エンディングA 異世界で生きよう
最終回を三つも考えている間に、ハーメルンの方を書きたくなってしまって、すっかり遅くなりました。申し訳ありません。
「私はもうこの世界の人間だよ。あっちの世界には帰らない」
「いいんだな? オレはもう、こっちの世界には干渉しない。お前がこっちに戻ることも禁ずる」
「ちょっと厳しいね。でも、必要なことなんだよね?」
「まぁ、な。この世界にも管理する神がいる。今までは魔人王を倒すために好き勝手を許してもらっていたが、これからは、そうはいかないからな」
「いいさ。お父さんやお母さん、それに友達には上手く言っといてくれ」
あっけなくお兄ちゃんとも別れ、ノエルにゲートを開けてもらって私はみんなの元へと帰っていった。
向こうでの戦いも、怪光線がやんだことで一気へと優勢に傾き、ほどなく勝利で終わった。
そして―――
◇ ◇ ◇
「みんな元気でね。それぞれの道でがんばって」
戦争が終わり戦勝式典も終わると、私達は【栄光の剣王】を解散することにした。
もうほとんど私のレズハーレムとなってしまったし、あまりに強力な力を持つ冒険者パーティーとか、お偉いさんを不安がらせたりするしね。
そうして私達は、最後の別れにと郊外に集まった。
「ラムス、私がいなくてもセリア王女様と仲良くしなきゃダメだよ」
「わかっておるわ。アイツも最近、可愛く思えてきたしな」
ラムスもちょっとだけ大人びた顔をしてきた。なんだかお兄ちゃんにどこか似ている。
「ロミアちゃん、君も。太守になってくれる人はすごく良い人なんだから、二人でリーレットを良い領地にするんだよ」
「……うん。わかってる」
ロミアちゃんはレムサスさんはじめ家臣団の努力のすえ、婚約者が決まった。
私も会ってみたけど、すごく良いお坊ちゃんでロミアちゃんのことも大切にしてくれそうだ。
だからロミアちゃんを諭したのだけど、ロミアちゃんは私に未練たらたらで、この結婚話をブチ壊しかねない。
なので私は【栄光の剣王】を解散して旅に出ることにしたのだ。
「でも悲しいよ、サクヤ様」
ロミアちゃんは憂いの顔で私を見つめる。そんな顔にドキリとしてしまう。
本当に役者スキルは厄介だな。
儚く見つめるロミアちゃんを抱きしめてあげたくなっちゃうよ。
けど、そんな女子にあるまじき衝動は抑えよう。別れが延びるからね。
そして今度はユクハちゃんとモミジだ。
「ユクハちゃん、モミジ。君達は近いうちに七賢者になるんだってね。おめでとう。がんばってね」
「まあ、な。ウチはおじいちゃんの後を継ぐ形で錬金の賢者に。ユクハは長く空白だった召喚の賢者や」
「でもユクハちゃん。君はその前にホノウと会ってきなよ。彼の修行の場に行ってさ」
「会いに行って……いいんでしょうか。ホノウくんを裏切ったわたしが」
「裏切ってなんかいないさ。もう私に縛られることもないし、よりを戻すのにちょうど良い機会だ」
「……うん、わかりました。ホノウくんに会いに行ってきます」
ふふっ、可愛くて素敵な笑顔だ。ホノウに焼けるよ。上手くいくといいね。
そしてアーシェラとシャラーン、ついでのゼイアードのドルトラル帝国組み。
彼女らはドルトラル帝国に戻り、生き残りを探す旅に出るそうだ。
「危険な旅になるね。本当に三人だけで大丈夫?」
「うん、これはボクらの問題だからね。サクヤに頼むわけにはいかないよ」
「まぁ二人は強いし、どうにかなるでしょ。ならなかったら、またお願いね」
「あっ、それは……」
シャラーンの手には、しっかりノエルの毛で作った人形があった。
やれやれ、さすが抜け目ないな。ま、アーシェラが危うくなったら見捨てるつもりもいかないし、これで良いか。
「サクヤ、やっぱり少しさみしいな。しばらくは君のいない一人寝がこたえそうだ」
ううっ、それは私もだよ。
やっぱりアーシェラ達について行こうか……
いやいや! ここでアーシェラと行動を共にしたら、レズ趣味から抜け出せなくなる。
お互いのためにも、ここはキッパリ別れよう。
「ふふっ、アーシェラ。さびしいならアタシがなぐさめてあげるよ。幼なじみだもんね」
「え? ち、ちょっとシャラーン。くっつきすぎだよ」
ああっ! シャラーンの奴、まさか旅の間中アーシェラとゴニョゴニョするつもり?
これじゃ、アーシェラはレズ趣味から抜け出せないじゃないか!!
「お前らな。男の俺の前でレズトークなんかしてんじゃねーよ。シャラーンも、すっかり女に目覚めやがって」
「ゼイアード。君も元気で」
「ああ。サクヤにそう言われると、何か変な感じだぜ。故郷はモンスターだらけになっちまったが、何とか生き残りを探してみるぜ」
感慨深い重いを抱き、みんなに別れを告げる。
そして、みんなはそれぞれの道へ歩んでいく。
けど、私の傍らにはたった一人残った子がいた。
「さて、ノエルはどうする? いつまでも奴隷のままじゃいられないし、市民身分をもらってこようか」
「ううん、私はこのままサクヤ様の奴隷でいさせてください。空間魔法の使い手だと知れわたっちゃったせいで、偉い人達が引き取りたいって話を持ちかけてくるんです。多分、奴隷じゃなくなったら断れなくなると思うんです」
ああ、奴隷ってのは主人の所有物扱いだから、主人抜きにはどうこう出来ないんだよね。
「そっか。じゃあ、もう少しだけこのままだね。この世界を見てまわるのに空間魔法は便利だし、いっしょに旅しようか」
「はいっ」
元の世界のことを考えると、ふとさびしくなる時もあるけど。
でも私はこの世界で生きることを決めたことを、後悔なんかしない。
この世界がいつの間にかこんなに好きになっていたんだもの。
さようなら現代。そっちの世界も大好きだったよ。
風の中にかすかにつぶやくと、私とノエルは手をつないで歩んでいった。




