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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
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ただより高いものはない、と昔の人は言いました

「褒美じゃ、褒美。主殿、どんな褒美と思う?」


 やったーと手をあげて喜ぶベクトラ。

 子どものような喜び方に思わず微笑ましくなる。


「さぁな。むしろ、ベクトラは何がいいんだ?」


 そつなく万能型が何を欲しているのかちょっと気になる。

 やっぱり、盗まれた刀とか腕輪だろうか。


「そうじゃのう」


 頬に指を当てて、ベクトラが宙を見つめて考える。

 あれ?

 刀や腕輪ではなさそうだ。


「リン殿じゃったら胸と即答するところじゃが、拙者は自前のが十分あるしのう」


「ちょっと! なんで私なら胸なのよ!」


 うぅぅと涙目になってリンがベクトラを睨む。

 俺と目が合うと、リンは恥ずかしそうに腕を前にだして胸を隠そうとする。


「わかります! リンさんは絶壁……じゃなかった、まな板……でもなく胸がなだらかですもんね!」


「全然フォローになってないわよ、アル!?」


「いえ、リンさん。気持ちはわかるんですよ。胸に憧れる気持ちは私もありますからね」


「え?」


 アルの言葉が意外だったのだろう。

 リンの怒気が一気に霧散する。

 どういうことなのとリンが聞くと、アルは自分のなだらかな胸部を手で触る。


「私はふくらみかけと、実はリンさんとは派閥が違うのですが、胸が小さいのは一緒です」


「アポロ。私もアルを折檻してもいい?」


 満面の笑みで聞くのが怖い。

 あかん。

 これはブチ切れている。

 アルは気がつかないのか、それとも気がついて言っているのか。

 そのまま機嫌よく話をすすめる。


「時々、アポロさんから視線を感じるのですよ胸部に」


「アポロ」


「主殿……やっぱり」


 ブリザードに匹敵する冷たい視線が仲間達から!?


「待て! 誤解だ! そして、やっぱりって何だ!?」


「で、アポロさん、私の胸部を見てはぁと溜息をつくのです。あ、これは胸がないからだなとわかりました」


「わかってねぇよ!」


 アル自体を見て溜息ついてんだ!

 けっして、アルの胸云々で溜息をついてるわけではない!


「というわけで、アポロさんが望むなら巨乳になろうと思いますがどうします?」


 アルは視線を輝かせて聞いてくる。

 アルの金色の瞳を見た瞬間、わかってしまった。

 これはギャグじゃなく、普通に聞いているのだと。

 ウィンドウショッピングで女性がこの服どうかなと聞いてくるようなノリだ。


「いや、アルの体型で巨乳も違和感があるような気がするんだが……? バランス? それが悪くなるような?」


 見慣れているせいだろうか、アルの小さな体に不釣り合いな巨乳があると違和感がある。


「ふむ。……つまり、いつもの私が好きだと?」


「ああ? うん。そ、そうだな」


「わかりました」 


 何がわかったのだろうか。

 アルは神妙な顔で頷いている。


「では、主殿。リン殿ではどうじゃ? 胸があるリン殿とない方のリン殿。ビジュアル的にどっちがお好みか」


「え゛……」


 アルに話しかけようとしたら、ベクトラが聞いてきた。

 それも答えづらいことを。


「ええっと……」


 チラリとリンを見るも、リンは顔をそむけていて表情がわからない。

 ただ、耳がピンとまっすぐ伸びて、真っ赤になっていた。


「では、リン殿と特定せずに胸のあるなしどっちの方が好きなのじゃ?」


 話題が変化するが、大事な部分が変わってない。

 何、これ。

 答えないといけないのか……。


「ここらで腹を割って話すべきじゃと思うのじゃ」


 腹を割って話すことが、性癖なのか。

 男同士ならわかるが、君達女性だろと言いたい。


「ちなみに楓さんの胸は大きいんです?」


「え? なんで楓?」


「いえ、ふと思いまして」


 視線が俺に集まる。

 ベクトラやアルに顔を向けているので、実際はどうかわからないが、リンが見ている気がする。視線が突き刺さるのを感じる。


「あ、あいつは大きいな」


 恥ずかしい。

 え、なにこの羞恥。

 そもそも答えなきゃいけない質問なのか、これ?


