104話 宿命
転移ゲートを抜けた先。それは一面まばゆい死の光だった。
丁寧なお出迎え、ありがとう!
「スキル【魔法断裂刃】!!」
メガデスを振るい、縦横無尽に魔光を切り裂く。
いかなる魔法をも切って無効化するスキルによって、魔光はすべて霧散した。
そして光の晴れた先は空中。
眼下には、モミジの言っていた巨大な目玉だけで出来たモンスターが四体、私を見上げるように居た。
敵を見たなら、着地を待ってなどいられない。
しかもこいつらは魔界モンスターの中でも高位の存在らしいし。
「スキル【魔光大切斬】
さっき切り裂いたこいつらの光線をそのまま刃に変えて放つ。
ズオオオオオオオオオッ
目玉を大きく切り裂いたが、まだ生きている。
着地した私に、体当たりをしかけてくる。
「硬いな。生命力も高い。しかし、ここは私の間合いだ。距離を失くしたお前らに勝ちはない!」
目玉どもの体をすり抜け、幾度もその体を切りつけ、やがては四体の目玉どもは倒れ動かなくなった。
「ふう、終わり。……しかし魔人王はどうしたんだろう。戦っている間、まったく何もしてこなかったけど」
メキョッ
「なんだ?」
いきなり目玉どもの死体が変化した。
その体は弾け、何かしらのエネルギーとなって天へ向かって吹き上げる。
やがて空を覆い、空も地上も一面銀色一色へと変えてゆく。
――この気配は⁉
―――「まさか、これほどの魔界の軍勢が敗北とはな。しかも要塞ひとつすら抜けんとは」
いつの間にやら身長四メートルほどの人型の魔物が近くに居た。
「お前は……ザルバドネグザル? それが魔人王の姿か!」
「しかし損失は大きかったものの、最大目標のお主を捕らえることはできた。それで良しとしよう」
「気が早いんじゃない? まだ私はどうにもなっていないけど」
剣を向け息を整える。
しかし奴は『煩わしい』とでも言うように手を振った。
「いいや、戦うまでもなく終わっておる。四体のカオスアイの死と魔力をもって作ったこの魔法複合積層。この内はワシの絶対領域にして、いわばお主の牢獄。いかな剣技を振るおうとも出ることはかなわん」
「なるほど。目玉どもと戦闘に加わらなかったのは、こいつらの死を利用した罠を作るためだったんだね。さすが老獪だね」
話をしながらも腰だめをし、いつでも斬れる態勢は崩さない。
「フム。であろうと未だ戦意は消えぬと。己がどうなろううとワシを葬る腹づもりか。が、それも無意味。この領域内ではワシは不死身じゃ。お主の剣術スキルがいかに卓越したものであろうと、ワシの命には及ばん」
「スキル【雷鳥剣】!!」
ザルバドネグザルにメガデスを振るい、スキルで数十回切りつけた。
ザルバドネグザルの体は原型をとどめないほどに破壊されグチャグチャになった。だが……
「気はすんだか?」
奴の体は瞬きする間に元に戻り、何もなかったように話す。
「まぁね。敵の言う事を鵜呑みになんて出来ないし。いちおうは試してみないとね。次はこの銀色空間だ」
空間の一点に何度かスキルで破壊をこころみるも、すべて威力は吸収され霧散してしまう。
「なるほど。たしかにこれは、どうしようもないね」
「フッフッフ、さすが腹はすわっているの。そうだな、人と話すのは人である方が良い。あえて捨てたこの姿をとるとしよう」
巨人の体は急速に縮んでいく。
そして私のよく知る老人の姿となった。
「ザルバドネグザル……たしかにそっちの方が話しやすいね。それで話って、何の話をするの?」
「どうじゃ、ワシの部下にならんか。さすれば、お主をここから解放しよう。それだけでなく、この世界の支配もくれてやる」
「はい? いくら何でも、ずいぶんな大判振る舞いだね。本気?」
「ワシの興味は、世界の真理を知り尽くすこと。そしてこの世界での実験は、前の世界でやり尽くし、もう一度支配することには何の意味もない」
「ふーん。で、世界の支配をあきらめて、私を部下にして、それでどうするの?」
「お主の背後に居る者を探求する。死んだはずの人間が何万と甦えらせ、ただの小娘に魔界の上位魔物をも上回る戦闘力を与える。じつに興味は尽きん」
うわっ、目をキラキラさせて本当に嬉しそうだ。
それに人間をやめて世界を支配したのも、世界の真理を知るためだとか。
本当にコイツは知識欲の怪物だな。
「まぁ、私もアンタの目的に興味はあったから、一応話は聞いたけど。でも答えは『断る』としか言えないんだよね」
「ほほう、理由を聞こう。この牢獄に永劫に住まわされることと引き換えにしても、断る理由とは何じゃ?」
「アンタ、その知識欲のためにやりすぎたんだよ。この世界を調べ尽くすために、何万人もの人間を使い殺した。そんな奴に使われるなんて、ごめんだ」
「ふうむ? 何万であろうと、お主には何の関係もない人間どもじゃろう。それがどうかしたか?」
「関係ない人間でも答えは同じだけど、関係ある者もいたんだよ。すごく大事な人達がね」
もう一つの世界のロミアちゃん、アーシェラ、ユクハちゃん、モミジ、セリア王女様、シャラーン。ノエルだけは奴に殺されたわけじゃないけど、それでも奴を倒すために犠牲になった。
私の知る彼女らとは別の存在だったとはいえ、やはり許せない。
「まぁ今の答えはそれで良かろう。じゃが千日後はどうじゃろうな? そして一万を越えた日の答えは? お主の変化を観察し続け、気長に説得するとしよう」
「いや、それには及ばないさ。私の背後に居る者に興味があるんなら、直接話をすればいい」
「なに?」
「私が、その高位存在から頼まれたこと。それは彼と深く愛しあった七人の女のもう一つの存在と、心と体を結び力を与えること」
「ほほう、それは何のため?」
「一つは彼女らの心底にある才能を強化し、アンタの魔物軍団と対抗するためだけどね。でもそれは、あくまで本当の目的の脇道でしかない」
「フム、その目的とやらを話してくれるのかな?」
「アンタも人間のころの職業が召喚士なら分かるだろう。強大な力を持つものや存在の大きいものを召喚するには、より強い召喚する力がいる。だからこそ彼は、彼女らの奥底にある彼への愛を使うことにした。強化された彼女らは、存在が大きすぎてこの世界に来られない彼を、思いの力で呼び寄せることを可能にする」
「ふうむ、何者じゃ? そこまでせねばこの世界に呼べないほどの存在。それは何じゃ?」
「創造神さ」
私は懐からスマホを出しコールする。
「お兄ちゃん、オーケーだ。親切にも、ヤツが強力な結界領域を張ってくれた。今なら、この世界に何の影響も及ぼさずに、この世界へ来れるよ」
『フッ、まさか最後の問題をアイツが解決してくれるとはな。ならば行こう。長い宿命を果たしにな』
短い会話を終え、スマホを放り投げる。
するとそこを中心に巨大な魔方陣があらわれる。
「むうっ⁉ 何じゃこの超構造の術式は!」
やがて「ゴゴゴゴゴゴ」と地鳴りが響き、地面が……いや世界そのものが大きく揺れた。
さすが創造新。
ここまでしなきゃ来れないとは、恐れ入った。




