10話 ハーレム要員第一号ノエル
「いた! ノエルちゃんだ!!」
檻の中の少女は、たしかにゲームのラムクエに出てきたノエルちゃんだ。
ちょっと幼い感じだが、たしかにそうだ。
そういえば、ラムスも原作より少し若い気がする。
もしかして、この世界は原作より少し前の時代なのかな?
「ま、それはともかく、これは千載一遇のチャンスだね。ここでノエルちゃんを買えば、第一関門はクリアしたも同然」
「あ、あの、お姉さん? ……ケホッ」
「ああノエルちゃん。あなたは私が今から買うからね。よろしくね」
「……え? わたし、病気がずっと治らなくて動けなくて……ケホンッ。とてもお役に立てるとは思えません……ゴホッ」
そうか。病気持ちだから、檻に『処分品』なんてついているのか。
原作通りのハイスペック魔法使いだったら、とても手が出ない値段になっていただろうし、今だけは良かったよ。
こんなこと思ってごめんね。
その代わり、君の病気はきっと私が治してあげるからね。
さて、値段は……二千パルーか。
私の所持金は七千パルーだし余裕だね。
「おい、いつまで関係ないものを見ている。コイツの値段は一万パルーだ。買うから、さっさとこっちに来い」
「ああ、待って。その前にこの子を買うよ。商人さん、この子の手続きをお願い」
「ふざけるな! 肝心の荷物持ちはどうするのだ!?」
「そっちも買うよ。私が出す分は五千パルーだよね。キッチリ残っているよ」
「足りんのだ! オレ様は三千パルーしかない。サクヤが七千出せないのら、買えないではないか」
「はい? 半々って話だったのに、どうして私が七千も出さなきゃなんないの?」
「うっ……そ、それは、この場は少し借りようと思ったのだ。二千はあとできっと返すから……」
「……ははぁ。手続きをすませて、あとに引けなくなった時に、それを言おうとしたね? 危ない危ない。商人さん、そっちはキャンセル。この子だけ買うよ」
牛人の手続きを用意していた奴隷商人は、あっけにとられて私を見た。
「は、はぁ。お嬢様、よろしいんですか? そちらの娘は人気の羊獣人なんで処分せずに置いてるんですが、いつまでも病気が治らなくて、とても役に立つとは言えませんよ。やはり先ほどの牛人の方が、お役に立てるかと思いますが」
「どっちにしろ、牛さんは今日は買わないよ。ラムスにお金に甘い所を見せたらダメ男一直線だ」
「おいっサクヤ! きさま、そんなことを勝手に決めて……!」
「お金は?」
「……足りん」
「と、いう訳。ラムスが自分の出す分をちゃんと貯めたら、改めて買わせてもらうよ」
「へ、へえ。それじゃ【栄光の剣王】のみなさま、これからもどうかごひいきに」
宿屋への帰り道。
私はノエルちゃんの手を引きながらラムスの後を歩いていく。
やっぱりラムスはプリプリ怒っている。
「まったくサクヤ! きさまが、そんなにバカだとは思わなかったぞ。病気がうつってクエストが出来なくなったらどうするつもりだ!」
「まぁ私はこういった病気の対処法はそれなりに知っているから、うつらないようにするよ。お金もためてノエルちゃんを治せるお医者さん……じゃなくて治癒師にもみせるつもりだし」
「安くはないぞ。簡単に治せるなら、奴らはとっくに治して売りに出している。治癒師に治させたら割に合わないから、そのままだったのだ!」
「ああ、そうか。ゴメン、牛ちゃんを買うのは当分無理だ。クエストは現状このままでいこう」
「ええい腹が立つ! オレ様は先に帰ってるぞ! 飲まずにいられるか!」
ラムスはドカドカ足を鳴らして行ってしまった。
「あの……」
と、手をつないで不安そうに私達を見ていたノエルちゃんが、はじめて話しかけた。
「どうして、わたしを……ケホッ買ったのですか? 何のお役にも…ゴホッたてないのに…」
それはね。ノエルちゃんにエロいことしてメロメロのアヘアヘにして、私の女にするためなんだよ。
言えないって!!!
ううっ企んでいることが、まったくの変態女で泣ける!
「あの、お姉さん?」
おっと、いきなり涙ぐんでしまった私を変な目で見ている。
さて、何と答えようか。
ごまかすにしても、あんまり目的と外れたことを言うのは良くないよね。
そういうことをする流れにするために。
「それはノエルちゃんが可愛いからかな」
『可愛い』はじっさい嘘じゃない。
モコモコな髪も可愛いし、顔立ちもかなり整っていてやっぱり可愛い。
処分品にしてはそこそこな値段がついていたのも、容姿のおかげだろう。
「可愛い……ですか。ケホッ、それだけでお買いになったのですか?」
「うん、ホントにそれだけ……じゃなくて、あとは運命も感じたからかな」
「運命……ですか? コホコホッ」
「そう。ノエルちゃんはきっと、私とこうやって手をつなぐ運命だったんだよ」
幼ない子供相手に、生まれてはじめて口説き文句とか言ってみたけど。
やっぱり変な顔をされただけだった。
でも心なしか、つないだ手が「ギュッ」と強くなったような気がする。
「名前を……ケホッ教えてください……」
「サクヤ。これからよろしくね、ノエルちゃん」
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