11話 心を守る騎士
異世界に帰還した私。そして来訪者の真琴ちゃん。
そこは、最初にこの世界に飛ばされてきたリーレット領【ハージマル大森林】だった。
そこから、ばっさばっさモンスターを倒して森を抜け、街に出てから馬車を拾ってわが家へ帰宅だ。
この”わが家”というのは、ザルバドネグザルを倒した報償にロミアちゃんが手配して建ててくれたものなのだ。そこに羊族獣人のノエルと暮らしている。
もちろん真琴ちゃんはこんな普通なことにも驚き、いろいろ質問しようとしたが、『質問は家に帰ってから』ということで黙ってもらっていた。
わが家にたどり着くと、ノエルが出迎えてくれた。
「サクヤさま! もう、心配したんですよ。たしかに故郷での滞在が40日ほどのびるって連絡はありましたけど、それっきり何の連絡もなくて」
「ゴメン。あっちから魔力伝信鳥を送るのははかなり費用がかかってね。一回が限界だったんだ」
こっちの世界の遠距離通信法は、魔法で作った鳥を飛ばして相手に送るというものなのだ。
それをお兄ちゃんに送ってくれるよう頼んだのだが、やはりかなりのリソースを使うらしく、一回きりだと言われた。
「それでサクヤさま。ちょうど今、モミジさんが来ているんですよ。王都の方で大変なことがあったのに、サクヤさまが居なくてどうしようって話をしてまして。帰っていらして助かりました。ところで、そちらの方は?」
「彼女は真琴ちゃん。ちょっとした義理でウチで預かることになったんだ。モミジに会う前に彼女と話したいから、待っててもらって」
王都で大変なことか。
気にはなるけど、真琴ちゃんに何の説明もしないで放っておくこともできない。
まずは真琴ちゃんを落ち着かせるべく、居間で二人っきりになった。
「サクヤさん。ここってどこなんです? 危険な動物のいる森とか何の対策もせず放置されてるし、街のようすもすごく古い時代の外国みたいだし」
「外国だもん。まだ発展途上の国なんだよ」
「それでも、車の一台もないって変じゃありません? ランプとか馬車とか現役で使っている風景はじめて見ました」
「そういう国なんだよ。地球上には、まだこういう場所もあるってこと」
真実を話すのはもう少し後だね。
「わかりました。ではもう一つ質問です。その……寝ている間、私になにをしたんです?」
ついにきたか。
それは邪神の最悪なイタズラなんだよ。
そのことで私が君にできることは、最悪の真実から君の心を守ることだけ。
「私に妙なモノがついているんですけど。いつの間にか外国に来てたことよりもビックリしました」
「さっきおトイレに行ったとき、死にそうな顔になってたものね。大丈夫、それは害になるモノじゃないから。仕事に必要なモノだから、つけただけであって」
「やっぱり! これってサクヤさんの仕業なんですか⁉ これって何なんです⁉ その……弟についているモノと、そっくり同じなんですけど!」
さぁ正念場だ。
私は君の心を守る騎士。
象さんなんかに君を絶望させたりはしない!
「それは”ペニバン”だよ」
そう、これで突き抜けるんだ。
たとえ、どれほど無理があろうとも!
「え、えええっ⁉ 私、今回の仕事のためにネット通販で購入したんですけど、ぜんぜん違いますよ! 少なくとも、ここまで本物みたいじゃありません!」
「マッドなサイエンティストが作ったマッドなサイエンス製だからね。これで男がいなくても安心。女同士だって子供もできる」
「そんなバカな! てか、そんなモノ私がつけたらシャレになりません! はずせないんですけど、どうすればいいんですか⁉」
「はずしちゃダメだよ。それがお仕事なんだから。一年後日本に戻ったら、はずしてあげる」
「そ、そんな……いえ、家族のためです。そういうお仕事なら、これでがんばります!」
ふう、どうにかごまかせた。
これから一年もごまかし続けるのは無理だろうけど。
でも、バレる限界までは騙し続ける。
バレる頃には、どうにか象さんとも折り合っていけるようになっているよね?
「それじゃ、話はこのくらいでいいね。ノエル、モミジを連れてきていいよ。話を聞こうじゃないか」
しかして「ガチャリ」とドアが開くと、そこに居たのは当のモミジ。
その隣にノエルは申し訳なさそうに立っていた。
久しぶりに見るオレンジの髪のおさげの女の子。
彼女は【七賢者】と呼ばれる国の最高魔法師のひとり錬金の賢者の孫娘で、彼女も将来はそれになる予定だ。
「もう来とるわ。さんざん待たせおってからに」
「やれやれ、ヒマだから立ち聞きしてたのか。君はいい所の娘さんだろ」
「んで、【ペニバン】って何や? 聞きなれん言葉やけど」
「え? 王都の一大事の話をしに来たんじゃないの? そんなどうでもいいことより、そっちの話をしてよ。私に何か頼みたいんでしょ」
「いいや、先にそのペニバンが何なのか説明せい! なんか、どえらいモンみたいやないか。マッドなサイなんとか製とか、女同士でも子供ができるとか。どないなモンかウチの目で鑑定したる」
ヤバイな。なんか錬金術師の知的本能を刺激しちゃったみたいだ。
こんなしょうもないことに、王都の一大事の話を脇に置いちゃっていいのかなぁ。
「わかった。簡単に説明すると、男性の性器を真似たハリ型のことだよ。けど、それを見せるわけにはいかないんだ。それは彼女のその……アノ位置につけたままで、取り外すことが出来なくてね」
「なんや。どないな大層なモンかと思いきや、女同士の恋人ゴッコのオモチャかいな」
「そういうこと。さ、早く王都の一a大事とかいう話を……」
「いや! それでもサクヤさんの故郷で作られたというモンには興味ある。姉ちゃん、悪いがちっと見せてくれや」
「ええええっ⁉」
やはり知的好奇心に駆られた錬金術師はおそろしい。
私が止める間もなく、モミジは真琴ちゃんの前ひれをめくり腰巻をおろす。
「いやああああっ!!!」
「こ、これはッ!!?」
『真琴ちゃんを守る』という誓いはぜんぜん守れてないね。
私って、こんなに無能だったかなぁ?




