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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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甘い香り

 コルネ伯爵の侍女になる──と言っても最初の三日間は挨拶回りと宮殿の中と外を歩き回ることになった。すなわち、敷地内の様々な場所にマルグリット夫人に案内してもらうことになる。


 宮殿は貴族だったら誰でも踏み入ることが出来るかというと、そうではない。用事がなければ立ち入ることは許されなかった。わたくしは公爵令嬢だったので、何度か宮殿に来たことがあったものの。立ち入りを許されている場所は限られていた。ところが侍女は、宮殿のありとあらゆることを知っていなければならない。


 こうして初めて地下に向かい、王宮にも足を踏み入れることなった。


 どこかに遠出したわけではない。ただ、宮殿の内外を一日かけて歩き回っただけなのに……。


「つ、疲れました〜。もう動けません! 足がガクガクしています!」


 白い寝巻き姿のモンクレルテ子爵令嬢がそう嘆く気持ちはよく分かる。かくいうわたくしも同じ状態だからだ。


 オフホワイトの寝巻きを着たわたくしはベッドに座り、ふくらはぎを自分の手で軽く揉みほぐしていた。


(修道院でも労働はあったわ。それでも祈りの時間もあり、またハンドメイドの作業もあった。それは椅子に座れる。でもこの数日はとにかく歩き回ってばかりでしたわ!)


 コルネ嬢が小動物のように見えたのは、このちょこまか動き回るせいもあったのでは……なんて思えてしまう。


 そこで扉がバンと開き、ルベール侯爵令嬢が入浴を終えて戻って来たと思ったら……。


 ふわっと甘い香りを知覚する。


「厨房に寄ったら、あまりものだけど、マカロンを頂けたのよ!」


 ルベール侯爵令嬢が手に持つハンカチを広げると、そこには鮮やかなピンク、淡いレモン色、若草色のマカロンが見えていた。


「モンクレルテ嬢、あなたはどのマカロンが気になります?」

「えっ!? 私は……このピスタチオのマカロンが気になります」

「この薄いグリーンは並べたら映えますけど、食欲はそそらないわ。差し上げます」

「えっ……よろしいのですか?」

「ええ、どうぞ」

「……ありがとうございます」


 モンクレルテ子爵令嬢がおどおどしながら受け取るのは仕方ない。先日から侍女として三人で動き始めたが、ルベール侯爵令嬢はわたくしに対してはツンとした態度と嫌味ばかり。モンクレルテ子爵令嬢とは挨拶と最低限の会話しかないのだ。こんなふうに話しかけられ、まさかのマカロンを貰う事態になるとは、モンクレルテ子爵令嬢自身想像していなかっただろう。


「残るはバラのマカロンとレモンのマカロン。私、両方好物なのよね〜」


 そう言ってチラッとわたくしを見て意地悪そうに微笑む。


 今のこの身分ではマカロンは気軽に食べられるスイーツではない。修道院にいた間、マカロンなんて目にすることはなかった。宮殿に来てからも、コルネ伯爵のティータイムに立ち会っていたわけではない。ようはかなり久しぶりにマカロンを目の当たりにして、食べたいという気持ちがないと言ったら嘘になる。普通に室内に甘い香りもして、食べたい気持ちはあった。


 しかしそれこそがルベール侯爵令嬢の狙い。わたくしが食べたそうにしているのを知りつつも、あげない。これ見よがしに「美味しい、美味しい」と食べる姿を見せたいと予想がつく。


(幼稚ですわ。これならオルリック嬢の意地悪の方がまだマシね)


 ため息をつき、一切の関心をルーベル侯爵令嬢にも、マカロンにも向けず、寝る準備に向けることにした。つまりは歯を磨こうとすると……。


「本当は食べたいんですよね?」


 ルーベル侯爵令嬢がわざわざ声をかけるので、ここは無視するわけにもいかず、答えることになる。


「バラとレモンのマカロン。しかも宮殿のパティシエが作ったもの。さぞかし美味しいことでしょう。よかったですわね。侍女も休憩時間がありますけど、それは優雅に楽しむというより、合間にパッと済ませるもの。マカロンいただけるチャンスは……あるかしら? メイドや従者の皆さんもいるから、争奪よね。なかなか食べられないでしょうから、じっくり味わうことね」

「なっ……何よ! その上から目線な言い方は! まるで私がめったにマカロンを食べられないという言い方じゃない!」

「宮殿のパティシエが作ったマカロンはめったにいただけないでしょう?」


 本当に面倒なお嬢さんだこと。そう思いながら、ルーベル侯爵令嬢の顔を見た瞬間。コツンと顔に何かが立て続けに当たり、わたくしは何が起きたか分からない。


「テレンス嬢、だ、大丈夫ですか!?」


 モンクレルテ子爵令嬢が素足のままこちらに駆け寄り、床に転がるバラとレモンのマカロンが見えた。


 そこで理解する。


 ルーベル侯爵令嬢が二つのマカロンを私の顔目掛けて投げつけたのだと。


 これには深呼吸が必要だった。


 修道院で暮らすことで、わたくしは食べ物のありがたみを強く知ることになった。公爵令嬢だった時は、食べ残すこと、好き嫌いをすることに罪悪感など覚えることはない。でも修道院の菜園で野菜を育て、料理を作って食べることで、心の持ちようが変わった。


 食事出来ることに感謝する。作ってくれた人に感謝する。好き嫌いをしない、食べ残しはしない。ありがたくいただく──それがすっかり身についていたのだ。


 ゆえにわたくしはルーベル侯爵令嬢にこう告げることになる。


「Shame on you!(恥を知りなさい)」

お読みいただき、ありがとうございます!

本日仕事の都合で朝更新となりました~

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