4話 契約の行方
カードが開かれたとき、みんなが大きな声を出した。
――—南沢くんをのぞいて。
これで南沢くん以外は失格だけど、それを言うのはヤボというものだろう。
蛯名くん2、青柳くん2、久溜間くん2。
そして南沢くんが1!
「……2が無効になりました。よって南沢くんの勝ちです。二勝により契約するのは南沢くんに決定しました」
勝負の流れを考えてみるなら、青柳くん久溜間くんは蛯名くんの5を避けるつもりで2を出した。けど、蛯名くんは二人を落とそうと2を出した。
だけど南沢くんだけは蛯名くんの狙いをまた見抜いた。
他の二人も2を出すかは運だけど1で勝負に出た、といった所だろうか。
しかし最弱の1で勝っちゃうなんて、なんて子だ。
頭と勘と運、ついでにイケメンも兼ね備えた逸材だ!
「やったーーッ!!」
―――あれ?
「ありがとうございます! おれ、精一杯がんばります!」
…………もどった。
だけど彼の表情は、どこかバツが悪そうに見える。
「やれやれ、完全にしてやられたな。これでやられちゃ文句も言えない」
「どこかメシでも喰いにいこうぜ。緊張しすぎてハラへった」
「ハァ、やっぱ地道にバイトするしかないか」、
負けた三人はいさぎよく部屋から出ていった。
しかし私は、さっき聞いた違和感がぬぐえない。
『やったーッ』と言ったときの声が妙に可愛すぎたのだ。
まるで”女の子”みたいだった。
「あの、それでサクヤさん。その仕事というのは……」
「ちょっと失礼」
「あっ!」
胸をさわさわ。固いけど、なにか詰め物をしているような感触。
だからちょっと勇気を出して股間もさわってみる(ムニョ)。
「うわああっ、ちょっと!」
「…………ない。あなた、女の子?」
「!! ゴ、ゴメンなさい!」
その声はさっき聞いた可愛い声。
どうやら声を低くしていたようだ。
勝利でうかれたとき、思わず地声が出てしまったんだね。
ともかく仕事の話どころではなく、彼女と向かいあって事情を聴く。
「えーと君、条件が『童貞』ってことで、ある程度は仕事の内容予想ついたよね? いざ”本番”ってなったとき、どうするつもりだったの?」
「ペ、ペニバンつけてがんばろうかと。昔バスケやってて体力とかあるし、男みたいな容姿だから、女とわかっても何とか満足してもらえるかと」
うわあ、女なのにペニバンつけて竿師の真似事しようとしてたのか。
どこまで逸材なんだ、この子は。だけど……
「ゴメン。仕事内容は女性の相手とかじゃなくて、童貞の女性経験のモニターなんだ。君はすごい逸材で惜しいけど、女の子じゃダメなんだ」
私は立ち上がって出ていこうとする。
さて、次点の蛯名くんあたりに連絡とろうかな。
「ま、待ってください!」
ガバッ
うおっ、南沢ちゃん土下座してきた!
「助けてください! ウチ、一年前にお父さんが死んじゃって大変なんです。弟もいて、お母さん働きすぎて倒れちゃったんです。私もバイトでがんばっているけど、ぜんぜん足りなくて!」
うーん。男のフリしてペニバンでがんばろう、なんて考えるくらいだから、そのくらいの事情はあるんだろうけどね。こればかりは、どうも……
「お願いします! 何でもしますからどうか!」
ううっ、私はイケメン女子には弱いんだよ。
アーシェラのおかげで自分のヤバイ性癖に目覚めちゃったんだよね。思えば、幾度彼女をベッドでメチャクチャにしたことか。
そして今、新たなイケメン女子が涙目で土下座なんかしてる。
しかたないから、少しだけ力になってあげようかな。
「こんなアホなことに大金出せるくらいのお金持ちは、私じゃなくてお兄ちゃんなんだよね。だから私に土下座とかされても、出来ることは一つしかないから」
私は懐からスマホを取り出す。
「いちおうお兄ちゃんに話を通してみる。もし君と話をさせる所までいけたら、どうにか説得してみて」
「あ、ありがとうございます!」
スマホでお兄ちゃんにコール。
ほどなくして、お兄ちゃんがいつもの調子で出た。
『サクヤか。どうだ、「これだ!」という童貞は見つけられたのか? 獣人ともやらせるのだから、アホみたいに毎日オ〇ニーしているサルのようなエロガキがいいぞ』
「そういう条件なら最初から言ってよ。いちおう私なりの判定で、どう……未経験の男の子を選んだんだけどね。それがその……じつは男のフリをした女の子だったんだよね」
『なんだと? フシ穴か、お前の目は! それで、それがどうしたというのだ。また選び直せばいいだけの話だろう』
「まぁ、そうなんだけどね。それで、その娘の事情というのが……」
南沢ちゃんの事情の聴いたかぎりを説明する。
意外にも問答無用で突っぱねられることなく、最後まで聞いてくれた。
『ふん、情にほだされてその娘を助けてやれと言うわけか。まったく余計な案件を拾ってくる奴め。その娘の画像を送れ』
お? 意外にも真面目に考えてくれるの?
私はお兄ちゃんという人間を誤解していたのかもしれない。
私は南沢ちゃんを、スマホのカメラ機能で「パシャッ」と撮って、画像をお兄ちゃんに送る。
『なるほど、コイツか。女のくせにメスガキにもてそうな、いけすかんイケメン面してるな。フム、こいつに一千万相当の仕事をさせるとなると……』
しばらく無言の沈黙のあと。
『フフン、面白い。いいだろう、その娘を雇ってやろうではないか」
「えっ、本当? おにいちゃんって実はいい奴だったんだね!」
『そう、その通りだ。オレは憐れな貧民に適切な仕事をあたえてやる善人だからな。ククク……』
『ククク』?
なに、その邪悪な笑い! すごくヤバイ予感⁉
「ち、ちなみにどんなお仕事? 未成年の女の子だし、あんまりヒドイ仕事とかはやめてよね」
『最初の予定そのままの仕事だ。オレはエロゲ製作で忙しく、そいつのために何かやってやるヒマなどない。だからそいつをモニターに選んでやる』
「ええっ⁉ だから女の子だよ! なのにエロゲ主人公モデルのモニターなんかやらせるの? いや、なるの⁉」
『なんだ、オレに雇ってほしくないのか? ならばさっさと捨てろ』
「い、いやその……お兄ちゃん、南沢ちゃんでいったい何を企んでるの?」
『ええい、お前と話してもラチが開かん。そいつと代われ! 直接意思をたしかめてやる』
しかたなく南沢ちゃんにスマホを渡す。
「……えっ、本当に雇っていただけるんですか⁉ ハイ、何でもやりますから。女性との関係もがんばります! ……ハイ、大丈夫です!」
あああ、そんなヤバそうなことに『大丈夫』とか言って、本当に大丈夫?
いたいけなイケメン女子が鬼畜経営者に篭絡されていくのを見るのはツライ。
南沢ちゃんのこれからの運命、どうなっちゃうの?




