お茶にお菓子に……
扉を開けた瞬間、なんともオリエンタルな香りを感じた。
(この匂いの正体は……白檀ね!)
暖炉の上の棚には香炉が置かれている。しかも部屋の中に入り、テーブルの上を確認すると、そこには見たことがないスイーツがズラリと並んでいた。
(しかもこのティーセットは……茶器に思えるわ)
用意されている茶器は、蓋・碗・受け皿の三点セットで、確か蓋碗と呼ばれるもののだ。
(ということは、このお菓子もこの蓋碗もハーン帝国のお土産ね!)
そこで扉がノックされ、振り返ると……。
「アンジェリカ!」
「殿下!」
レグルス王太子殿下が着ているのは、濃紺に金糸による美しい刺繍があしらわれた立襟デザインの裾の長い伝統衣装! ウエストにはベルトもあり、脚長効果もバッチリだ。
「殿下、それはハーン帝国の衣装ですね! とってもお似合いで素敵です!」
「ありがとうございます、アンジェリカ」
そこでレグルス王太子殿下がチラッと後ろを見ると、スコット筆頭補佐官が顔を見せる。彼も薄い水色に銀糸の刺繍で飾られた伝統衣装を着ているが、目の下には思いっきりクマができ、疲労困憊気味。
「スコット筆頭補佐官、顔に死相が……」
「そりゃそうですよ! 殿下が鬼のようなスケジュールで帰国を急ぐから……!」
「スコット!」
「はいっ、殿下、失礼しました!」
(余程の強硬スケジュールだったのね……)
珍しく恨み節のスコット筆頭補佐官だったが、美しい布に包まれた何かを私に差し出す。
「こちらはハーン帝国の女性用の伝統衣装です。ドレスと違い、着脱はしやすいと聞いています。殿下が選んだ大変美しいデザインですので、よかったら隣室でお着替えされてはどうでしょうか?」
これには「! 私の分もあるのですか! それは嬉しいです! 早速着替えます!」と衣装を受け取る。
《良かった。きっと子リスは自身も着てみたいと思うと予想したが……。こんな笑顔を見られて、本当に嬉しい!》
レグルス王太子殿下の紺碧色の瞳がキラキラと輝き、それを見た私はもう笑顔が止まらない!
早速、隣室で着替えることにする。
「まあ、この衣装! 裏地に毛皮がついていますわ!」
「それにこの位置に生地の重ねがあるので動きやすいのではないですか!」
「色も鮮やかなターコイズブルーに金糸による刺繍で、とても華やかですね!」
侍女たちも興味津々になりながら、ドレスからハーン帝国の伝統衣装へと着替えさせてくれる。
「とても温かいわ……!」
「オシャレですが、防寒性が高いのは嬉しいですよね」
着替えを終えて喫茶ルームへ戻ると、パティシエや職人もいて、彼らの用意したスイーツもテーブルに並べられていた。レグルス王太子殿下は着替えた私を見て、みんながいるのに笑顔になっている!
「時間は限られているので、みんなで食べましょう!」
スコット筆頭補佐官がそう言うと、レグルス王太子殿下自らがお茶をいれ、パティシエはスイーツをお皿に取り分けてくれる。
「このお菓子は、砕いたナッツを生地で包み、幾層にも重ね、シロップ漬けにしたもの。ハーン帝国の前皇帝の大好物スイーツと聞いています。なんでも子供の頃から食べ過ぎて、それで乳歯のほとんどが虫歯になってしまい、そこからはハーン帝国では歯磨きの習慣が広まったそうです」
レグルス王太子殿下はお土産で用意してくれたお菓子について、分かりやすく説明をしてくれる。しかも前皇帝が好物であるとか、虫歯のエピソードなど、+αな情報も教えてくれるのだ。その上で実際にお菓子を食べることができる。
(もしハーン帝国に行くことがあっても、語れるわ! この味、前皇帝が大好きだったエピソードも含めて)
しかも伝統衣装についても、いろいろと教えてくれるのだ。
「ハーン帝国は東西に国土が広く、草原地帯が多い。よって馬は生活に欠かせないそうです。しかも平民は放牧により、帝国内を自由に移動することが許されています。そのため、女子供でも、乗馬は欠かせません」
「それはすごいですね。帝国民は皆さん、乗馬が得意なんですね?」
「ええ、そうなんです。この女性の伝統衣装も、乗馬が前提に作られています。この位置に生地のあわせが来るので、足を大きく広げることができるのです。つまり女性でもズボンをはかずに男性と同じスタイルで馬に乗れるんですよ」
そんな話から始まり、ハーン帝国の誕生と歴史、馬たちとの生活についてレグルス王太子殿下は教えてくれるのだ。
その結果、私は……。
お読みいただき、ありがとうございます!
筆者も子どもの頃に虫歯で痛い思いをしてから
歯磨きは念入りです(笑)
いつも八分ぐらい磨いています~






















