「ふむ。アポロさんは大きな胸が好きと」


「なぜその結論になる!?」


「横から口出しするけど、正解だね。響君の蔵書には胸の大きな女性が多いよ」


「トスカリー様!?」 


 ちょっ、貴方何言ってんの!? 何で俺の部屋のこと知っているの!? プライバシーは!?

 トスカリー様に目が合うと、片目を閉じてにこやかに微笑まれた。

 その笑顔が憎い。


「ま、でも残念だけど、褒美で胸を云々というのはなしだね。もう、あげるものは決めているんだ」


 眼鏡のブリッジを指で押しながら、トスカリー様は口角をあげる。

 上機嫌だ。

 それなら、もっと早く止めて欲しかった。


「リン君」


「あ、はい!」


 名前を呼ばれたリンが姿勢を正す。

 

「頭をだして欲しい。そう、さっき響君がやったみたいに」


「おじぎをするのだぁ」


「いいから黙ろうな」


「い、痛いです。ちょっと力加減が……」


 先程の恨みを込めて、アルの頭を掴み、力を入れる。

 

「いくよ」


「はい」


 トスカリー様がリンの頭に手をかざす。

 

「精霊の親和を望む者よ。

 汝は命の続く限り、汝の身は精霊の下に。汝の運命は精霊と共に。

 この契約に従うのならば、精霊は汝の友として力を貸そう。

 健やかなる時も危機に瀕する時も、汝に寄り添い、剣となり、盾となろう。

 汝は求めるか。

 求めるなら、汝の真名において誓約せよ」


 厳かな声音でトスカリー様は告げる。

 リンは最初体をビクつかせていたが、言葉の途中には落ち着いていた。

 頭を伏せたまま、リンが口を開く。


「我は精霊の親和を望む者。

 我が命続く限り、我が身は精霊の下に、運命は精霊と共に。

 リン・エスタードの名の下に誓約する」 


 リンの言葉が終わった瞬間、リンの周囲がぼんやりと暖かくなった。


「ん。これで終了だね。顔を上げていいよ」


「ありがとうございます」


 顔を上げたリンの顔は晴れやかなものだった。

 やり遂げたという感じがする。


「なんとなくはわかるんですが、さっきの契約って何でしょうか?」


「精霊契約じゃな」


 ベクトラは腕を組んで頷く。


「うむ。精霊魔法を使う者は精霊の力を借りねばならぬ。いくら魔力が強かろうが、精霊の協力なしでは魔法が発揮できん。そして、中級精霊以上には特別な契約が必要じゃ」


「じゃあ、今のって……」


 リンも俺と同じ下級魔法しか使えなかったはずだ。

 今の契約で……。


「うん。グレードが上がったね。これによってリン君の精霊魔法は強化された」


「良かったですね、リンさん」


「うん! これでもっとアポロの力になれるわ!」


「と、トスカリー様。拙者は? 拙者はどうなのじゃ?」 


 力を、もっと力をとか危ないことを口走るベクトラ。

 隣にいて、ちょっと怖い。


「んじゃ。次はベクトラ君だね。さっきと同じように頭を出して」


「…………」


 ベクトラは黙って頭を差し出した。

 ベクトラもリンと同じように精霊魔法についての力を貰うのだろうか。

 でも、ベクトラは神聖魔法という回復魔法についての素養があるが、精霊魔法の素養がないと言っていた。


「もし、精霊魔法でしたらリンさんの存在価値がまた薄れますね」


 小さな声でぼそっとアルが言う。


「またって何よ!」


「しっ! 静かに」


 トスカリー様と当事者のベクトラが真剣なのだ。

 外野がうるさくしちゃ駄目だ。

 俺の言葉にリンとアルが口をつぐみ、ベクトラを見守る。


「癒やしの神、ノストナーラの代理としてベクトラ・レイラインに尋ねる。

 汝は信じる神を変えよっかなと本当に思ったのですか?」


「え?」


 なんか変な言葉が聞こえたような。

 思わずリンを見る。

 これが契約の文言というのか。

 リンは首を素早く横に振る。

 ……違うみたいだ。

 思い返せば、え? という言葉はベクトラの声だった気がする。

 頭は下げたままなのでベクトラの表情はわからない。

 ただ、トスカリー様の表情は至極真面目なので、口を挟めない。


「癒やしの神、ノストナーラの代理としてベクトラ・レイラインに告げる。

 汝をけっして逃しはしないからねっ、と」


「…………アポロさん」


「何も言うな」


