100話 サクヤと七人の女達(後編)
師団長室でラムスが私に言った用件は、かなりぶっ飛んだものだった。
「サクヤ、前にオレ様になり代わってセリアを騙したと言ったな? もう一度オレ様になってセリアの相手をしてこい」
「ええっ! また師団長の仕事サボる気なの?」
「うるさい。アイツは最近やたら賢くなって、話が難しくて面倒なのだ。アイツとこんな事になったのもお前が原因だ。責任とってアイツの相手をしろ」
それを言われると弱い。セリア王女様が賢くなったのも、ラムスが婚約することになったのも、たしかに全部私のせいなのだから。
結局、ユクハちゃんに頼んでまた幻覚精霊パックルを使い、ラムスの姿になってセリア王女様を迎えることになった。
◇ ◇ ◇
またまた昨日の再現のような野郎どもの歓声の中の要塞裏正面の大門前。
その中心にて、ラムスになった私はロミアちゃんとセリア王女様を迎えた。
優雅に馬車を降りるセリア王女様は、やはり優雅で見惚れる美貌だった。
おっと、ラムスとして言葉をかけなきゃ。
「セリアよ。よく来たな。お前にしては、ずいぶんと大胆だな。こんな前線に王族が何の用だ」
「知りません。ラムス様こそ総督という立場でありながら、前線指揮官にむりやりなってしまうとは何事です。後方の体勢がしっかりしてなければ、前線は戦えないのですよ」
うーん、すねているセリア王女様も美しいな。
ま、こういう女の子をなだめる芸当にはラムスには無理だし、私が代わってよかったのかもね。
「うわはははは。その後方には優秀で素晴らしいオレ様の女がいるので安心だ。オレ様は安心して敵をブチのめしに来たのだ。さらなる英雄になるためにな」
「まったく……いつまでも子供のような方ですわね。いつまでもわたくしがラムス様のために働くなんて思わないでください。頼られても知りませんからね」
とか言って、頼られるのがうれしいクセに。
「うわっはっは。いーや頼ってやる。オレ様がオレ様のしたいように生きるには、お前が必要なのだ。いつまでもついて来い、セリアよ」
「もう……本当にしかたのない人ですね」
とまぁ、女心わかりまくりな私は適度に褒めたり頼ったり。
「すごい。あのラムス様が、姫殿下のお相手を上手にこなしている。ラムス様も成長してるんだねぇ」
と、ロミアちゃんもびっくりな紳士ぶりで要塞内を案内しながらのエスコート。
すっかりイチャラブになった所で、饗応の広間で三人で食事会となった。
ここは複数人の上位貴族をもてなす部屋だから三人だけだとすこし広い。それでも私たちは上等の食事を味わいながら楽しくすごした。
しかしメインのお肉が出たところで、セリア王女様がふいに言った。
「ところでサクヤさまはどうしたのでしょう? 姿を見せませんが」
ヤバイ! 私を呼ぶ流れになったら、どうしたらいいんだ。
「あ、いや、サクヤなど居る必要はなかろう。あいつも忙しいだろうし、放っておけ」
「むうっ。いくらサクヤ様だからって、王女姫殿下に挨拶もないなんて失礼だよ」
ううっロミアちゃん、そこは正論言わないで。
「わたくしへの礼はともかく、戦った魔物のことを聞いておきたいですね。やはりサクヤ様を呼んでもらいましょう」
ヒイイイイッ! ヤバイ!!
くそっ、こうなったら私を呼んでやろうじゃないか!!
