5話 惑うイケメン少女【南沢真琴視点】
新キャラ紹介回です。
あとサクヤが普通の女の子からどう見えるのかも少し。
登校中、髪を男子みたいに短く切った私をみんなが見た。
とくに女子が熱い視線を送ってくる。
『うおっ、君なんで女子の制服きてんの? 罰ゲーム?』とかマジできかれた時はへこんだ。
けど、これを隠してコソコソしたりしない。
この髪は私の決意のあらわれ。
一か月後には女性と経験する身だから、女にモテることも悪くはない。
いつも感じる虚しさは消えないけど。
「うわー真琴ってば女やめちゃったの? その髪、男そのものじゃん。ちょっと男子の制服着てみてよ」
教室に着くなり友達の唯にも言われた。ま、言わない人間は居ないよね。
「ちょっとで男子から制服借りれないでしょ。でも『女やめる』ってのは近いかもね。私、新学期から一年休学するよ。唯といっしょに卒業できないのはさみしいけど」
「えっ? なに、それ……って、まさか野花センパイの話⁉ まさか受けちゃったの⁉ 真琴もいちおう女なのに!」
私がサクヤさんの『童貞探し』の話を聞いたのは、この唯からだ。『いちおう』とかフトドキな発言してるこの子からだ。
昔同じゲームにハマっていたとかで、攻略法なんかを話しあっている内に親しくなったとか。
サクヤさんが理由も知らせずに学校を辞めて心配していた頃、いきなり連絡をしてきてこの話を頼みにきたのだという。
『真琴、男装して行って来たら? 真琴なら女とバレてもそのまま雇ってもらえるかもよ』とか冗談で唯は言ったが、私は本気で髪を男子みたいにして行った。結果通った。
「シッ。いちおうヤバイ話だから、広まったら先生とか出てきて潰れちゃう。せっかく助かりそうなんだから、ほかの友達とかにも話さないで」
いまの我が家には切実に大金がいる。だからこんなアヤしい話でも受けざるを得ないんだ。
サクヤさんもスジモノの女みたいな化粧っけはまるでない人だった。彼女になら身をまかせても大丈夫だと思う。
「うん……でも大丈夫? ヤクザとか、からんでない?」
「ヤクザじゃないよ。サクヤさんのお兄さんがすごいお金持ちで、童貞の女性経験をモニターするんだって。それで一年もかけるのは謎だけど」
「じゃあ女ダメじゃん! 女ってバレたらひどい目にあうよ!」
「もうバレた」
「ええっ! ……って、あれ? じゃあ通りっこないよね? でも休学ってことは、通ったわけで?」
「サクヤさんがお兄さんにとりなしてくれて雇ってもらえることになったんだ。せいぜいナベの経験してくるよ」
「ゴクリ真琴……ナベになるのか。きっと美味しいんだろうな」
やめろ。
唯。私といっしょに居ても黄色い声出さないから、アンタと友達なんだからね。
最後の一ヶ月で壊れないでよね。
「野花センパイどうだった? いきなり学校やめちゃって『どうしたんだろう』って思ってたんだけど」
「いろいろスゴイ人だったよ。この寒いのに、ブラウスにカーディガンひっかけただけで平気な顔してた」
「え?」
「それから腰に警棒さしてて、それで半グレの悪そーな兄ちゃんたちを三人まとめて倒してた。なんか達人? みたいな動きで、ほんとうに一瞬で倒しちゃったよ」
「ええ? 野花センパイってそんな武闘派だった? 学校に居たころは、部活もやんないで普通にゲーム女子だったけど」
サクヤさんはそんなに普通の女子だった?
私から見たサクヤさんは、普通の学生なんをしてたとは思えなかった。
「私の目がおかしかったのかもしれないけどね。サクヤさん半グレたおした時、バスケプロのトップスピードくらいの動きしてたよ」
私は中学の頃、バスケのジュニア強化合宿の参加生に選ばれたりもした。
そこでプロ選手の指導をうけたりプロ試合を間近に見学をしたりもして、その超人的なスピードを目の当たりにしたものだ。
だけど驚くことに、サクヤさんは軽々そのプロ選手と同レベルの速さで動いたのだ。
「嘘でしょ? バスケってアスリート競技の中でもとくに速い動きをするんだよね? 強化合宿生だった真琴から見てもそんなに速かったの?」
「うん。なにをしたら普通の女子高生だった人があんなに動けるようになるんだろ」
だけど、そんなことは些細なことかもしれない。
サクヤさんは優しい人だ。
私の家のことを同情して、私の無茶を聞いてくれたりもした。
だけど何故だろう、サクヤさんを少し恐く感じるのは。
半グレをのした力が恐いわけじゃない。暴力をふるうタイプじゃないし。
ただ彼女にみつめられると、引き寄せられるような微かな色香を感じる。
女同士なのに妙な感覚におちいりそう。
それが恐い。
「真琴、コレコレ」
昼休み。
唯がその他大勢女子と、女にあるまじきモノを持ってきた。
「……男子の制服? コレをどうしろと?」
「またまた~、わかってるクセに。『どうしても真琴の完全体を見たい』と男子から強奪してきた勇者がいましてな。真琴、君を愛する愚か者どもの願い、かなえてやってくれんか」
どうして天然の男がそこらに居る共学で、女成分が足りないだけの私にそこまで狂える女が存在するんだ。
「これでいい? まったく野郎臭いね」
私がどこか誰かの男子の制服を着て出てくると、いっせいに「おおーっ」という声やら「キャーッ」という歓声があがった。
「うわーーっ美少年! 教室がアイドル学園になった!」
「ね、ね、○○くんに似てない? グループに居たら推せる!」
ああ、やっぱりだ。
女子にぐるぐる囲まれ、ケータイでパシャパシャひっきりなしに撮られまくる。
タスケテ。
しかしまぁ、こんな遊びにみちた学び舎もあと少し。
ピエロでもいい。
私のことを少しでも覚えてくれる人がたくさん出来るなら、悪くない。
「放課後デートしてください! 真剣におつきあいを考えてます」
目をさませメスども!
やっぱりこれはダメだ。性別をまちがって覚えられてしまう。