 ベクトラは顔を伏せたままガクガク震えている。

 その動作の表情を見て、俺はフォローも茶化すこともできない。


「さぁ、顔をあげて」


 トスカリー様は晴れやかな顔で言う。

 やりきったといった感じだ。

 ベクトラはトスカリー様の言葉にゼンマイ式おもちゃのようにギギギとした動作で顔をあげる。


「と、トスカリー様。さっきのは?」


「ん? 私は伝言を承っただけだからね。言っただけさ」


 何でもないと言った風に自然に笑うトスカリー様。


「でも、力は受け取ったよね? ノストナーラからの」


「は、はい。感じるのじゃ……嫌というほどに」


 最後ぼそっと、消え入りそうな声でベクトラが言う。

 なんだろう。

 力を得て、おめでとうとなるはずが、この空気は。


「さて、次は」


 トスカリー様は目線を空中に。


「え、私ですか?」


 その目線の先はアルにだった。

 アルは自分を指差して驚く。


「アルも貰えるのですか?」

 

「うん。最後の試練ではパーティー全員で協力して試練を乗り越えたからね。資格は十分さ」


 そう言って、トスカリー様はパチリと指を鳴らす。

 すると、何もない空間から槍が出てきた。


「あ、この槍って……」


 ふよふよと空中に浮かぶ槍。

 その槍の形は見覚えがある。

 吉岡の形見でもあり、精霊の槍で、


「氷槍ターラレツア」


 真名を氷槍ターラレツアと呼ぶらしい。

 精霊の槍と呼んでいた頃はリンの瞳と同じ翠色の鮮やかな槍だった。

 観賞用とも、芸術品とも呼べるグリーンエメラルドの槍。

 だが、今は氷槍の名に相応しい碧色だった。

 空の青とも、海の青とも違う色。

 見ているだけで極寒の地に立たされるような威圧がある。


「これが精霊の槍だったものなのか……?」


 俺がリゼットの村であの魔物と戦った時に、突然真の姿を現したという。

 何でもリンの力を全て吸い取って、あの魔物を氷の彫刻にしたんだとか。

 俺達にその記憶はない。

 俺はミルファを庇ってからの記憶はないし、リンも氷槍ターラツレアを投げた瞬間、意識を失ったという。

 だからこれはミルファとアルから聞いた話だ。

 信じないとは言わないが、信じがたい話である。

 もう氷の彫刻にしたら死んでないかと思う。

 しかし、あの魔物は氷の牢獄を突き破って出てきて、それを俺が魔法を唱えて倒したらしい。


「凄いな」


「うむ。拙者も後から聞いた話じゃったし、リン殿の法螺と切に願っておったのじゃが……これを見ては信じないわけにはいかぬ」 


 この槍ならばあの魔物を倒せる可能性はある。

 この槍に込められた力を自壊するのも構わずに炸裂させたならば、どんな魔物でも倒せる力はあるだろう。

 正直、あの魔物が死んだのは俺の魔法じゃなく、この槍で瀕死になっていたのではないのか。


「これを貴女に」


「私にですか? でもサイズというか槍を扱えないですよね?」


「はい。でも……」


 トスカリー様はチラッと視線を横に動かす。

 その視線の動かした先にはリンがいた。


「…………」


 リンは餌をお預けされた犬のように、ショーケースに展示されたトランペットを見つめる子どものように、氷槍ターラツレアをじっと見つめていた。

 目が釘付けだ。トスカリー様の言葉もまともに聞こえていないだろう。


「ただ、このままじゃ扱いにくいし。芸がないからね。改良させてもらうね」


 そう言って、トスカリー様はターラツレアに手をかざし、何かブツブツと唱える。


「うわっ」


「おおっ」


 トスカリー様の言葉と共に光の奔流が走り、槍の周囲を渦巻く。


「……ん、出来た」


 長いといえば長い、短いといえば短い時間で、その光の奔流は止まった。


「色がまろやかになってますね」


「うむ。威圧感がなくなっておる」


 槍の色が穏やかになった。絶対零度の氷を髣髴とさせる碧は気品のあるライトブルーへと変わった。

 それと共に寒気を覚える威圧がなくなり、元の槍にあった芸術性が強まっている。


「氷槍ターラツレアあらため、氷槍ターラツレアMk-Ⅱ」


「その言い方はどうかと」


「響君的にはヴァージョン2.0の方が好きかい?」


「Mk-Ⅱでいいです……」


 そんなシステムチックな名前の武器は嫌だ。

 

