3話 数字ゲーム
私は四人それぞれに五枚のカードを配った。
蛯名くんはスペードのみ、青柳くんはダイヤのみ、久溜間くんはクラブのみ、 南沢くんはハートのみのカード。
数字は全員A、2、3、4、5だ。
「ちょうど四人だからマークを分けたけど、マークは勝負に関係しません。使うのは1から5までの数字だけ。Aもただの1として使用します」
「ふーん。かなりシンプルなゲームですね」
きのう読んだマンガにあったゲームなんだよ。
簡単で、自分でもやってみたくなったから採用したんだけどね。
「ではルールを説明します。まず私が『セット』と言ったら、手持ちのカードの中から一枚裏返して出してください。制限時間は三十秒。それまでに出さなかった人は、そのゲームは負けです」
「勝利条件は?」
「カードが出揃ったら『オープン』と言います。そしたら全員カードを開けてください。一番数字が大きい人が勝者です」
「だったら全員が5を出すのでは?」
「一度出したカードは以後使えません。出したカードは中央に置いて、次のゲームは残りから出してください。最大五戦となるけど、その間に先に二勝した人が勝者です。その人と契約します」
「いや、それでも全員が最初の二戦で5と4を出してしまうんじゃないですか?」
「数字がカブった場合、その数字は無効になります。例えばカードが『5、5、3、4』と出た場合、5は無効。4を出した人が勝者となります」
「なるほど。最強手でも必ずしも勝つわけじゃないんですね。運が悪ければ5がカブって最強手が無効になって終わると」
「でも『先に二勝』という勝利条件を満たすには、先に強いカードを出さなければならないか。シンプルだけど、おくが深いな」
「その駆け引きがゲームか。ところでお前ら。たとえばの話だが、協力しあって契約金を山分けにするとしたら……」
うおっ、さっそくフトドキな策略とかする奴がいるな。
こういった要素は排除しておかないと。
「いや待って。もう一つルールを追加します。それは『このゲームをやっている間はしゃべってはいけない』というものです。しゃべった人は問答無用で失格です」
「それは……どうして?」
「ブラフや手を組んだりするのを防ぐためです。私が求めているのは、純粋な頭や勘や運の良い人です。ゲーム慣れしている人の有利を防ぐために、このルールを了承してください」
「……了解、しかたありません」
蛯名くんは露骨に残念そうだ。こういうの、得意そうだもんね。
「では、ゲームをはじめます。今からしゃべる事は禁止。その前に質問はありませんか? ……ありませんね。では開始します。”セット”」
全員が同時にカードを出した。さて、初手は?
「オープン」
全員がカードを開く。
結果は青柳くん、久溜間くんが5で、蛯名くんと南沢くんが4だった。
「一回戦は勝者なし。出したカードを真ん中に置いて」
ふーむ、蛯名くんと南沢くんはみんなが5で潰し合うことを予想して、4を出したんだね。
勝者はいないけど、最強手を温存出来た二人が一歩リードだね。
残りカード
♠蛯名 5 3 2 1
♢青柳 4 3 2 1
♣久溜間 4 3 2 1
♡南沢 5 3 2 1
結果を紙に書き終えたら、ふたたび宣言。
「それじゃ二回戦目をはじめます。セット」
蛯名くんは南沢くんを見ながら少し遅れて出した。
また最強手がカブったら二勝は難しくなるから、5を出すのか見極めているんだろうね。
「オープン」
南沢くんが5。青柳くんは4で久溜間くんが3。そして蛯名くんは1だった。
「南沢くん一勝です。出したカードを真ん中に置いてください」
先行されたけど蛯名くんは『予定通り』といった表情。
たしかに彼もすでに一勝が決まった。
青柳くんの4も悪い手じゃなかった。二人が牽制しあっていたら勝っていたし。
もっともその賭けに負けた以上、一番勝利から遠ざかったけど。
久溜間くんの3は一番ダメだ。どう考えても勝てる数じゃないし、捨て戦に使うには強すぎる。
3は終盤には強いカードになるんだから、ここで無駄にしちゃダメだよ。
残りカード
♠蛯名 5 3 2
♢青柳 3 2 1
♣久溜間 4 2 1
♡南沢 3 2 1 一勝
そして第三戦目。ここで一勝できない人はきびしいね。
「セット」
パシッ
蛯名くんは『セット』と同時に、音が聞こえるくらい強い調子でカードを出した。5だから勝利確定だもんね。
遅れて青柳くん久溜間くんも出す。しかし南沢くんはまだ出さない。
何故か蛯名くんを見つめたまま固まっている。
「南沢くん、あと十秒です」
私が声をかけると、慌ててカードを出した。どうしたんだろう?
「オープン…………なッ⁉」
カードの結果を見て、少なからず驚いた。
蛯名くん3、青柳くん1、久溜間くん1、そして南沢くんは3だった。
そうか! 蛯名くんはあえて強い調子でカードを出して5だと皆に錯覚させた。
だけど実は3で、それで勝ちを狙った!
実際、青柳くんと久溜間くんは引っかかって1を出した。
けれど南沢くんはそれを見切った。あえて手持ちで最強の3でそれを潰した!
もし本当に5だったら、ただ最強手を失っただけだったのに、すごい勝負勘だ。
蛯名くんは悔しそうに南沢くんを見ている。
たしかに南沢くんが引っかかっていたら勝負は決まっていた。
ただ顔がいいだけじゃないね、この子。
残りカード
♠蛯名 5 2
♢青柳 3 2
♣久溜間 4 2
♡南沢 2 1 一勝
「三回戦勝者なし。どうやら二勝する人が出ない線が濃厚になってきたね。五枚じゃなく七枚でやるべきだったかな?」
私はちょっと考えて、その場合どうするのかを決めた。
「よしっ、その場合は一勝できた人だけで別ゲームで決着をつけよう。すでに一勝している南沢くんと、一勝が決まっている蛯名くんは確定。青柳くんと久溜間くんは、残り二回のうちで勝てなかったら脱落です」
もっとも次の勝負で最後の勝負も決まる。残りカードで結果は決まってしまうのだ。
久溜間くんは凝視するように蛯名くんを見つめている。
彼の5を避けられるかどうかで勝負は決まるからね。
青柳くんは蛯名くんと久溜間くん両方を凝視。
彼はほとんど脱落決定だけど、まだ勝負を捨てないで二人の手を見切ろうとするところは見直した。
対照的に勝利が確定している蛯名くんと南沢くんは気楽だ。
過程がどうだろうと、この二人のうちどちらかに決まるだろうね。
「セット」
蛯名くんと南沢はすぐに。青柳くんと久溜間くんはおずおずとカードを出した。
さて、二人は勝てるかな?
「オープン」
一斉にカードは開かれる。
「「「「あ、あああああああッ!!!?」」」」




