さてどうする?
「そんな! ルイーザさんを置いて逃げるなんてできないわよ」
そう言って馬から降りようとするカティおばあちゃんを制する。
「私は大丈夫です。悪事を働くお父様の手下に、助けなんて求めたくはありません。それでも公爵令嬢である私が助けを求めれば、お父様の手下は助けてくれるでしょう」
これには皆「ああ」という顔になる。こんな状況だから、本能的に助け合う気持ちになっていたが、私が敵の娘であることを思い出したようだ。
「でもここでお嬢さんが公爵の元へ戻ったら、ニコルを助け出すための切り札はどうなる!?」
トーマスはこんな状況だが、冷静な思考が出来ていた。
「ニコルさんの件は私がお父様を説得します。今は、ご自身の命を守ることを最優先で考えてください! 皆さんに万一があったら、せっかく再会できても、ニコルさんが悲しい思いをするだけです」
まさにその時、大きな物音がしたと思ったら、納屋が燃えて崩れ落ちた。
「今はルイーザさんを信じましょう。彼女は公爵本人と違い、とても心が真っ直ぐな方よ。信頼していいと思うわ」
カティおばあちゃんの言葉が合図となり、一家は三方向に別れ、馬を走らせた。
その様子を見送り、私は安堵すると同時に「さてどうする?」と思案することになる。
私はテレンス公爵令嬢本人ではないのだから、火の手から逃げようとして、公爵の手下と遭遇したら……間違いなく口封じのため、命を奪われることになるだろう。
(あーあ。もうダメね。これまで何度となくピンチを切り抜けてきたけど、こればかりはどうにもならないわ)
秋のこの季節。空気は乾燥している。しかも牧草地が広がっているのだ。燃料は大量にあるため、火の勢いは増すばかり。そしてここから逃れようとすれば、公爵の手下に捕まる。馬にも乗っていないのだ。間違いなく捕らえられ、口封じ。
(今、私に与えられた選択は、焼死 OR 刺殺)
「でも。刺殺の方はまだ対話の余地があるわ。いきなり問答無用で斬られるわけではないのだし」
そう考え、まずはこの場から逃げようと決意した。
こうして歩き始めるが、火の勢いが強く、今が秋と思えない程、周囲が暑くなっている。
(井戸の水を被ってからの方がいいかもしれないわね)
そこで井戸の方へ向かうが、そこには燃え落ちた家畜小屋が見えている。
それを見た瞬間。
燃え落ち、黒い炭と化した家畜小屋の残骸を見て、心が急に折れた。
それは現実を知った感じだった。逃げきれず、自分はここで命を落とすと悟った感じだった。
(多分、無理だわ。助からない、私……)
井戸のすぐそばで両膝をつき、崩れ落ちると、涙がぽたぽたと地面に落ちていく。
同時に。
走馬灯のように脳裏に浮かぶのは……。
アイスシルバーのサラサラの髪の下の、紺碧色の瞳。
ニコリとも笑わず、私のことを心の中で「子リス」と呼んでいるスラリとした長身の美青年――レグルス王太子殿下の姿だった。
《子リス! どうして君は他者のためにここまで頑張れるんだ!? もっと自分自身を大切にしてくれ! それを君ができないというなら……わたしの目の届かない場所に一人で行くな! これは命令だ!》
聞こえるはずのないレグルス王太子殿下の心の声が聞こえ、頭が重く、呼吸がままらないように感じる。頭の片隅に、一酸化炭素中毒という言葉がぼんやりと浮かぶ。
ここで意識を失えば、焼死体コース確定なのに。
体がぐらりと揺れる。
そこで視界も意識も無になる――。
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