疾風迅雷
鳥のさえずりが聞こえ、瞼が自然に開く。
柔らかい陽射しが差し込み、部屋全体が輝いて見えた。パチパチと暖炉で炎が燃え、置時計の秒針の音も聞こえてくる。
ベッドはふかふかで寝心地が良く、目覚めの気分も悪くなかった。
(でもまだ眠れそう。昨日はいろいろあって大変だったし、今日はもう少し……)
そこでハッとする。
(私は火災現場にいたはずなのに、ここはどこ!?)
勢いよく上半身を起こし、自分が白いフリルたっぷりの寝間着を着ていることに気が付く。さらに改めて目に入る調度品の豪華さに息を呑む。壁に飾られている絵画、そのそばのコンソールテーブルに置かれている花瓶も燭台も黄金が使われ、とても高級な品だと分かった。
サイドテーブルには季節外れであり、この国では珍しいハイビスカスの花まで飾られている。
(もしかして宮殿にいるの? でもどうして? どうやって私、戻って来たの??)
私はこっそりテレンス公爵令嬢に会いに行くことにしたので、そもそも北のエリアに向かったことを誰にも話していなかった。その後、あのカティおばあちゃんやトーマスのいる厩舎へ連れて行かれたが、そこがどのあたりなのか、私自身、見当がついていなかったのだ。
(それなのに宮殿へ私を運ぶことができる立場の人が、あの火災現場に現れたというの……?)
浮かんだ疑問は、私を助けてくれた誰かに確認するしかない。
(というか、本当に私、生きているわよね?)
まさに心配になり、自分の頬をつねった時、扉がノックされ――。
「コルネ嬢!」
スコット筆頭補佐官が、今にも泣き出しそうな顔で部屋に入って来た。
◇
「つまり私があの場所にいることを掴んでいたのは、テレンス公爵だったのですね!?」
王宮の客間という、前世で言うなら超V.I.Pが滞在する部屋で休んでいた私のところへ尋ねてきたスコット筆頭補佐官。彼には根ほり葉ほり、一体何があって私はここに至ったのか、聞き出すことになった。
聞くと今はブランチの時間。軽食を用意してもらい、私はそれをいただきながら、スコット筆頭補佐官から話を聞かせてもらったのだ。
「ええ。コルネ嬢があの場所にいると、最初に把握したのは公爵です」
そう言い切り、スコット筆頭補佐官は話を続ける。
私はその話を聞きながら、サンドイッチにかじりつく。
「テレンス公爵令嬢は自身の身代わりとなり、コルネ嬢が攫われたと、すぐに父親である公爵に報告しました。公爵は自分の娘を攫おうとする相手にすぐに思い至り、テレンス公爵令嬢には『大丈夫だ。その勇敢な令嬢はわたしが必ず見つけ出し、助け出す』と伝えたそうです。ですが実際には、あの農夫のハンス一家に私兵を向かわせ、ハンス一家の両隣を含めた三家族を、火災による事故に見せかけ、亡き者にしようとしたのです」
(やはりそうだったのね)
自身が人身売買をしていることを知っている一家の存在を、公爵は把握していた。しかも王都警備隊に足を運び、その悪事を報告したが、相手にされなかったことも知っていたのだろう。
(それならば下手に手出しをしない方がいい――そう思ったはずよ。ハンス一家に何かあれば、公爵が疑われる可能性はゼロではないのだから)
ところがハンス一家は公爵の娘を攫おうとした。このまま放置していると、次に何をするか分からない。そこでここぞとばかりに葬り去ろうと公爵は考えたのだ。
「テレンス公爵令嬢は、父親である公爵の様子がおかしいと気付いたそうです。本当にコルネ嬢を助けてくれるのか。不安だった。何より攫われたのは殿下の侍女であるコルネ嬢です。テレンス公爵令嬢は殿下にも報告するよう、公爵に頼んでいました。ところが公爵は殿下に報告をしていない。そのことにヘッドバトラーとの会話で、テレンス公爵令嬢は気が付いてしまったのです」
攫われるはずだった公爵令嬢は無事。攫おうとした相手は分かっている。そこからテレンス公爵令嬢も一つの考えに至った。
「もしかすると父親は……公爵は、コルネ嬢を助ける気がないのではないか。公爵には何か秘密があり、それが原因で自分は攫われかけた。そして犯人に心当たりのある公爵は、今回を機に相手に沈黙させると決めたのではないか。不安になったテレンス公爵令嬢は自らの侍女に頼み、この件を殿下に報告しようとしたのです。ですが殿下は大使夫妻と晩餐会の最中。代わりに僕が話を聞きました」
スコット筆頭補佐官は、テレンス公爵令嬢の侍女の話を聞き、仰天することになった。話を聞いている間に晩餐会は終わり、歓談の時間に入っている。歓談中であれば、途中退出も認められていた。そこでスコット筆頭補佐官は、レグルス王太子殿下に事態を軽く報告する。
「僕の報告を聞いた殿下は、大使と陛下に丁寧に退出の挨拶を述べた後、疾風迅雷の勢いで宮殿を出発し、現場へ向かいました」
テレンス公爵令嬢が入手した話では、私が連れ去られた方角と場所。それは曖昧にしか分かっていなかった。だが近くまで向かうと火災が起きていることに気付く。さらにその火災の様子を見守る謎の黒装束集団を発見したのだ。
この時レグルス王太子殿下は、自身に仕える精鋭の護衛騎士たちを率いていた。あのサラン護衛騎士隊長も同行している。黒装束の一派は彼らに任せ、彼自身は私を探しに、燃える火の海へと向かってくれたのだという。
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次話は夜に更新しますが、本日いろいろばたしており……
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