139 あの頃の俺は(2)
この話は森田広葉視点です。
発明品を紹介されている間、俺はなんだか未来の技術を紹介されているのかというほど、発想や機能がぶっ飛んでいて、こいつは本当に凄いやつなんだなぁ、と改めて実感していた。
「次はこれ! 頭の一点を支えて空を飛ぶ、プロペラ!」
「おい! そのままじゃねーか!」
お馴染みだけど、絶対作れなさそうなの作ったな、首とか大丈夫なのかそれ。
「不満ですか? じゃあ次はこれ。 物忘れ防止装置、通称、物忘レン君改です!」
「いや、改って言われても、俺初期知らねぇし。 あとなんだそのふざけたネーミングは」
「ふざけてないですよ! 五時間かけて考えたんですから。 あと初期の機能はそのまま引き継いでいるので、とてもお得」
五時間かけて、それって本当にセンスないんだなこいつ。
たぶん、五時間かけて、違う発明品した方がいいと思うぞ。
「どこかの通販に出てくる商品の紹介みたいだな。 それで、その機能ってなんだ?」
「元々は忘れた記憶を思い出すために、貯めていた記憶を上書きして思い出す、という単純な機能だったんですが」
お前単純って意味知ってる?
蔭道蕾基準で言われても俺わかんねぇよ。
「それが初期の機能なのな」
「はい、そのあと少し失敗をしてしまって、偶然によって完成したのがこれです」
おい、偶然かよ!
本当に大丈夫なのか、それ?
「まぁそれはいいとして、何が追加されたんだ?」
「結局は記憶を上書きする装置な訳ですよ。 ‥‥‥‥なので自分の記憶を他人に上書きしたらどうなると思います?」
それって‥‥まさか‥‥。
「中身だけ変わるってことか?」
いや、そんなことできるのか?
いくら、蕾が凄いやつでもそんな非現実的な物なんて作れるのか‥‥。
「はい、ひーくん、大正解です♪ しかしそれは色々な条件が揃った場合のみなので、ほとんど初期と変わらないです」
「いや、普通にスゲーなそれ。 なんだか、今回の、この発明品で蕾のこと天才だと思ったわ」
将来的にも作られることはないんじゃないかと思う。
それぐらい、あり得ないものを、この天才女子大生は作ったのだから。
「他のもよかったと思うんだけどなぁ。 でも、ひーくんが認めてくれるならなんでもいっか!」
こいつは何故か俺の存在を過大評価しているような気がする。
俺はお前に尊敬されるような人間じゃないんだけどな‥‥。
それと同時に蕾は俺以外の人間のことをほとんど信用していないし、興味もないようだ。
言葉遣いも俺と接するときと大分違う。
この前偶然聞いたときは、こいつ本当に蕾か? と思ったぐらいだ。
「おい、蕾。 いつもいっているが、お前俺のことを買い被り過ぎてないか?」
「何を言いますか! ひーくんは私のヒーローであり、王子様なんですから、買い被るなんてそんなことありません!」
蕾はキラキラした笑顔で、俺を見つめている。
そういう顔を他の人にもしたら、きっと友達も増えるはずなんだがな‥‥。
「俺を慕ってくれるのは嬉しいが、もっと他の人にも優しく──」
俺が最後までいう前に、蕾の顔は先ほどまでの笑顔とは打って変わって、無表情で尚且つ冷たい目になった。
「は? 嫌です」
蕾から向けられる負の感情に、俺は次の言葉が出てこなかった。
「‥‥‥‥あ、ごめんなさい、ひーくん」
「いや、大丈夫だ。 それよりさっきの続きを聞かせてくれ」
ここは、話をそらさないと、空気が重くなりそうだったしな。
言いたいことはあったが、仕方がない‥‥。
「続きですか?」
「あぁ、その何とか改ってやつの新しい機能の条件の内容だ」
実際、それも聞きたかったし、丁度いいだろう。




