11話 Bランクモンスター討伐
さて、今日はまたまた討伐クエストの日。
なんでもどこかの大物の依頼主が、Bランクの大物モンスターを討伐依頼したらしい。
馬車乗り場に着くとすでにラムスは来ていて、遅れた私をうんざりした顔で見た。
「やっと来たか。サクヤ、遅いぞ」
「ごめんごめん。ノエルにごはん用意してたら、思ったより時間かかっちゃった」
「おい、ちょっと待て。きさまのところでは誰がメシを作っている?」
「私だね。ノエルのために消化のいいもの作ってあげなきゃなんないから、すっかり腕があがったよ」
「掃除は?」
「それも私。病人がいるんだから、毎日きれいにしないとね」
「寝床は? お前らはどうやって寝ている?」
「ベッドはノエルに使わせて、私は寝袋で寝てるよ。今度の報酬が入ったら、あったかい布団を買ってあげるんだ」
「えええーい、アホかきさまぁぁっ!!!」
いきなりラムスが怒鳴った。何を怒っているんだ?
「なぜに主人のきさまが奴隷の世話をしておるのだ! いったい何のための奴隷だ!」
そうは言ってもノエルの病気が治らなければ、エロなことしてメロメロにできない。
まぁ最近は、彼女の世話をするのが楽しくなってきたこともあるけど。
「ノエルが良くなったらお世話してもらうよ。で、この人は? 誰か助っ人でも頼んだの? 聞いてないけど」
そこにはラムスのほかに身なりの良い人物がいたのだ。
「依頼主の使いだ。何でも、オレ様たちの仕事ぶりを見るよう主人に言われているそうなのだ」
「そうですか。【栄光の剣王】アタッカーのサクヤです。本日はよろしく」
「レムサスと申します。本日のクエストは内密にお願いいたします。向かう先は領主軍の駐屯地であるため、多分に軍事機密がからんでくるのです」
「はぁ? 領主軍ですか?」
「まぁ馬車に乗りましょう。詳しい話は道中に」
「ふむふむ、なるほど。今回のクエストである【フレスベルク】の被害を受けていたのは、領主軍の方だったのですか」
フレスベルク。
大型鳥類の肉食モンスターで、風魔法を自在に操り高速飛行するため非常に狩りにくい。
突風、旋風、ウインドカッター、爪などで攻撃してきて、馬や牛、時には人間を捕食する危険極まりないモンスターだ。
「その通りです。奴は幾度も駐屯地を襲い、領主軍兵に少なからぬダメージを負わせて去っていきます。軍としては情けなくありますが、あれは我々には手にあまる怪鳥です。最近噂となっている【栄光の剣王】ですが、討伐可能でしょうか」
「さて。とにかく戦ってみないと分かりませんね。私のスキルで、その高速飛行に追撃できるかどうかです」
「ほほう、どのようなスキルをお持ちで?」
「今回のフレスベルクに有効なスキルといえば、【百歩飛剣】でしょうか。現場に着いたらお見せいたしましょう」
到着したのは領主軍の駐屯地。
フレスベルグにやられたのか、あちこちのテントが破けている。
奥の方にはケガ人もかなりいて、被害の深刻さを実感する。
ゲーム知識だが、そのモンスターの背後にはドルトラル帝国がいる。
奴らは本格的な侵攻の前に、こうやってモンスターを使って敵対国の軍を疲弊させているのだ。
「それじゃレムサスさん。まずは【百歩飛剣】を見せます。あそこの岩を見ていてください」
私はメガデスを抜き、向こうにある岩に向けて「ブンッ」と振った。
剣の衝撃を受け、岩は「バキャッ」と粉々に崩れた。
「これは……剣身をあてずとも、ダメージを与えられるのですか!」
「そういう技です。あとは【竜肢飛び】。ま、単純に高く飛ぶだけの技なんですが」
私は足にタメを作り一気に解放した。
すると、数十メートルもの高さにまで飛翔。
落下の瞬間、メガデスで衝撃を地面にたたきつけ、体が浮いた所で態勢を立て直して着地した。
「これはすごい! サクヤ殿、お若く見えるのにいったい何時これほどの技を会得したのです!?」
昨日です。
高速飛行する怪鳥モンスターを討伐するってんで、スマホから使えそうな技を覚えました。
「私の流派は秘密です。これでフレスベルクに通用するか分かりませんが、やってみましょう」
なにしろフレスベルクは、ドルトラル帝国のモンスターの中でも切り札的存在。
ゲームでも、かなりレベルを上げないと倒せないモンスターだった。
そして待つこと数時間。
見張りが空に禍々しい高速飛行の怪超を見つけ、駐屯地はにわかに慌ただしくなった。
私はもちろん、【気配察知】で、それの接近を感じていた。
「「来たぞおっフレスベルクだぁ!」」
私はメガデスを抜いてテントの外に飛び出す。
されど勇ましいことに、ラムスの方が先に来ていた。
「おのれBランクモンスター、待っていたぞ! このオレ様の剣で羽をむしってくれるわぁ!」
「いいからラムスは下がってて。飛んでる相手に何ができるっていうのよ」
領主軍は一斉に矢を放つ。
されどフレスベルクは風魔法で突風を巻き起こし、矢をすべて吹き飛ばしてしまう。
でも、これは作戦。
彼らは私のために囮をかってくれたのだ。
フレスベルクが領主軍に突風をくらわせている間に、私は奴の真下に近づく。
そして【百歩飛剣】を放つ!
「ギャアアッ」
怪鳥は鳴き声をあげるも、落下はしない。
だが、かなり体がふらついている。
「とどめ! 【竜肢飛び】!」
いきおいよくフレスベルクの至近まで飛び、メガデスを振りかぶる。
だがフレスベルクは旋風を飛ばし、私の態勢を大きく崩した。
「くっ!」
それでも強引にメガデスをフレスベルクにたたきつけ、深手を負わせる。
もつれながら落下。
こんな状態じゃ受け身なんてとれやしない。
ドッスーーン
墜落の衝撃はすさまじく、プロテクションをレベル5まで引き上げた身でもかなりダメージを負った。
「サクヤよくやった! あとはオレ様にまかせろ!」
深手を負いながらも空に逃げようとしたフレスベルクは、ラムスに飛び掛かられ、たちまちトドメを刺された。
ラムスがフレスベルクの急所に剣を突き立て、その死骸に乗って高々と剣を上げると、領主軍から盛大な歓声があがった。
「やれやれ、おいしい所を持っていく奴だよ。イテテ」
そんな私達に、レムサスさんがねぎらいに近づいてきた。
「お見事です、ラムス殿、サクヤ殿。わが主に良い報告ができます」
「ふん、良い報告をしたらどうなるというのだ。何かくれるのか?」
「ええ。楽しみに待っていてください。それよりサクヤ殿、こちらに。治癒師に手当てをさせましょう」
「ありがとう。さすがに、こんなケガを負ったことはなかったから助かるよ」
ふう。さすがBランクモンスターともなれば、これまで通り無傷とはいかなかったね。
それはともかく、このレムサスさんの主といえば、つまりはこの領の領主様。
この成果で、令嬢のロリエちゃんに近づけたらいいなぁ。