「はは、冗談だよ。聖霊である私が加護を施したから……聖槍ターラツレアとか呼ぼうか」


「おおっ、なんか凄い武器っぽくていいですね、それ!」


「だろ?」


 アルの快哉にトスカリー様は片目を閉じて微笑む。

 アルはトスカリー様のウインクに体をビクリと震わしたが、ぎこちなく笑い返す。


「で、この武器を貴女に」

 

 氷槍ターラツレアあらため、聖槍ターラツレアがふよふよとアルの元へ。


「で、でも……」


「うん。褒美として貴女に与えるけど、どう使うかは自由だね。欲しがっている人もいるみたいだし」


 茶目っ気あふれる微笑をしながら、トスカリー様は視線をリンへと移す。


「ひゃ、ひゃい!」


 その視線を受け、リンは声を震わす。


「あげてもいいのですか?」


「これはもう貴女のものだからね。自由に使うといい」


 自由にという部分にアクセントがつく。

 その言葉にアルは目を開く。


「アポロさん、これって……」


 トスカリー様の言いたいことがわかったのだろう。

 アルが呆然と呟く。


「違うと思うぞ」


 とりあえずツッコミを入れておく。


「神の啓示を聞きました」


「気のせいだ。悪魔の囁きだと思うぞ、それ」


「ええ。リンさんは仲間です。とても大切な仲間です」


「えっ、えっ、えっ」


 もしやくれるの、やっぱりくれる流れだよねと、目を輝かせてアルを見あげるリン。

 それは餌をお預けされた子犬のようであり、瞳には純真無垢の言葉を感じさせた。

 まるで成長していないと呆れればいいのか、その純真さが世間の荒波に傷つけられてないと褒めればいいのかわからない。

 というか、俺とアルの会話で気がついて欲しい。

 ベクトラなんか背を向けて口元を押さえているし。

 

「私が立派な槍を貰ってもしょうがないですからね。使える人に使ってもらうのが槍にとってもいいのではないでしょうか?」


 にっこりと人を安心させるようにアルはリンに微笑む。

 このワンシーンだけ見れば、聖女の微笑みであり、悪魔の微笑だ。


「えっ、あ、アル。く、くれるの?」

 

