その意味
「殿下は井戸の側に座り込み、まさに意識を失う瞬間のコルネ嬢を見つけられたそうです。そして地面に倒れこむ寸前の体を、支えることに成功された。その後は黒装束集団を倒した護衛騎士たちと合流し、一部は現地に残し、ハンス一家を探させました。そして自身はコルネ嬢を連れ、宮殿へ戻り、国王陛下へ報告。そこからも大変でしたよ」
そう言ってスコット筆頭補佐官は、目をしばしばさせる。私は綺麗に皮がむかれ、カットされたリンゴを口元に運びながら、ハンス家の厩舎で食べたリンゴを思い出す。
(丸かじりなんて前世以来だったけど、あのリンゴは蜜が詰まっていて、美味しかったわ……)
「捕えた黒装束集団のリーダー格の人間に尋問し、知りうる限りの情報を吐かせました。同時にハンス一家のうち、祖母と息子が見つかり、彼らから話を聞くこともできたのです。その成果を踏まえ、殿下は真夜中の公爵邸に乗り込みました」
公爵はまさかレグルス王太子殿下が動くとは思わず、大いに慌てふためく事態になる。
「僕は宮殿に残り、コルネ嬢のために宮廷医を呼んだり、ハンス一家の捜索指示と保護した人たちをケアしたりで追われていました。その一方で殿下は、まさに言い逃れを許さない状況の中、淡々と公爵に詰め寄ったそうです。人身売買に関する件は勿論、放火はこの国、この大陸では重罪になります。その罪に加え、コルネ嬢を見殺しにしようとした件も、強く問うたそうです」
問われた公爵はまさに顔面蒼白。しかもレグルス王太子殿下に嘘をつけば、王族への侮辱罪の罪も重なる。もはや逃げ道はないと悟った公爵は、自身の罪を認めることになった。
「テレンス公爵はそのまま灰色の塔へ連行され、幽閉状態となり、まさに殿下は朝食の後、尋問へ向かわれました」
「ハンス一家は全員、保護されましたか?」
「ええ。ハンス夫妻が今朝、王都のはずれで見つかり、これで全員の保護は完了しています。ハンス一家の隣人たちの保護も終わっていますよ。火事による三つの家族への損失、それはすべて公爵の資産からしっかり賠償させることになります」
あの火事から三つの家族、その全員が無事に避難できていたことに安堵する。
(レグルス王太子殿下が駆けつけ、公爵の手下を抑えてくれていたからこそ、ハンス一家を始めとしたみんなが助かったと言えるわ。本当に、レグルス王太子殿下が来てくれてよかった……!)
でもまだ気になることがあった。
食後の紅茶を一口飲み、スコット筆頭補佐官に尋ねることになる。
「ニコルさんという、ハンス夫妻の娘さんですが、彼女は……」
「ああ、そうですよね。そのニコルさんが攫われたことが起点で、今回の事件が起きています。行方については確認中です。公爵への尋問で、人身売買の記録であり、お得意様台帳は発見されているので、そこでニコルさんという名の女性の記録を追わせています。近日中にどこにいるか判明し、保護できるでしょう」
台帳と言ってもそれは紙。前世のようにデータ化されており、パソコンで検索……なんてできるわけではない。人の目で見て確認となるため、時間はどうしてもかかってしまう。
(大丈夫。きっと見つかるはずよ!)
「テレンス公爵令嬢は大丈夫かしら?」
「本人はかなりショックを受けているようです。父親がまさかそんな犯罪に手を染めているとは思っていなかったでしょうから。しかも殿下の婚約者候補の一人でもあったのに、こんなことになったのです」
「それは……まさにその通りよね」
そこでスコット筆頭補佐官が私に問う。
「テレンス公爵令嬢の身代わりになったのは、そこですか?」
「えっ……」
「殿下の婚約者候補にあがっている令嬢が誘拐されたりしたら大変です。そこで自分が公爵令嬢であると主張し、代わりに攫われることにしたのですか? 殿下はそう予想され、僕は『まさかそこまでお人好しのはずは……』と応じていたのですが」
(さすがレグルス王太子殿下だわ。なんでもお見通しね)
「レグルス王太子殿下の読みが正解です。現状の婚約者候補の中で、テレンス公爵令嬢が家柄からしても最有力だと思っていたので……」
「コルネ嬢の献身には頭が下がりますよ。そこまでできる人なんて、そうはいない。主への忠誠を誓う騎士ならまだしも、一介の令嬢に過ぎないのに……。本当に脱帽するしかないです」
「もう褒め過ぎですよ。そこまでのことをしたわけではないです」
なんだか気恥ずかしくなり、紅茶をがぶがぶ飲んでしまう
「そこまでしてコルネ嬢が守ろうとしたテレンス公爵令嬢ですが……これからの道のりは厳しいでしょうね」
スコット筆頭補佐官の言葉にドキッとして、紅茶を飲む手が止まってしまう。
「今朝の新聞には間に合いませんでしたが、明日の朝刊ではこの事件が大々的に報じられることになります。そうなれば社交界ではこの件で持ちきりになるでしょう。舞踏会などはオフシーズンですが、お茶会や晩餐会は、それなりに開催されていますからね」
父親の罪が確定し、判決が下されるまではテレンス公爵令嬢は宙ぶらりん状態になる。だが社交活動どころではないだろうし、顔を出したらまさに針の筵だろう。
「公爵は……爵位剥奪になりますよね、きっと」
「そうなります。公爵が爵位剥奪となれば、その一族は平民に戻る形です。この事実に耐え切れず、一家離散になるケースが多い。テレンス公爵令嬢は……そのまま修道院に入るかもしれませんね。彼女自身は罪人ではないですから、修道院も受け入れることでしょう」
(まさかレグルス王太子殿下の最有力婚約者候補が、こんなことになるとは思わなかったわ)
「ところでコルネ嬢」
「はい、何でしょうか」
「この後は宮廷医から問診を受けていただき、その結果と目覚められたことを殿下に報告することになります」
「なるほど。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。殿下には直接御礼を伝えたいです」
私がそう答えると、スコット筆頭補佐官は「ええ、ぜひそうしてください」と深く頷き、こう付け加える。
「殿下付きの侍女であるコルネ嬢を、殿下自らが出向き、救出した。この意味をよくよく考えてみてください」
「!? それはつまり……」
「普通、使用人が攫われても、主が直接救出へ向かうなんてあり得ないこと――それは分かりますよね、コルネ嬢」
さすがにそれは分かるので「分かります!」と頷く。
「殿下は通常ではあり得ないことを遂行したのです。コルネ嬢のために。その意味はよーく考えていただきたいですね」
(そんな、よーくと言われても……。レグルス王太子殿下が情に厚い方だから……なのでは!?)
少し辟易しながら「……は、はぁ」と返事をすると……。
「そこは元気よく『はい』でお願いします!」
「はい、スコット筆頭補佐官!」
お読みいただき、ありがとうございます!
今日は本当に晩御飯が立ち食いそば5分の忙しさで
(でも安くて美味しいのです)
更新遅くなりごめんなさい
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遂にこのページに掲載される日が来るとは……
読者様のおかげです。ありがとうございます!






















































