僕と殿下とコルネ嬢、そして……
春爛漫。
二階の窓から見える景色には、春の息吹が息づいていた。アーモンドの花が咲き誇り、宮殿の庭園の一画は、美しいレースを広げたかのようになっている。
「殿下、これがダイアンさんに作っていただいたシャンパンストッパーです」
「ほう。これが。これを栓代わりにすると、炭酸が抜けにくいと?」
「はい! 私がまだお酒を飲めないので、殿下がゆったりシャンパンを楽しまれる時、これを使えば最後までその美味しさをお楽しみいただけます!」
「なるほど……」
階下から、レグルス王太子殿下とコルネ嬢の会話が聞こえてくる。
コルネ嬢は東方で言われる「粋」なのか「風情がある」なのだろうか。ともかくレグルス王太子殿下にとても素敵な提案をした。それは春爛漫を感じるため、昼食をアーモンドの花を愛でながら食べるというもの。
テラスに席を用意させ、そこにピクニックのような料理を並べる。そして春の景色を眺めながら、食事と会話を楽しむというのだ。
「こうやって花を愛でながら食事をすることを、東方では『花見』というのですよ」
「昼間から穏やかな陽射しの下、美しいアーモンドの花を眺めながら、シャンパンと食事を楽しむ。最高です」
そこで少しの間があり、レグルス王太子殿下は……。
「せっかくならアンジェリカも飲めたらいいのに」
「そうですね」
「……アンジェリカはお酒は強いのでしょうか? 父君や母君はどうなのです?」
「……お父様はお強いと思います。でもお母様は……ちょっとお父様に付き合っただけで、頬が赤くなってしまいます」
「ということは、アンジェリカも……」
わずかな沈黙の後、コルネ嬢の慌てたような声が聞こえる。
「で、殿下! なんて想像を!」
「想像というより、願望です」
「!? な、そんな、殿下……!」
時々レグルス王太子殿下とコルネ嬢は、不思議な会話を繰り広げる。二人だけで見えている世界があり、それについて話しているというか……。
今も一体何の会話をしているのやら……ではあるが、そんなふうに話している時、二人はとても幸せそうなのだ。
(何より、レグルス王太子殿下の肩の力が抜けている)
それに。
コルネ嬢と二人きりの時、レグルス王太子殿下はよく笑うようになった。コルネ嬢に向ける心からの笑顔を見ていると……。
殿下が笑っている。その事実に胸が熱くなり、僕は男泣きしそうになる。
(良かった。本当に良かった。コルネ嬢が攫われた時。炎の海で倒れているところをレグルス王太子殿下が発見したと聞いた際には……どうなることかと肝を冷やした。だがまさに雨降って地固まる、だ。試練を乗り越え、心が通い合ったお二人は……)
レグルス王太子殿下とコルネ嬢は強い絆で結ばれている。
(このまま婚約式を経て、一年後には結婚式だ。レグルス王太子殿下は最良の伴侶を得て、ますます活躍されるだろう)
これまでレグルス王太子殿下は厳しい冬の時代を生きてきた。しかしコルネ嬢と出会い、人生の春の時代へと突入したんだ。これからは優しく穏やかな時間が待っているに違いない――。
ピチュピチュー。
春の訪れを知らせるクロウタドリの鳴き声が聞こえる。
春爛漫。
まさに平和だった……!
◇
平和な日々というのは長く続かないようだ。
(いや、暗殺者の襲撃はない。それにこれぐらいのこと、過去の出来事に比べたら、さざ波ののようなもの)
そう、思っていた。
後々、とんでもないビックウェーブになり、僕の身に降りかかることになるとは……全く予想すらしていない。ともかくこの日、コルネ嬢に呼ばれた僕は……。
「スコット筆頭補佐官」
「どうしましたか、コルネ嬢」
コルネ嬢の私室の前室へ向かい、ローテーブルを挟み、対面のソファに座ると、彼女はまず結論から口にする。
「私、専属侍女を三人ほど雇おうと思います」
「! よろしいのではないかと。レグルス王太子殿下の婚約者なのに、仕えている侍女の数が圧倒的に少ないですから。いまだ、上級侍女の数も足りていませんよね!? 三人も雇うのでしたら、そこから一人ぐらい、上級侍女になれるのではないですか」
「そうですね。ぜひそうしたいと思います。それで既に私の方で候補者を決め、身元調査など一通り済ませてあります」
そこでそばにいる侍女頭であるマルグリット夫人が、書簡をローテーブルに置く。僕はそれを手に取り、中を見て……。
「ルーベル侯爵令嬢、モンクレルテ子爵令嬢、テレンス……。え、テレンス? え、え、え、コルネ嬢、このテレンスとは」
「テレンス元公爵の娘であるルイーザ・マリー・テレンス嬢です。現在、修道院にいらっしゃいます。ですが私、彼女を侍女に迎えたいのです」
「えっ、えーーーっ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
スコット筆頭補佐官もいじりがいがある(笑)
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ひとえに読者様の応援のおかげです。
本当にありがとうございます☆彡






















































