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101話 戦闘開始!

 「要塞内全将兵持ち場に着け! 敵勢集接近中!!」


 その号令が響いたのは夜明け前だった。

 要塞内はにわかに活気づき、将兵の走り回る音が響き渡る。

 とうとうドルトラル方面から魔物の軍団が侵攻してきたのだ。この日のために軍を統一し、要塞を改修、物資を運び入れて、十分な兵を配置させている。

 準備は万端なものの、一つだけ計算違いがあった。


 「まいったね。まさかセリア王女様とロミアちゃんが帰る日に襲撃が来るなんて」


 二人は帰路の安全が確保できるまでは足止めとなった。その護衛をまかされたのは、私たち【栄光の剣王】だ。

 しかし当の二人はまったく不安な様子もなくいつも通りだ。


 「わたくしならば大丈夫。むしろ、この時期ごろに魔人王はしかけてくる可能性が高いと見て、要塞視察に来たのです。ロミアさままで来ていることは予想外でしたが」


 「私も大丈夫です。こういう事ははじめてじゃありませんからね。今回はサクヤさまもいますし」


 二人は仲良く微笑(わらいあう。

 しかしこの二人。お互いえっちし合ったことには、まったく気がついてないみたいだ。この二人が仲良くしているのを見ると、妙な罪悪感が生まれてしまう。

 

 さて私達は現在、要塞高楼にあるラムスの最高指揮所近くにいる。

 ここからはたくさんの堡塁や射撃台が見え、それぞれにたくさんの兵が配置されているのが見える。

 こんなにたくさんの兵をラムスに統率出来るのか心配だが、ラムスは度胸もあるし、無駄に偉そうだし。案外うまくやれるんじゃないかな。

 やがて太陽が地平から完全に上がったころに、ついにその姿を見張りが確認できるまでに魔物軍団は迫ってきた。


 「敵先頭集団見えました! あれは……魔蜘蛛マグモだ!!」


 ザワッ……

 すさまじい高速移動でこちらに一直線につき進む黒い魔物の群れ。

 それはかつて、ここリーレットの領兵集団を壊滅した魔界の巨大蜘蛛であった。

 あの時はたった五匹であったが、今回のは何百匹もの大群となってこちらに向かってくる。


 「なんだよ、ありゃ……アレがあんなにいるなんて……」

 「知ってるか。あの魔物、たった五匹でリーレットの領兵全滅させやがったんだぜ……」

 「ヒイイイイッあれはヤバイ! 俺はあれに殺されたんだぁ……」


 ザワザワ…… ザワザワ……


 「いけませんね。兵に動揺が見えます。おそらく別の世界で魔界の魔物に殺された人間が多くいるためでしょう。今のうちに兵を掌握せねば、戦闘前に崩壊する可能性もあります」


 兵の良し悪しを一瞬で見抜くセリア王女さまが言うなら、そうなのだろう。

 たしかに魔界の魔物にトラウマを持っている人間は多いだろうな。

 だが、私がどうしようかと考える前にラムスが動いた。


 「おい、領主。ちょっと来い」


 「はい、どうしましたラムス様」


 ラムスに呼ばれたロミアちゃん。

 私も彼女の護衛としてついて行く。


 「臆病が兵どもに感染し始めている。ロミアよ。オレ様の代わりに高台に上がって、言葉をかけてやれ」


 「……へえ。どうして私に? 剣一本すら持てない小娘に、この大事な局面の統率なんてまかせちゃう?」


 「愚民どもを煽って動かすには、演技の技術がいる。が、さすがのオレ様も、これだけの兵を鎮める技術などない。だが、お前にはある。接敵までの間に何とかしろ」


 せまり来る恐るべき魔界の魔物の大群と、それに怯え崩壊しかかっている軍。

 それをロミアちゃん一人で鎮めろなんて、ちょっと正気を疑うような無茶ぶりだ。

 されど当のロミアちゃんは、この無茶ぶりに天使のように微笑わらう。


 「いいの? 私にまかせたら、私が主役になっちゃうよ」


 「かまわん。勝つことの方が大事だ。それにオレ様は、魔人王とやらをブッ倒して主役になるからな」


 「さすがラムス様だね。じゃ、兵士のみなさんに、ここの領主として挨拶してくるよ」


 高台とは、戦闘指揮所近くにある要塞を一望できる一段高い場所である。そこで指揮官やその伝令官が、そこに設置された音声拡散魔導具によって命令を発したり演説をしたりするのだ。

 ロミアちゃんは短い銀髪をなびかせ、軽やかにそこへ上がる。

 そして深く頭を下げ、あまりに優雅に淑女の会釈をした。

 幼くも美しい彼女が、あまりに無邪気で悪戯いたずら微笑わらってそこにいるため、一瞬で兵士たちは静まった。

 私も一瞬ここがどこだか忘れてしまったよ。


 「兵士一同の皆。私はここリーレット領領主のロミア・リーレットです。貴様らが直面しているこの戦いは私たちの家族、同胞を守る負けられない戦い。そしてかつてこのゼナス王国を救った英雄も参加する、勝利の約束された戦いです」


 根拠は薄くとも、ロミアちゃんがそう語るなら本当に信じられる気がする。

 なんだか彼女の”役者”の職業クラスがさらに洗練されている感じだ。


 「護りの弓を並べよ! 魔法師は呪文にて奇跡を起こせ! 隣り合う同胞と共に声をかけあい勇気を奮い起こせ! 貴様らの中の悪夢に反撃し振り払え! 私は貴様らの戦いを見届けよう、貴様らの後ろで」


 一転して今度は軍隊指揮官のような強い言葉で叫ぶ。その仕草も勇ましい貴族子弟の指揮官のものに変わった。

 勇ましさ、慈愛を交互に目まぐるしく変えて兵士に語り掛けるロミアちゃん。

 それによって兵の士気はグングン上がり、熱狂と変わった。


 「うおおおおっロミアさまぁ! あなたのために命も捧げますぅ!!」

 「いくぞ! ロミアさまの治めるこの地を、魔物どもに渡してなるものか!」

 「見ていてください、あなたに誓った忠誠の力!!」


 兵士の士気は最高潮に達した。

 私まで早く戦いたくなっちゃったよ。【栄光の剣王】は予備兵扱いだから、まだ動けないけどさ。

 そしてそれを頃合いと見たラムスも高台に上がり、号令を発する。


 「よォーし、者ども配置につけ! この王国の技術の粋を集めた堅固な要塞の上から、バケモノどもをなぶり殺しにしてやるのだ!!」


 「「「「応!!」」」」


 兵達は一糸乱れず整列し、それぞれの得物を構えて待ち構える。

 やがて十分に魔蜘蛛が前方平野に集うと、ラムスは景気よく大声で戦闘開始の号令を発する。


 「全体、一斉斉射!!」


 解き放たれた矢と魔法の五月雨さみだれが、城壁下の魔蜘蛛に降り注いだ。

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