2話 童貞たちは集う
しばらく現代での話が続きます。異世界へ戻るのはしばらくお待ちください。
さて、場所は学校近くの古いビルの裏手。
こっち現代日本の友達に話を通してもらったら、男の子が十五人集まりました。
「なあ、サクヤさんよ。アンタの話じゃ、ずいぶんな金を出してくれるそうだけど、本当に払えるのかよ? 一千万とか聞いたけどよ」
こんなアホな仕事を青少年にさせるのだから、お兄ちゃんは気前よく資金を出してくれた。もっとも一千万くらいは、お兄ちゃんにとっては端した金だけど。
「ちょっと違うね。前金は五百万円、仕事が終わったら一千万円。それを決まった人に払うよ。こんな小娘が言っても信用してくれないだろうと思って、現金も持ってきたよ。ほら」
持ってきたトランクを開けると、中には札束がギッシリ千五百万円。
それを見せると、男の子たちは目の色が変わった。
「すげェ、マジだ!」「あれがあったら、すげェ遊べるぜ」「それよりバイクとか買おうぜ」とか、ざわめきがやまない。
「これで、この話が嘘でも冗談でもない事がわかったよね。この中からその一人を決めるんだけど、その前に……」
私は懐から【女経験鑑定スカウター】を出して目に装着。
お兄ちゃんが元創造神の力を使って、これだけの為にこんなアホなものを作ったのだ。
ピピピピ……
「そっちの君、経験済みだよね。そっちの君は三人か。モテそうな顔してるもんね。うわっ、そこの君は二十七人⁉ その年で、どうやってそれだけやったの? それで童貞名乗ってここに来る精神もすごいけど」
どよどよどよ……
童貞じゃない男の子は八人。それを特定すると、どよめきが起こった。
まあ、頭悪そうな女にモテそうなチャラい奴とか、見ただけでわかる奴もいたけど。そういう奴らも含めて『分かるわけない』とか高を括ってきたんだろうけど、残念。
こっちには創造神チートがあるんだよ。
「な、ナニを言っているのかなサクヤさん? 女に人との経験なんて僕にはさっぱり……」
「お、おれが童貞じゃないなどと世迷い事を!、おれが非童貞だという証拠でもあンのかよッ!」
「そうだそうだッ! おりゃ女なんて知らないケガレなき童貞だぜ!」
いや、探偵が推理して犯人を見つけた場面じゃないから。
「証拠とか出す必要なんてないんだよ。君たちじゃモニターにならないから失格だ。残念ながら、みなさまは当社にご縁がありませんでした。これからのご活躍をお祈りいたします」
「テメェ!」
うわっ、半グレっぽい三人が逆ギレして突進してきた。
こんな所まで探偵モノっぽい。
二人は私を押さえようと、もう一人はトランクをねらっている、か。
いいコンビネーションだね。
欠点があるとすれば、ゴブリンより遅くてまるで問題にならないことかね。
私は携帯警棒を取り出した。
バキッ ビシッ ドォンッ
それで半グレ三人を適当にぶっ叩いて瞬時にのした。
「やっぱ、お祈りナシ。君たちの活躍って反社だろうし」
ドヨドヨドヨッ
「つ、強ええっ! 三人を秒殺⁉」
「さすが大金まかされてるエージェントなことあるぜ! ただ者じゃねぇ!」
「もしかして殺し屋? なんか二、三人殺してる凄みがあるぜ!」
まぁ、モンスターだけじゃなく人を殺したこともあるけど。
向こうに住んでいる理由の一つは、強くなりすぎて日本社会じゃ暮らしていけなくなったからなんだよね。
私はクールに携帯警棒をしまって仕切り直し。
非童貞を帰らせてから、企業説明会の講師みたいな気分ではじめる。
「さて、それじゃ仕事の説明をするよ。仕事内容は、とある場所にて女性経験のモニターだ。ただし半年から一年の間は家に帰ることは許されない。また勉強とかも出来ないから、君たちのこの時期には、けっこうな痛手だろう。この条件を吞んでもらうための千五百万という大金だと思ってほしい」
今は二月。大学や就職が決まっていたり、来年受験だったりする人には無理だということだ。
何人かの少年は顔を見合わせ、黙って帰っていった。
そうだよね。君達のこの時期は、アヤしいバイトするより真面目に勉強するべきだよね。
青少年の将来狂わせる仕事に心が痛むよ。
「残ったのは四人か。じゃ、とりあえず名前と志望動機を言ってもらおうかな」
「蛯名 勝です。はやく自分の店もちたいから来ました。勉強の方はこれ以上しなくてもそこそこは受かるんで大丈夫です」
メガネをかけて頭良さそうなキリっとした顔立ちの男の子。
しっかりした人だね。この人なら選んでも将来とか大丈夫かな。
「青柳 改治です。受験は、どうせ受からないんでやりません。んで、女と経験して金ももらえる夢のような仕事なんで来ました!」
見るからにアホっぽい男の子。
甘いね。金もらってエッチするお仕事ってのは、たいてい相手はキモい奴なんだよ。
それはともかく、性欲強そうだしモニターには一番向いているかな。
「久溜間 省吾です。その……俳優になるのが夢で、養成所行く金を稼ごうと思ってきました」
髪を切ってない伸ばしっぱなしの男の子。
うーん。役者目指すなら、もうちょっと小ぎれいにしたら?
「南沢 誠です。家の事情でお金が必要で来ました」
初めて見た時から『すごい子いる!』と思ってしまった子だ。
なんかジャニーズとかにいそうな、美形な男の子なのだ。
むしろこの子が役者になるべきじゃ?
この子に女を世話するとかなったら、乙女の精神もつかなぁ。
「それじゃ条件を了承してもらったとして、この中から決めるよ。面接とかして適当に決めてもいいんだけど、ゲームで決めることにするね」
「ゲーム……ですか?」
「そ。けっこう運とか頭とか必要だしね。じゃ、場所をかえようか」
と、いうわけで、みんなで来たのはカラオケボックス。
もちろん歌うわけじゃない。見知らぬ者同士で話をするのは、ここがちょうどいいからだ。
「ここがデュエルの舞台か。俺達の運命の決まる場所」
「『デュエル』とか言っちゃってるよ。カードバトルとかじゃないからね」
「そうか! 生き残るのは四人の中で一人だけ。デスゲームがはじまるんですね⁉」
「はじまりません。負けたら普通に帰ってください」
「この勝負を制した者が人生の勝者! 俺は勝ち組になる!」
「むしろ勝った人が人生の負け組かもしれないよ」
しかし大金かけたゲームにテンション高くなる所は、やっぱりみんな男の子だね。
私はポケットからゲームの道具を取り出した。
「これはさっき買ってきたトランプ。これを使います」
ゲームバトルの主催者とか、ちょっとドキドキするね。
さて、このゲームでうまく一人を決められるかな。




