神々しい笑顔の下で
「ハーン帝国について、コルネ伯爵はかなりお詳しいのですね」
家庭教師は驚きの表情で私を見る。
「殿下が帝国から帰国し、いろいろと教えてくださったんです。おかげで帝国について詳しくなれました!」
「そうですか。それは素晴らしいです。王太子妃教育、また前進ですね」
パティシエや職人だけではなく、レグルス王太子殿下も。私が前向きに王太子妃教育に取り組めるよう、サポートしてくれたのだ!
心強いサポートはそれだけではなかった。
レグルス王太子殿下がハーン帝国から帰国して一週間も経つと、冬の寒さが一段と厳しくなる。それでも北部の国々に比べたら、アトリア王国は冬も温暖で知られていたが……。
「アンジェリカ、明日は初雪の予報が出ています」
この日のティータイムは、東方から取り寄せた蓮の実の砂糖漬け(蓮子糖)や落雁、月餅を楽しんでいると、レグルス王太子殿下が寒さの原因を教えてくれた。
「そうなのですね。どおりで冷え込むと思いました!」
ウールのアザレ色のドレスに合わせ、肩からか羽織っていたミルクティー色のショールの前をぎゅっと合わせてしまう。
一方のアイボリーのセットアップ姿のレグルス王太子殿下は、しっかり筋肉もあるせいか、寒さなど気になっていないように見える。
「喜ばしいことに、明日は日曜日。アンジェリカも明日は王太子妃教育がお休みですよね?」
(そうだったわ! もう毎日が怒涛の勢いで過ぎていくので、明日が日曜であること、失念していたけれど)
「確かに日曜日は王太子妃教育はないのだけど……予習をやらな」
そこで私の言葉が途切れたのは、唇をレグルス王太子殿下の細い指で押さえられたから!
「日曜日、ティータイムまでわたしにアンジェリカの時間をください。二人きりで過ごしたいです」
アイスシルバーの髪をサラリと揺らし、レグルス王太子殿下は美麗な笑顔を向ける。その姿はまさに眼福なのだけど……。
《アンジェリカの唇。なんと柔らかいのだろう……》
そこから先の心の声は、自主規制が必要なもの。この見目麗しい微笑みの下で、こんなことを考えているなんて……!
「健全な男性として当然の反応です。婚約者の唇に触れて、無反応の方が悲しくなりませんか?」
そんなことを言い出すレグルス王太子殿下は、自身の私への欲求を隠すことはない。
(隠すことはないというか、聞こえてしまうし、隠しようがないのよね。しかもあまりにも神々しい笑顔でささやかれた心の声は、エロさが不思議と感じられないわ! なんと言うか当然のことであり、受け入れたくなるのだから……レグルス王太子殿下、恐るべし!)
とにもかくにも翌日の日曜日。
私はレグルス王太子殿下と過ごすことになった。
でもそれは朝食をとってからかと思ったら……。
「お嬢様、お嬢様」
遠慮がちながら、侍女に声をかけられて、目覚めることになる。
「……おはよう。もう起きる時間?」
冬になると日の出の時間は遅くなる。厚手のカーテンにまだ東の空からの陽光は感じられないけれど……。
「というかまだ暗いわ。それにとても静か。そして……寒い!」
ゆっくり体を起こしながらそう言うと、侍女は肩からウールのショールを掛けてくれる。
「実は雪が真夜中過ぎから降り始めて、今も降り続けています!」
これには「そうなの!」と驚き、窓のそばに向かう。厚手のカーテンを開け、装飾用のレース生地をずらすと、窓は曇っている。
指で擦り、外を見ると、夜明け前の淡いグレーの空が広がっている。見渡す景色は銀世界。
(見事に雪が積もっているわ!)
「初雪ですね、お嬢様。殿下が早起きなのも納得です。暖かいドレスをご用意していますので、お支度をしましょう。殿下は既に目覚められ、手持ち無沙汰で執務をされています」
「ええっ! なんて早起きなのかしら!? しかも執務をしているの!? 日曜日なのに! ちゃんと睡眠はとれているかしら!?」
「殿下は寝ると決めるとすぐに爆睡できる方とお聞きしています。騎士の訓練を受けて、どこでも瞬時に眠れる術を身につけられたようです。昨晩も早々にお休みになり、今朝は待ちきれず早起きされたようですよ」
(待ちきれずに早起き……。それって私に早く会いたいから!?)
思わず頬が熱くなる。
「殿下が待っているなら、急いで支度をするわ!」
「はい! お手伝いします!」
こうしてウールのアイスブルーのドレスに着替え、髪はハーフアップにしてもらい、レグルス王太子殿下がいる執務室へ向かう。
お読みいただき、ありがとうございます!
明日の更新は少々遅い時間になるかもしれないです。
執筆中なので、ご了承いただけないでしょうか!
何卒よろしくお願いいたします~






















































