妹の願い
人の命とは一度きりで、死の瞬間に最後の審判を受けることになる。そこで善行が認められれば、天国へ迎えられるのだ。もし悪行を重ねていれば、地獄へ落ちる──そう、幼い頃から教えられていた。
よって目覚めた時、ここが天国だと思ったのだ。しかし、どうも聞いていた天国とは違う気がする。そしてじわじわと理解したのだ。
(私、天国に来たわけではないわ。そして地獄でもないと思う。これは……東洋で知られている輪廻転生ではないかしら?)
東洋では死後、魂は六つの世界を転生し続けるという。この輪廻から抜け出すことが、解脱と言われているらしいけれど……。
まさか転生するなんて、驚きだった。
ただ、転生したこの世界は前世の古い世界とそっくり。ゆえに馴染みやすく、何よりも……。
(まさか王族の一人に転生できたなんて! 前世では中流階級で、結婚してもそれは変わらない。一男一女に恵まれ、天寿を全うしたつもりだったけれど……。まさかの現在、赤ん坊よ!)
そう、自分が転生していると気づいたのは、ベビーベッドの中だったのだ。
(何だかこれはもう、リアルThe Game of Lifeだ。赤ん坊からスタートし、素敵な王女になるわよ!って)
とまあ、最初は息巻いていた。でも王女というのは……。素敵なドレスと宝石に囲まれ、美食三昧、絶品スイーツに囲まれ、イケメン令息にちやほやされて、毎夜舞踏会で恋の花が咲く……なんてのはフィクション!
確かにゴージャスなドレスや宝石もあるし、食事もスイーツも美味しい。でも何もかもがとても大変なのだ! それでも私は第二王女。第一王女に比べたら、かなり甘やかされていると思う。それでも王族の一員として、完璧な礼儀作法、マナー、教養、ダンス、社交、外交……etc.
山のように覚えることがあり、すべて出来て当然を求められるのだ。
(王族って想像以上にキツイ!)
でも本当に大変なのは王太子だ。
私の兄であるレグルス・ウィル・アトリアこそ、最も過酷な王族の一人だと思う。
何せお父様の期待が大きく、求められるのは頭脳明晰&運動神経抜群なのだ。でもそうならないとお兄様の場合、生き残れない……。
(この世界、前世のようなセキュリティシステムがあるわけではない。銃ではなく剣の世界であり、暗殺者が宮殿に忍び込むことも度々起きる。それはこの世界なら当たり前のことであるものの……)
お兄様は生き残るために、剣術の腕を磨き、もはやソードマスターになれるレベル。しかも隙を見せないために、感情を表に出さないようになり……。
(昔は。本当に幼い頃は、私を見て天使のような笑顔を見せてくれた。でも今となっては完全なるポーカーフェイス。あんなに容姿端麗なのに。氷の王太子と恐れられている)
まあ、お兄様の場合、無表情に加え、曲がったことが嫌いで次々と貴族の不正を暴いていくから……。しかも無能な重鎮にはズバリそれを指摘してしまうから敵が多い。
(暗殺の半分が、身内とも言える国内貴族が差し向けるものなのは、困ったことよね)
でもお兄様が活躍することで、この国はかなりクリーンになっていると思う。
(きっとお兄様が即位したら、アトリア王国は繁栄の栄華の頂点を極めるのではないかしら?)
ただ、そう思う一方で心配事がある。
それは……。
(お兄様は一人の人間として、自分の一生を振り返った時。幸せだったと思えるのかしら?)
完璧な王太子であることを求められ、即位したら即位したで完全な国王であることが必須となる。そうなると結婚も政略結婚で、それはありがちな愛のない結婚となるだろう。
(国の頂点を極めたとしても、果たしてそれで一人の男として幸せな人生だったと思えるの?)
そう考えると、我が兄のことながら、不憫でならない。
これまで茨の道を生きている。せめてその苦しみを和らげてくれるような、愛のある結婚をして欲しい――そんなふうに願ってしまう。
だがしかし。
舞踏会や晩餐会で、正装したお兄様は妹の私でさえため息ものなのに。あのポーカーフェイスだから令嬢たちが寄り付かない。
(なんというか恋愛力はゼロよ。このままだとお父様に言われるままの政略結婚を受け入れてしまうわ!)
そこで思案する。
(どうやったらお兄様を恋愛に目覚めさせることができるかしら?)
恋愛を描く著名な演劇やオペラに誘う……多忙を理由に断られそうだ。公務だったら行きそうだけど。
美しい恋心を歌うポエムや歌曲の朗読会や演奏会に誘う……一人で行けと言われそう。
恋愛小説をプレゼントしてみる……絶対に読まない。
そこでハッとする。
(もしも私が書いた恋愛小説だったら!? 妹の私が懸命に書いた。お兄様、読んで感想を聞かせてください……となったら……)
お兄様はああ見えて妹想い。私が恋愛小説を書くこと自体に驚き、そして多少なりとも興味を持ち、読んでくれる気がする。何より、懸命に書いた、感想を聞かせて欲しいとなれば……頑張って何か言ってくれると思う。
かくして私は侍女を一人呼び、こう告げることになる。
「私、小説を書くわ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
読者様からメッセージでリクエストいただいた第二王女のお話でした~
なぜ突然小説を書くに至ったのか。
この謎がスッキリです~
そしてこれを書いたらどうしても、もう一話。
第二王女について書きたくなり。
お読みいただけると嬉しいです~






















































