見事なポジティブシンキング
見事なポジティブシンキングをして、頬をポッと染めたレグルス王太子殿下に、私は驚いてしまう。
「殿下、論点がずれています! 私がいろいろと先回りできたのは、殿下の心の声が聞こえてしまったからです! つまりはずるをしていただけ。気が利く、気遣いができる人間というわけではないんですよ!」
焦る私に対し、レグルス王太子殿下はドンと構え、動じた様子は皆無。その上でこんなことを口にする。
「わたしの気持ちを引くために、先回りをしたわけではないですよね? ただわたしが困っている。化膿止めの薬を苦いと思い、本当は飲みたくないことに気付いてしまった。羽根ペンのインクがすぐにきれることに、うんざりしていることに気が付いた。計算を手間だと思っていることに、コルネ嬢は気が付けたのです。そこでわたしを助けようとしただけのこと。心を読める。だから自分が有利になるよう、君は行動したわけではないですよね? よって君がずるをしたとは思いません」
レグルス王太子殿下の真っ直ぐさには、どうしたって胸がキュンキュンしてしまう。
「でもご自身の心を読まれているのですよ!? 嫌ではないのですか? できれば心なんて、読まれたくないのでは!?」
するとレグルス王太子殿下はふわりと笑顔になる。
優しく、見ている私の心がほっこりするような表情だった。
「こうやって笑顔になれるのは、コルネ嬢にだけです。普段の私は隙を作らず、完璧な王太子として振る舞っています。自分の心を……ある意味偽って生きてきたのです。どこかで『本当のわたしを分かって欲しい』という気持ちが常にありました。だからでしょうか。わたしの心を、気持ちを、手に取るように分かってくれるコルネ嬢は……。ようやく本当のわたしを見てくれる人に出会えた。そんな想いでいっぱいです」
(そんな聖人君子みたいないことを言い出して!)
「それにコルネ嬢の前世の父君は、結婚したら神力は消えたのですよね? もしその力を不要と感じるなら……」
「で、殿下、まさか力を消したいなら、ご自身と結婚しろ……なんておっしゃいませんよね!?」
《名案だと思ったが、ダメか》
「ダメですよ、絶対に!」
「本当に、わたしの心が読めるのですね」
「……! はい。そうです」
するとレグルス王太子殿下はこんな提案をする。
「コルネ嬢が神力を持ち、わたしの心を読めること。前世の知識を活用したこと。それらを聞いてわたしが本音でどう思っているのか。聞いていただいて構いません。君を想う気持ちは変わらないと、理解いただけると思います」
さりげない私への好意アピールに、顔が瞬時に熱くなる。
同時に。
聞こえてしまう、レグルス王太子殿下の本心が!
《もはや子リスを好きな気持ちはなかったことにはできない。彼女から『嫌いです。関わらないでください』と言われない限り。わたしは彼女のことを想い続けてしまうだろう》
私が赤面して、ぶっ倒れそうなことを考えているではないですか!
「……殿下は本当に、私が転生者で、前世の記憶があり、神力なんていう変な力を持っているのに、その……。それでもなお、好きなのでしょうか」
「ええ、何度でも言います。わたしはコルネ嬢のことが好きです。いろいろ気遣いいただけるところにも、とても有難いと感じています」
「好意はあっても、それは人として好ましい、だったりしませんか!? 侍女としてこれからもお仕えしますし、その場合は今まで以上に殿下を気遣います。何を必要としているのか、これからも汲み取り、動くようにします。よって無理に私を婚約者にする必要はないんです」
私の言葉を聞いたレグルス王太子殿下は「困りましたね」と呟き、こんなことを話しだす。
「恋人……婚約者ではなく、侍女であっても、献身的にわたしに仕える。だから問題ないですよね……と言っていますか?」
「そ、そうですね」
「わたしの好きが、どういう好きなのか。ご理解いただけていないのですね」
「それは……」と私は口ごもってしまう。
だってレグルス王太子殿下は、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗とすべてを兼ね備えている。普段はポーカーフェイスだが、本当は表情豊か。そんな完璧な人間が平凡な私を好きなんて……。まるで前世のドッキリで騙されている気分だ。
「仕方ないですね」とレグルス王太子殿下は言うと、少し照れるような表情になる。
(うわぁ、その顔、ダメ!)
ソファから転げ落ちないよう、必死にひじ掛けを掴む。
「その……わたしも男性ですから。そういった意味の欲だってあります。決してそれが目的というわけでありませんが、そういうことをしたい気持ちはもちろんあります。侍女に対して抱くような感情ではありません。聞こえませんか?」
そこで聞こえてきたレグルス王太子殿下の心の声は……十八歳の健全な男子なら、好きな異性相手に考えるあれやこれや。確かにそれは、侍女としてそばに置く女性に対して感じるものではない。
私は……自分が凡庸であることから、完璧スペックのレグルス王太子殿下の「好き」の気持ちをどうしても疑ってしまった。でも彼は……侍女として私を気に入っているわけではなく、ちゃんと異性として好きなのだという。転生者であること、神力を持ち心を読まれることを含め、全部受け入れ、好きだと思ってくれていると分かった。
(そこまでされたら……私の答え、それはもうこれしかないのでは?)
「私は……殿下のことを好きになってもいいのですか?」
「ええ。好きになってください、わたしのことを」
ふわりと優しくレグルス王太子殿下に抱き寄せられた。
お読みいただき、ありがとうございます!
明日は朝8時頃に更新しますね~
いいね、ブックマーク、評価の応援などよろしくお願いいたします☆彡






















