 この場合それしかないのに律儀に伺うリンの真面目さに好感をおぼえるが、それを踏みにじるのがアルだ。

 路上に生えた可憐な花を踏みにじるように、リンの純真な心を折る。


「ええ。貸し与えますよ」


「え? 貸し……与え……る?」


「はい! 前の槍と同じです。いくらになりますかねぇ、アポロさん?」


「俺に振るな」


「ククッ……リン殿の借金が増えるのう」


「それも氷槍の時よりパワーアップしてますものね。ちょっとこの場では判断できませんから、しかるべきところで鑑定してもらいましょうか?」


「おのれは鬼か」


「あ゛あ゛……」


「一件落着じゃな」


「どこがよ! ねぇアル、嘘よね。嘘だって言ってよ」


「リンさん。仲間と言えども金勘定は別です。なーに借金の数字が増えたと思えばいいのです。数字だけの問題です」


「よくないわよ! 返せない! 返せない額になってるわよぉぉぉぉ!」


「さて、響君。ちょこっと気になったんだけど、キミの剣傷ついているよね?」


「サラッと流すのですね。いや、ま……いいんですが」


 ユエルモンスターにしてもリンにしても、もしやエルフに恨みでもあるのだろうか。

 リンとアルが騒ぐのを一切気にすること無く、トスカリー様は俺に別の話題を振る。

 俺は剣を抜き、トスカリー様へと見せる。


「ふんふん。刃こぼれが酷いね」


 トスカリー様は剣を手に取り、じっくりと見る。

 そして、満足したのか剣を鞘に収め、俺に返した。


「ゴーレムとか魔物とか斬ったりして酷使してましたからね」


 むしろ、ゴーレム相手に折れない剣を賞賛したい。

 予備の剣があるから武器が無くなるという心配はないが、気にいって使っていただけに残念でもある。


「リゼットの村に鍛冶屋があるからそこで直してもらうといいよ、あと、道中魔物にあわないように加護でもかけておくよ」


「……ありがとうございます」


 神妙に頭を下げて礼を言うが、内心残念という気持ちもある。

 あわよくば、リンみたいに武器貰えないかなぁと期待したのだ。

 顔をあげると、俺の考えていることがお見通しなのかトスカリー様はプッと吹き出す。 


「失礼しました。浅ましかったですね」


「いや、いいよ。気持ちは十分わかるし」


 瞳を貰っただけで十分過ぎる対価だ。

 過ぎたるは及ばざるが如し。肝に銘じる。


「さて、これで褒美は終了だね」

 

 パンと手を打ち、トスカリー様は立ち上がり、俺に手を伸ばす。

 握手をしようということだ。

 俺達も慌てて立ち上がり、トスカリー様の手を握る。


「あ、ありがとうございました」


 聖霊様と言っても、普通の女性と変わらない小さな手だった。

 柔らかく、細い指の感触。


「ははっ、いろいろあったけど楽しかったよ。もっと話したい気持ちをあるけど、これでも多忙でね。やることが多いんだ。これで、さよならさせてもらうよ」


「はい」


 トスカリー様が手を離す。

 そして、俺の目を見た。


「響君、君の異世界での目標の一つに、『異世界で楽しむこと』があったよね?」


「え? あ、はい!」


 何で知っているのだろうという驚きと何故今ここで言うのかという疑問がわいた。

 トスカリー様は俺の怪訝な表情を気にすること無く、俺の目をしっかりと見据え、微笑んだ。


「楽しんでね」


「え……?」


 その瞬間、目に映る景色がぶれた。

 トスカリー様の姿が、その後ろにあった机や窓も縦に振動する。

 

「え?」


「あ……」


「ここは塔の真ん前じゃな」


 気がついたら、外に出ていた。

 

「終わったのか?」


「みたい?」


 リンが槍を持ったまま、首を傾げる。


「あっという間じゃったな」


「言いたいことだけ言って逃げた気もしないではないです」


「だな」


 最後の言葉はどういう意味なのか。そのまま取っていいのだろうか。

 少し疑問に思うことがあるが、


「帰るか」


「うん」


「うむ」


 まず帰るのが先だ。

 仲間達の顔は晴れやかに。

 懸念は解消された。大手を振ってリゼットの村に帰れる。


「聖霊様のお墨付きがつくほど、ダンピールの危険性がなかった! それなのにボコったり牢屋に閉じ込めたりしましたからね? 慰謝料取れるんじゃないでしょうか? 待っててくださいね、リゼットの村! 今、リンさんが訴訟を起こしますからね!」


「何で私なのよ!」


「借金を減らすためにリンさんが訴訟を起こすのです! むしろ、私は無関係な立場にいるつもりです!」


「ずるいわよ! やるならアルがやってよ! 私、無関係でしょ!」


「おやぁ、借金している人の発言とは思えませんね? 私がやったらリンさんの借金額は減りませんよ?」


「ひどい! そんなの私が村に人に恨まれるじゃない!」


「なぁに、聖霊様のせいにすればいいのですよ。聖霊様がリゼット村にアポロさんに謝罪と賠償をするように言ったとか言えばいいのです!」


「あ、なるほど……」


 それでいいのだろうか。

 言いくるめられていると言おうか、洗脳されていると言おうか。


「……リン殿は金の亡者じゃな」


「というかアルが外道すぎるような。冗談を言っているのに、そう聞こえないのが怖い」


 借金はとても怖い。

 これが俺がユエルの塔で得た教訓だった。


 

次回エピローグ的なもの。その次は閑話を入れて、この章は終了です(予定


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「キャラクターメイキングで異世界転生」明日、10月8日発売です!

早いところでは本日にも出ているとのこと。よろしくお願いします!




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