いつもと何か違う
現在の婚約者候補から一人を選ぶつもりはないと、レグルス王太子殿下に言われた。そうなったら別に想い人がいると考えるのは……彼の性格を踏まえると、至極妥当だった。
「レグルス王太子殿下はとても真面目な方です。王族の婚姻がどんなものであるか、それはよく理解されているでしょう。仮に婚約者候補の中に好みの令嬢がいなくても、受け入れ、婚約されるはず。それなのに選ぶつもりがないとなるからには……他に心を寄せる相手がいるからだと分かります」
「なるほど……。わたしのことをこの短期間で熟知されたようですね」
「全てを理解したわけではありません。スコット筆頭補佐官に比べたらまだまだです。もっと殿下のことを知りたいですし、支えたいと思っています」
私の言葉を聞いたレグルス王太子殿下は、フイッと視線を逸らす。
(……! 何だか踏み込んだことを言ってしまったかしら?)
正直、ドバーッと背中に汗が吹き出してしまうが……。
《わたしのことを……もっと知りたい。支えたい……そう思ってくれているということは……。落ち着くんだ。ここが正念場。冷静に深呼吸をして対処するんだ。まずここまで来れたということは、第二段階もクリア出来ているのだから》
怒って視線を逸らしたかと思ったのに。
どうやらそうではないらしい。
何というか浮き足立っているように感じられるけど……。
レグルス王太子殿下がいつもと何か違うので、やりにくい。でもとりあえず地雷を踏んだわけではなさそうなので、問いかけることにした。
「想う相手は家柄が釣り合わないのですか? もし家格に問題がなければ、婚約者候補に上がるはずですよね?」
極端な年上、年下を好きになった。
人妻に恋をしている。
そう言ったことはないと思ったのだ。
私に問われ、レグルス王太子殿下は視線を前方に見える庭園に向けたまま、静かに答える。
「……家柄は問題ありません。問題ないですが、念のためで、そこがネックにならないよう手を回しました」
(!? 手を回した!? そこまでしているなら……)
「家柄について根回しが済んでいるということは……もうお気持ちはその方に全面的に向かっているのでは!?」
正面の庭園を落ち着いた表情で見ている……と思った。でも星と月明かりの下だが、その陶器のような肌が色づいているように感じる。
「気持ちは……そうです……彼女に向かっています。彼女以外との婚約は考えられず、父上のことも説得しました。父上も実際に彼女と接して……彼女がそれまでに成し得たことを含め、人柄も見て『お前の好きなようにすればいい』と言ってくれています」
「え……。殿下、ならば何も問題ないですよね……? 何を悩まれているのですか!?」
家柄が問題なのかと思った。男爵令嬢や平民の女性を好きになり、国王陛下や重鎮が全員反対している……ならば大いに悩むべきだろう。でも家柄も問題なく、しかも万一に備えて根回しをしている。しかし最大は国王陛下が許可をしているのだ。この国で王侯貴族が結婚する時、それは国王陛下の許可が必要になる。しかしその許可は既に下りている。
(一体何を悩んで……)
《何も問題ない、だと!? 問題ないわけがない!》
レグルス王太子殿下の心の声は、問題ありだと叫んでいる。
(えええ、何が問題なの……?)
そう思ったが気づくことが出来た。
「レグルス王太子殿下、もしかして気持ちを伝えるのが怖いのですか……?」
(過去に一度も告白の経験がなければ、想いを伝えることは……とても勇気がいることだと思うわ。いくら頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群と三拍子が揃っていても。恋愛ともなると話は別だと思う。別だとは思うけれど……)
「もしも告白することに勇気を持てないというのなら、何を恐れているのですか? 殿下ほどの男性、この国、この大陸、この世界で探しても、見つからないと思います。そこは自信を持って、想いを伝えればいいではないですか!」
「そんな……怖いとか勇気を持てないわけではありません! これまで多くの暗殺者の相手をして、死線を幾度も越えてきたわたしに、怖いなど決してないです!」
「! それは大変失礼いたしました! そうですよね。殿下であれば告白で怯むなどないはず。私が間違っていました。ごめんなさい!」
そこで思いっきり頭を下げながら、思ってしまう。
(では一体何を悩んでいるのですか、レグルス王太子殿下!と)
《子リスの言わんとすることは分かる。想いを告げるということは、勇気を必要とするものなのだろう。わたしは過去に想いを告げたいと思った相手はいない。ゆえに告白……したことなどない。それでも自分の気持ちを伝えること。そこに恐れはない。ただ……わたしの気持ちを伝え、相手が迷惑だと思わないのか。わたしのことを……好きなのだろうか。その不安は……確かにある。怖くもなければ、恐れてもいない。ただ、彼女の気持ちがわたしにあるのかが分からず、不安なんだ……!》
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