18 はじめてのクエスト
18 はじめてのクエスト
魔導装置の下敷きになったレセプルは自力では脱出できないようだったので、俺とティフォンとイズミで力をあわせて救出する。
俺がステータスアナライザーを持ち上げ、そのスキにティフォンとイズミがレセプルを引っ張りだした。
「お……オンボロの魔導装置は、これだからいけませんわね」
レセプルは助けられた礼も言わず、フンと目をそらしてクシャクシャになったツインテールを直す。
そして何事もなかったかのように、
「それではユニバス、あなたをこのギルドの人材として登録してさしあげますわ。
職業は、そうですわねぇ……」
レセプルは背後の壁にある『職業一覧』を見上げる。
そこには冒険者だけでなく、様々な職業がネームプレートとなって掲げられていた。
ネームプレートはヒエラルキーのように三角形の形に配置されており、一番上は『勇者』。
その下に、『賢者』『聖女』『剣聖』などの上級職が続く。
レセプルの視線はどんどん下に降りていき、最底辺のところで止まった。
『人夫』と書かれているネームプレートを取る。
「ユニバス、あなたのステータスだとどの職業にも引っかかりませんでしたわ。
したがって職業はステータスを問われない『人夫』に決定ですわ」
「そんなぁ!」「あんまりです!」とさっそく異論が噴出する。
「それって冒険者の職業じゃないよね!? わたしたちはユニバスくんといっしょに冒険がしたいの!」
「ユニバス様は、わたくしたちを幸せの絶頂に導いてくださいました! そんな偉大な殿方が、なんの職業適性もないだなんて……!」
「そうだよ、レセプルちゃん! 職業一覧の上のほうに『精霊使い』ってあるじゃない!
あれこそが、ユニバスくんにピッタリの職業だよ!」
レセプルはまた吹き出した。
「ププッ、無能のユニバスが『精霊使い』だなんて、ゴブリンが賢者になるのと同じくらいありえないことですわ。
『精霊使い』というのは、あのような方のことをいうのです」
レセプルが示した先は、ギルドの奥にある、冒険者たちが集まるサロン。
そこにはギルドのエースたちの肖像画が飾られていた。
窓ほどもある額に入れられた勇者パーティの面々のほかに、見るからにキザそうな色男の、全身を描いた肖像画が掲げられている。
キザ男の足元には、美女の精霊たちが跪いていた。
「あの方は当ギルドきっての『精霊使い』であるドラハンさんですわ。
ご覧になってのとおり、容姿も身なりも連れている精霊も、ここにいる無能とは大違いでしょう?」
「むっかぁーーっ!」と肩をいからせるティフォン。
一陣の風が起こり、金髪のポニーテールが、怒れる猫のシッポのようにぶわっと広がった。
「あらあら、本当のことを言われてお怒りになるだなんて……。
いずれにしても、うちのギルドで揉め事を起こしたりしたら、どこも雇ってもらえなくなりますわよ?」
俺は、ウーウー唸るティフォンの肩に手を置き、彼女を押しとどめる。
そしてレセプルに言った。
「レセプル、俺は『人夫』で構わないから、ギルドに登録してくれるか」
「もうやっておりますわ」
レセプルは背を向けたまま『ギルドカードメーカー』の魔導装置を操作している。
『人夫』のネームプレートを装置に差し込むと、『人夫ユニバス』と焼印の押された木製の板が吐き出される。
レセプルは振り返ると、木板と1枚の羊皮紙をカウンターに置きながら俺に告げた。
「これでギルド登録が完了いたしましたわ。
最底辺の職業のギルドカードは木製なので、折ったり燃やしたりしないように注意するのですわ」
俺はギルドカードを受け取りながら「そっちの紙は?」と尋ねる。
「こちらはクエストシートといって、あなたに与えられた最初の依頼が書かれておりますわ。
30分後に集合ですから、すぐ行くといいですわ」
「なになに、どんな冒険!?」と紙をひったくるティフォン。
しかしその顔は、すぐに苦虫を噛みつぶす。
「『水不足の村に井戸を掘る』って……これ、冒険でもなんでもないよ!? わたしは冒険がしたかったのにぃ!」
「仕方がないでしょう。人夫に与えられる仕事というのは、今はそのくらいしかないのですから。
怨むなら、冒険者の適正がなかった無能のユニバスを怨むんですわね」
「むっ……! むぅぅぅぅぅ~~~~っ!」
ティフォンはこのギルドに来てからというもの、ずっとふくれっ面が続いている。
このままでは本当に爆発しかねないと、俺はクエストシートを受け取り、ティフォンを引きずるようにしてギルドを出ていく。
案の定、街の外に一歩出た途端、ドカンと爆発した。
「ユニバスくん、なんで言われっぱなしでいるの!? あそこまでバカにされてるのに、なんで言い返さないの!?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。あの子はまだ幼くて世間知らずなんだ、大目に見てやってくれよ」
「世間知らずにもほどがあるよ! わたしと同じ精霊なのに、ユニバスくんにあんな態度を取るだなんて!」
イズミはすっかり気後れしていた。
「でも、驚きました……ユニバス様を敬愛されない精霊様が、この世界にいるだなんて……」
「きっと相当なひねくれ者か、大バカなんだよ!」
レセプルへの悪口が止まらないティフォンと、なだめ役のイズミ。
わぁわぁと賑やかな少女たちを横目に、俺はもうひとりの少女を見ていた。
ギルドの窓の向こうに立つ、ツインテールの少女を。
彼女はこちらに目もくれず、ムスッとした表情で帳簿を付けている。
俺は誰にも言うつもりもない小声で、そっとつぶやく。
「……まさか、キミがこの街にいるだなんて……。
でもここにいるということは、『認められた』ってことだよな。
よかった……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺たちはクエストシートの案内に従い、街の片隅にある集合場所へと向かう。
そこには薄汚れた男たちがたむろし、今まさに馬車に乗り込んでいるところだった。
馬車は帆もない荷馬車で、ただでさえ身体の大きい男たちが荷物のように詰め込まれ、ぎゅうぎゅうになってひしめきあっている。
俺たちに気がつくと、男たちはヤジを飛ばしてきた。
「おい兄ちゃん、お前も井戸掘りに行くのか!?」
「残念だったな! 馬車はもういっぱいだ!」
「だいいち、お前みたいなヒョロい若造が来たところで邪魔なだけだぜぇ!」
「そこにいる姉ちゃんだったら、俺に跨がってもいいけどな! ぎゃははははは!」
「イヤ」と即答するティフォンと、男たちに怯えて俺の後ろに隠れるイズミ。
馬車は嘲笑と砂埃を巻き上げながら街から出ていく。
「どうするの? ユニバスくん?」とティフォン。
「いちど受けた仕事だから、途中で放り出すのも良くない。レセプルにも迷惑がかかるからな」
すると、ティフォンはぷくっと膨れた。
「もう、なんでレセプルちゃんのことをそんなに気にするの?」
「いや、レセプルは関係ないよ。斡旋してもらった以上は、仕事はちゃんとこなさないと」
「でも、馬車はもう行ってしまわれましたが……」
イズミはあの馬車に乗らなくてすんで、ホッとした様子だった。
「そうだな。クエストシートには馬車の行き先は『カレキットの村』とあるから、トランスで直接行ってみるとしよう」
俺たちは街の入口の停馬場へと向かう。
そこには多くの馬車が停められていたが、トランスは輝く白さなのですぐ見つけることができた。
俺たちは自前の馬車で、カレキットの村を目指した。
書籍化情報の続報となります!
今回は勇者側の人物たちのイラストをご紹介いたします!
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