107 こういうのって難しい
ようやく家に帰ってきた私は、誰もいないであろう家に言った。
「ただいまー」
まぁ、自分一人しかいないけど何となく言いたくなるんだよね。
言わないと落ち着かない。
「お帰り~」
「お帰り、奈留ちゃん」
はぁ、何となく想像できてたけどさ。
リビングの電気もついてたし。
「どうしているんですか? 森田さん、祈実さん」
一応言っておきますけど、不法侵入ですからね!
まぁ、なんか広葉の方は慣れつつあるんだけど。
祈実さんは珍しいな。
「いや、俺は何となくお腹が空いたなぁ~と思っていたら」
「思っていたら?」
「いつの間にか家にいた」
そんな馬鹿なことがあるのか!?
というか、私の家、別にレストランじゃないですからね!
広葉が勝手に食いに来てるだけだから!
「私は何となく面白いことないかなぁと思っていたら」
「思っていたら?」
「いつの間にかここにいたんだ♪」
初めの言葉でそうじゃないかなぁとは思ってたけどさ、だから、そんな馬鹿な!
「そんなことで、ここにいたんですか‥‥それでいつから?」
「ん~二時間前?」
長い!
「そんな時間よく何もせずに過ごせましたね!?」
「いやいや、流石になにもしないなんて無理だよ~」
「だから、二人で遊んでたんだ」
へぇ、この二人で遊ぶですか‥‥。
この二人が一緒に遊ぶってイメージがないので、何してたのか少し興味が出てきました。
「何をして?」
「「ごっこ遊び!」」
えっと‥‥‥‥は?
◇◆◇◆◇◆
ごっこ遊びとは子供がなにかに、なりきったりして遊ぶ遊びである。
まぁ子供の頃にはよくある遊びだが‥‥。
「えっと‥‥何言ってるんですか?」
「ごっこ遊びだよ?」
祈実さんは、わからないの? と言いたげな表情で首をかしげていた。
「いえ、それはわかってるんですが。 キャラになりきったりとかですよね」
「そうだけど、今回やってたのは、そういうのじゃなくて、恋愛のありそうでなさそうなことをする、みたいな感じだよ」
あーそういうことですか。
あり得なそうな恋人になりきるってことですよね。
「なるほど、納得です。 じゃあ私は晩御飯作るので」
「うぇ!? 奈留ちゃん無関心!? やらないの?」
「やりませんよ」
なぜ私がやるということになっているんだ広葉よ。
そんな面倒そうなことをやる必要はない。
「奈留ちゃんもやってみようよ♪」
「やりましょう!」
「祈実さんとの違いが凄い!」
◇◆◇◆◇◆
「まぁそんながっつりやる訳じゃないから。 ワンシーンを少しって感じで」
「そうなんですか」
はぁ、結局やることになっちゃうんだよなぁ。
自分が言っちゃったから後戻りできないし。
「じゃあまず、奈留ちゃんが告白して、広葉が振る感じで」
「えー!? 何で俺振っちゃうの!? あり得ないでしょ!」
「いやまぁそこで私が奈留ちゃんを励ましてみたいな?」
「あ、くっつくのそっち!?」
広葉もその反応するよね、私も少し驚きましたよ。
あとなんかごっこというより、本当にドラマのワンシーンみたいだね。
「いや、そっちの方が楽しいかなぁって」
「まぁ、今回はそれでいいけど、次は俺が決めるから!」
「あーはいはい。 じゃあ呼び方は奈留ちゃんは先輩ってつけて、広葉くんは呼び捨てね」
「中々緊張するな、それ」
「先輩ですか‥‥」
全然広葉のこと先輩って思ったことないけど、まぁ呼ぶだけなら‥‥。
「それじゃ、やってみよっか。 じゃあはじめ!」
そんなすぐ始めちゃうんだ‥‥まぁいいけど。
「先輩、ちょっといいですか?」
「ん? どうしたんだ奈留?」
「森田先輩‥‥私、先輩のこと好きです‥‥お付き合いしていただけませんか?」
嘘だと思っていても何だか恥ずかしいな。
「すまん、俺には好きなやつがいるんだ。 諦めてくれ‥‥「おい」‥‥え?」
「あ」
私達三人は、同じ方向に目を向けた。
リビングのドアの前にいつの間にか帰ってきたのか兄さんが‥‥、
「おい、てめぇ、どういうことだ広葉」
たまに、兄さんと広葉ってこういうときあるよね。
間が悪い!
「いや、これは違うんだよ!? ねぇ、陸聞いてる? ちょ、待って! まずは話し合おう!?」
「俺の奈留を振っておいて、ただで済むと思うなよ?」
「ち、違うんだよ陸! これは‥‥そ、そう! 遊び、遊びだったんだよ!」
「は? 遊び? お前‥‥」
あ、さらに勘違いされた。
ど、どうしよう!?
「祈実さん!」
「初々しい告白で大変良かったです。 よしよし」
ふぁ~祈実さんが頭を撫でてくれてる~。
って! 祈実さん二人を無視!?
「覚悟しろよ、広葉‥‥」
「助けて、奈留ちゃん!! 助けて───!!」
はぁ、やっぱりこうなるんですね!?




