくラムスが彼女を背負って我が家へ向かったのだが、運んでいる最中にも彼女は目を覚まさず、ずっと眠ったままだった。
ラムスの言う通り、このままでは死んでしまうかもしれない。
我が家に戻ると、モミジの姿を見るなりラムスはどやしつけた。
「おいモミジ! きさまは何をしに来たのだ? サクヤが戻ってきたというのに、まったく何の説明もしておらんではないか」
「ああっ! そ、それはやな。その……サクヤさんの連れたきた娘さんについ夢中になってまってな。そんで、その……いつもの流れというか、みんなで仲良うなってしまって……」
「ふん、要するにまた女同士でイチャコラして話を忘れたわけか。変態どもめ。こんな時くらいわきまえろ」
「はひ……反省してます」
違いますぅ。真琴ちゃんの象さんでトチ狂った変態はモミジだけですぅ。
なのに『変態ども』って、私まで同類に見られちゃって。
それにしても真琴ちゃん、かわいそうに。モミジにいじめられて、あんな切なそうな顔をしたりして……ムラッ。
「おいサクヤ、気持ち悪い顔で気持ち悪い妄想はかどらせてるんじゃない! シャラーンを寝かせるベッドをさっさと用意しろ」
ハッ! 真琴ちゃんのエッチな妄想で、気持ち悪い顔になってた?
シ、ショックだ……自覚はなかったけど、マジ変態かもしれない。
ともかくシャラーンを客室のベッドに寝かせて、モミジが診断開始。
「モミジ、何かわかった? 原因は何なの?」
「わからん。ざっくり症状を説明すると、発熱、下痢、嘔吐のような症状は何もないにもかかわらず衰弱がとまらん。病になるような毒も虫もあらへん。ドルトラルに行った時の病にしては、遠征組に他に症状の出た者はおらん。奇妙な病や」
「ノエル。とにかく大快癒をかけてみて」
ノエルには先の決戦前に万一のことを考えて治癒魔法のレベルをレベル8まで上げておいた。
結局その時はあまり使うことはなかったが、たいていの病気なら治せるはずだ。
「こちらへいらした時に試みたのですが。とにかくもう一度やってみます。『大いなる安寧をもたらす白き者。来たりて慈悲の御手をかざし癒せ癒せ”大快癒”』」
シャラーンの体は眩く白く発光した。
この術は体の傷を癒すと同時、体に何のダメージを与えず体温を百度近くまで上げる。
最近でもウイルスでも寄生虫でも死滅するはずだ。しかし……
「やっぱりダメですね。術が効かないというより、シャラーンさんは健康そのものなんです。なのにこの衰弱。わけがわかりません」
「そや。ウチが診ても体の反応は健康そのもの。衰弱の理由が見当たらんのや」
なんてこった。治癒魔法チートのノエルと解析チートのモミジがお手上げだって?
これはどうしようもない。覚悟しなきゃならないかもしれない。
「とにかく治療はふたりに任せるとして、私は食事を考えるよ。新しい同居人が病人の世話を経験したことがあるから、彼女と相談して」
カラーン カラーン
おっと、玄関先につけてあるベルが鳴った。こんな時に誰か訪問客らしい。
用件をうかがわせにノエルを行かせた。
治療に専念させたいノエルに行かせるのは気がひけるけど、これも訪問客はまず使用人にうかがわせるのが風習だからね。
ノエルは戻ってくると言った。
「リーレット領領主さまからの使いです。王城の情勢に不穏があり、サクヤさまが帰っていらしたようなので至急相談にのってほしいとのことです。あとラムスさんとモミジさんがこちらに来ているなら、共にいらしてほしいとのことです」
「なんや、ロミアはん、ウチらが来てるのも知っとんのかい。ま、領門衛兵に名前言って通ったしな」
あ、ヤバ。私、帰ってくるとき領門通らないで来ちゃったよ。
現代日本に転移だから当然なんだけど、やっぱマズイよね。
「ふん、用件があるならそっちから来い。わざわざ人を呼びつけるとは何様だ、ロミアのやつ」
「いやだから、領主様でしょ? 向こうにも立場があるんだから、友達だからって向こうの立場を蔑ろにするのは良くないよ」
ともかく、みんなを至急に呼ぶというのは、なにか不穏な感じがするね。
これは、すぐに行った方がいいかもしれない。
「じゃあ、ロミアちゃんが呼んでいるし、みんなで行ってくるよ。ノエルはシャラーンを頼んだよ」
「それが……私にもお役目があるそうなので、私も同行するようにとのことです」
「なんだって? 弱ったな。だったらシャラーンはどうしよう」
「このまま寝かせておけばよかろう。どうせ寝ているのだから、オレ様らが行っている間くらいこのままでもかまわん」
「かまわなくありません。そういや、ラムスはこの調子でシャラーンを放っておいて酒場とか行ってたよね」
まったく。私は病人を放ってなんて行けないんだよ。誰か人を頼んでくるかな。
「あの……マコトさんはどうでしょう? 彼女にシャラーンさんの看病をたのんでいかれるというのは?」
「真琴ちゃん?」
たしかに彼女はこの家に置いておかなきゃならないし。
それに家事も一通りできるそうだし、お母さんの看病もしてたそうだから、うってつけだけど。
ちょっと不安だなぁ。
「どうしたサクヤ。その故郷から連れてきたというガキには、まかせられんのか?」
「いや、領主さまのおよびなら一刻も早くいかないとね。真琴ちゃんにまかせるよ」
まぁ普段のシャラーンなら、危険すぎて家で真琴ちゃんと二人っきりになんてしないんだけど。
シャラーンはこんな状態だし、何もおこるはずがないよね。
よしッ。みんなでロミアちゃんの所へ行くぞ。




