それからの一カ月
宮殿勤めが始まり、一カ月が過ぎた。
その一カ月はまさに怒涛のように流れて行ったと思う。
公爵令嬢として侍女が当たり前のようについていたが、その時、彼女がどんなことをしていたのか。あまりよく把握していなかった。そして自分が侍女となり、実際にやってみると……。
コルネ伯爵の衣装の準備。
これは慣れたものだ。わたくしは侍女任せにせず、自分でも着たいドレスを選ぶことがあったし、ドレスに合わせて宝飾品を選ぶのはとても楽しかった。ゆえにこれは難なくこなすことができた。むしろ今となっては着飾ることもないので、コルネ伯爵を着せ替え人形代わりにして、満喫する気持ちになっていたぐらいだ。
次に実際のドレスへの着替え。
これは実に大変! 公爵令嬢だった時は、ドレスを着せてもらう立場だった。だが着せるとなると、細々として「こんな場所にボタンがあったの!?」ということで戸惑うことが多い。
ヘアセットやメイク、宝飾品や香水つけたりなどの身だしなみの手伝い。
こういったことも侍女が担当する。こちらも自分がしてもらう立場だったが、やってみると楽しい。特に髪についてはマルグリット夫人にいろいろ習うと、コルネ伯爵の柔らかい髪でいろいろ試したくなる。メイクについてはすべて軽く、ほんのり、であるが、ルージュを引くのは難しい。ルベール侯爵令嬢で何度も練習させてもらったが「塗っては拭いての繰り返しで、唇が分厚くなってしまいましたわ!」と少しご立腹させてしまった。それでも「仕方ないですわね……」と許してくれたのは……。
ルベール侯爵令嬢と仲良くなれたからだと思う。
つねるか平手打ちかとなった時。ルベール侯爵令嬢は「大泣きする」を選んだ。わんわんと泣き、自身の胸の中に溜まっていたことを全部吐き出した。すると憑き物が落ちたようで、わたくしへの嫌がらせもピタリとやむ。それどころか「テレンス嬢は良い方。大好きです」なんて言い出す。その後は同室の侍女、同僚として円満に過ごすことができている。
そんなルベール侯爵令嬢とモンクレルテ子爵令嬢と共に、侍女の仕事として一番楽しみにしていることは、コルネ伯爵の外出に付き合うこと。
それがショッピングだと、コルネ伯爵は同行している侍女にも一点、欲しいものをプレゼントしてくれるのだ。
「王太子の婚約者の侍女なのよ。ちょっとした小物も流行の先端をいかないとね」と笑顔で言われたら、素直に「ありがとうございます!」で厚意をありがたく受け取ることになる。
さらに観劇に同行すると、通常は劇場の廊下で待機となることが多い。だがコルネ伯爵はボックス席の後ろに席を用意してくれるのだ。
観劇中にコルネ伯爵がレストルームに行きたくなったり、喉が乾いたりする場合に備えて同行している。よって観劇を心から楽しめる訳ではない。それにボックス席の奥となると舞台が完全に見える訳ではなかった。
それでも最新の演目が何であるか分かるし、演者のセリフは聞こえる。さらに演奏会だと普通に演奏が聞こえて来るのだ。
もちろん、演奏に集中はできない。
コルネ伯爵がレストルームに行きたいとソワソワしていないか、いち早く気づく必要もある。観劇中に具合が悪くなる令嬢も多い。
それでも、修道院にいたら、こんな娯楽とは無縁なのだ。ましてや廊下で待機なら、美しい音楽を耳にすることもない。よってコルネ伯爵との外出は侍女の間では楽しみになっている。それでも外出に同行になる侍女の数は決まっていた。よって運良く外出に同行出来たら……屋根裏部屋ではその日の夜、寝る前に大騒ぎになる。どんな舞台だったのか、役者はどうだったか、音楽は……と盛り上がるのだ。
そんなお楽しみの仕事がある一方で、気の抜けない作業もある。それが手紙や書類の整理などだ。
まずは届いた手紙や書類を仕分けし、急ぎのもの、返信が必要なものと分けていく。最終的にコルネ伯爵が目を通す必要があるのかどうか。それはマルグリット夫人が行う。でも前段となる重要な作業だ。ここで間違えると「コルネ伯爵から連絡が来ない」「無視された」と思いがけない火種を生んでしまう。ゆえに慎重に作業する必要がある。
これは午前と午後と二回行われ、紙を扱うので手は乾燥しやすい。そんな時にはコルネ伯爵に教わった自家製のハンドクリームの出番となる。
「えっ、これ、コルネ伯爵発案なのですか!?」
「そうですわよ。とても簡単に出来ますわ。でもここだと蜜蝋はわざわざ買わないといけないから……」
「買うわ! コルネ伯爵の考案なら絶対にいい気がするもの!」
ルベール侯爵令嬢はいろいろと気にかけてくれるコルネ伯爵が大好きであり、髪型なども彼女がしていたものを後日真似をしている。それもあり、侍女の役目もしっかり頑張っていた。
「あなたたち、どなたか一人、街の雑貨屋に注文の品を取りに行ってくださらない? 本当は雑貨屋が届けにくるはずだったの。でも店主が腰を痛めて動けないそうなのよ。それでも宮殿に来ると連絡が来て、コルネ伯爵がこちらから取りに行くことを提案したの。大切なお使いよ。行ってくださる?」
侍女として一カ月が経とうとしているこの日、手紙と書類の整理をしているわたくしたちに、マルグリット夫人が声をかけた。
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