絶妙なタイミング
無事、最初のダンスを終えることが出来た。
わたくしとしては、これで満足だった。
スコット筆頭補佐官は気持ちよくわたくしをエスコートしてくれた。
でも彼は未婚で婚約者もいない。
(この後は自由に、デビュタントに参加している令嬢たちとダンスをしていただきましょう。わたくしとダンスしたい令息なんていないと思うので、退散させていただくわ)
そうわたくしは思っていたのだけど……。
「テレンス嬢、よかったら一曲いかがでしょうか」
「ぜひ僕と踊ってください」
「自分といかがでしょうか」
これには驚き「わたくしとダンスをしても何の得にもならないのに……」と思わずつぶやくと、マルグリット夫人がこんなふうに言ってくれる。
「スコット筆頭補佐官とのダンス、とても素敵でしたよ。あのダンスを見たら、テレンス嬢と自然とダンスをしたいと思ったのでしょう。驚くようなことではないですよ」
これには胸が熱くなってしまう。
デビュタントに参加できると分かってからは、暇を見つけてはステップの練習をしていた。ルベール侯爵令嬢とモンクレルテ子爵令嬢も「特訓ですね!」とリード役を引き受けてくれたのだ。限られた時間で練習し、数カ月ぶりでも何とかダンスできたのだけど……。
(ダンスを申し込まれるのは、その練習の成果が認められたにも等しい。それに……)
「スコット筆頭補佐官の素晴らしいリードのおかげです。本当にありがとうございます」
「い、いえ、自分こそ、テレンス嬢のデビュタントのパートナーをできて光栄です。……ですが他の令息とダンスされた方がいいと思います。せっかくですから……」
スコット筆頭補佐官は喜んでいるのに悲しそうな顔という、なんとも二面性のある表情を浮かべている。
これにはどうしたのかしら?と思うものの、声をかけてくれた令息の間に入ってくれているマルグリット夫人が「どうします?」という表情でこちらを見る。
次の曲も間もなく始まるので、スコット筆頭補佐官の不思議な態度は気になるが、この後踊るお相手の令息を決めることにした。
そうしていると、スコット筆頭補佐官に声をかけるシャペロンがいる。令嬢からダンスに誘うことはないので、スコット筆頭補佐官とダンスをしたい令嬢からリクエストされたのだろう。
こうして二曲目が始まり、スコット筆頭補佐官もわたくしも、それぞれ初めましての相手とダンスを踊ることになった。
◇
三曲のダンスはあっという間に踊り終わってしまった気がする。
一曲で踊る時間はそこまで長くはないが、知らぬうちに緊張はしていたのだろう。三曲踊り終わると、心地よい疲れを感じている。
「テレンス嬢、よかったら一緒に休憩しませんか?」
三曲目のダンスを踊った令息から声をかけられ、さすがにこれは戸惑う。
デビュタントは婚約者探しの場でもある。ダンスをした上に、おしゃべりに誘うということは、そういう意味もあいも含まれてきてしまうからだ。
貴族と平民の結婚なんて、そうあることではない。よほど裕福な平民で、相手も没落寸前貴族ならありうる。でも最終的な許可は国王陛下が行うが、どこの国でも平民と貴族との結婚は、反対されるのが常だった。ゆえにおしゃべりまでして、親しくなることに抵抗を覚えてしまう。
「テレンス嬢、コルネ伯爵が休憩室を用意して下さっているので、そちらへ参りましょう!」
絶妙なタイミングでのスコット筆頭補佐官の声がけだった。しかもコルネ嬢が休憩室を用意しているとなれば、行かないわけにはいかない。そこで三曲目のダンスをし、休憩しないかと誘ってくれた令息にお断りとなる。
「お誘い、ありがとうございます。せっかくでしたが……」
「コルネ伯爵が休憩室を用意しているなら、仕方ないです。……その、自分、ずっとテレンス嬢に憧れていました」
「え……」
「この度は大変なことになったと思います。でもお元気そうで何よりでした。……自分は父親が厳しく、何もできず、申し訳なかったです」
彼は男爵家の三男で、そもそもわたくしは彼にとって「高嶺の花だった」とのこと。ゆえにこんな状況にでもならなければ、わたくしとダンスもできなかっただろうから、彼自身としては満足だったと微笑む。
「テレンス嬢。どうか、新しい場所でお幸せになってください」
「ありがとうございます。あなたもどうぞ、お幸せに」
「はい!」
そう言ってお辞儀をして去って行く令息は一人の令嬢に駆け寄る。令嬢の動作から、あの二人は婚約しているのだとすぐに理解できた。
「婚約者がいるのに、あんな未練がましいことを言うなんて」
なぜかスコット筆頭補佐官がプンプンしているので、苦笑することになる。
「皆様、わたくしのことを煙たく思っていると予想していました。社交界から一度は追われたわたくしのこと、気にかけてくださる人がいたなんて……驚きでしたわ」
「公爵令嬢は、深窓の令嬢の代名詞です。ろくに会ったこともないのに、年齢的に恋に恋をして、勝手に想いを募らせただけですよ! 会話もしたこともないのに。ろくに相手のことも知らないのに、想いを寄せるなんて! そんなのは見た目と家柄で選んだに等しいです!」
「……スコット筆頭補佐官、手厳しいですわね」
「そ、そんなことは……!」
あわあわしたスコット筆頭補佐官だったが、咳払いをすると、改めてわたくしに手を差し出す。
「休憩室まで、エスコートいたします」
「ありがとうございます」
お読みいただき、ありがとうございます~
スコット筆頭補佐官が不器用過ぎて可愛くなっている件w






















