「わ、わかった! サクヤはオレ様が呼んでこよう。首に縄をつけてでも引っ張ってくるから、待っているがよい!!」
「え? いえ、誰か人をやって呼びに行かせれば……ラムスさま?」
たしかにこんな場合は、そこにいる侍従にでも呼んでこさせるのが普通だ。が、それをされる前に私は飛び出した。
そして幻覚精霊パックルを操っているユクハちゃんの居る所へ飛び込んだ。
「どうしたんです、何かあったんですか?」
「ユクハちゃん、セリア王女様が私を所望だ。元の姿に戻して」
「ええっ? ラムスさんはどうするんです。何か用事ができて退席したことにするんですか?」
「そんなの出来るわけないよ。こうなったら、ユクハちゃんがラムスに変身してつき合って!」
「ええっ!? わ、わたしが⁉ 大丈夫でしょうか?」
「とにかく、この食事会の間だけお願い! 食事会が終わったら、また私がラムスになるから!!」
というわけで、今度はユクハちゃんがラムスになって、二人で戻った。
「セリア姫殿下、ロミア様、ただいま参上いたしました。ご無礼、どうかご容赦を」
「もう、ラムス様ったら。こういう場合は人に呼びにいかせるものだよ」
「まぁ、いいではありませんか、こういうのもラムス様らしくって。サクヤさま、では早速戦った魔物のことを話してください」
私はあの時の戦いを思い出して、面白おかしく話して、どうにかその場を乗り切った。
「さすがサクヤ様と【栄光の剣王】ですね。魔人王との戦いも期待していますよ」
「ありがとうございますセリア姫殿下。微力を尽くしてがんばります」
その言葉を締めくくりとして、食事会は終わった。
ふうっ、何とか乗り切った。ここで解散ならいいけど。
「ではラムスさま、国王陛下から師団長への言伝をたまわっております。内密ですので、あなたのお部屋へお邪魔したくあります」
ええっ! それはマズイ!!
それって、体のいいえっちの誘いじゃないか!!
そのラムスはユクハちゃんだし、ラムスの部屋には本物のラムスがいるし!!
ラムスの姿のユクハちゃんは顔面蒼白。私に助けを求めるように見ている。
くそっ、とにかくそれだけはユクハちゃんには無理だ。また私がラムスにならないと!
「ま、待ってください! 先に私が師団長さまへ大事な用があります。どうかしばらくラムスをお貸しください」
しかしそこに、ロミアちゃんが私の腕をとってやんわり遮る。
「サクヤ様、ダメだよ、二人の仲を邪魔しちゃ。サクヤ様には私がいるじゃない」
と、意味深な熱いまなざし。
ヒイイイイッ ロミアちゃんもえっちの誘い⁉
なんというエロティック・クライシス!!
くううっ、人間コンピューターな私の頭脳よ。この危機を脱する答えを導きだせえぇぇ!!!
そして神業的な時間差トリック、悪魔的な精霊幻覚、魅惑のエロテクを駆使した結果―――
「や、やった! ユクハちゃん、やったよ。見事に状況を切り抜けた、やはり私は天才だぁ!!」
「本当に……これで良いんでしょうか。その……じつに、ひどい事になっていると思いますが」
場所は私の部屋。
そこのベッドの上には、ロミアちゃんとセリア王女様が裸で深く愛し合っている。
「ああん、ラムスさま素敵! 愛してます」
「サクヤさま、今日はおとなしいね。今日は私の方がイジメちゃうね」
現在この部屋は、幻覚精霊パックルの力で催淫作用つきの強い幻覚空間となっているのだ。
私とユクハちゃんは結界を張っているので、その効果を受けてないが。
そしてロミアちゃんはラムスの姿に、セリア王女様は私の姿にそれぞれ見えている。で、現在は互いに幻の恋人とメイクラブの真っ最中というわけだ。
「あああああっラムスさまぁ」
「サクヤさまぁ。もっとイジメちゃいます」
しかしロイヤル美少女とノーブル美少女、王国に名高い絶世の淑女二人のレズシーンってヤバいね。
こんなシーン、王国中の紳士貴族が千金出しても見たがるモノだよね。
どうして私たちは、こんな豪華キャストのレズビアンショーをかぶりつきで見ているんだろう。
それもユクハちゃんと映画デートしているみたいに。
「ううー、すごく恥ずかしいです。お二人のこんな姿を見るのは、すごくつらいです。いつまで見てなきゃいけないんですか?」
「終わるまでだよ。とにかくこれが私たちの進む道。悲しくても見ていなきゃ」
「あううっホノウくん。わたし、あなたに純粋な気持ちで好きだったころに戻りたいです」
私もだよ。ただのゲーム好きだった女子高生に戻りたい。
しかし、他人がしているのを見るのは本当にキツい。恥ずかしさハンパなしのマックス状態。しかも普段は優雅で素敵なお二人が、メス同士ケモノ状態だからなぁ。
とにかくその日は、メス臭くてメスの鳴き声の響くこの部屋で、ものすごいものを延々と見ながらすごしましたとさ。




