お茶会
お茶会に招待されている令嬢は、下は十五歳、上は十八歳と、年齢的には私に近い。だがホストに仕える侍女として、髪もお団子にしてまとめ、テーブルセットに溶け込むような色味のドレスを着ている。おそらく私は十八歳には見えず、二十代に見えているだろう。
そんな私に対し、令嬢たちは予想通りの若々しく華やかなドレス姿で登場した。
秋を意識したレッド、オレンジ、イエローと、紅葉した森を思わせる鮮やかな色のドレスを着ている。お化粧もして宝飾品も身に着け、みんながキラキラした様子を見ると、二人の姉を思い出す。
姉は社交シーズンには、連日連夜舞踏会やら晩餐会に招待され、毎夜のように着飾って出掛けていた。私は一週間に一度か二度、こぢんまりとした舞踏会や晩餐会に足を運ぶぐらいで、ドレスも落ち着いた物ばかり。
(派手に着飾ったところで、あのゴージャスな二人の姉の前では霞んでしまうから、私が地味になるのは仕方ないこと。そして今回も主役はお茶会に招待された令嬢たちで、私は黒子のようなもの。引き立て役に徹するわ)
改めてそう心に誓うと……。
「大変! ドレスのスカートのレースがほつれているわ」
「安心してください。今すぐ、メイドに処置させますので、座ったままでお待ちください」
私はすぐに応じ、お針子仕事が得意なメイドを呼ぶ。舞踏会ではないが、念のためでドレスの補修ができるメイドを控えさせていた。
「ねえ、屋外だと冷えるかもしれないわ」
「ショールと膝掛けのご用意があります。お使いになりますか?」
「まあ! ではショールをお願い」
「どうぞ」
私がショールを渡すと、他の令嬢からも「膝掛けが欲しいわ」「私はショールを」と声がかかる。なんだか気分は客室乗務員になった気分だ。
「緊張してしまったの。お水を先に一口いただける?」
「あ、私もください!」
「あの、私はレストルームに行きたいのですが」
「私もレストルームへ行きたいわ」
令嬢たちはお茶会に緊張しているようだ。
その緊張を和らげるべく、要望を次々と口にした。
私はすぐさま「お水をいれたカラフェとグラスを各テーブルに用意してください」とメイドに指示を出し、「他にもレストルームへ行きたい方はいませんか?」と声をかけ、挙手した五人をメイドに案内させる。
こんな感じでお茶会開始三十分前は、慌ただしく過ぎて行く。
「あなた、レグルス王太子殿下に仕えて、長いのかしら?」
一人落ち着いた様子で椅子に座っているのは、ストロベリーブロンドにヘーゼル色の瞳で、二人の姉を彷彿とさせるグラマラスボディの持ち主。シックなワイン色のドレスだが、当人が華やかなので、実に存在感がある。
「テレンス公爵令嬢様、私は最近殿下にお仕えするようになったばかりです」
彼女の持つ扇子に刻まれている紋章から、ルイーザ・マリー・テレンス公爵令嬢であると判断し、挨拶をすることになる。
「そうよね。殿下は自身の周辺に女性の使用人を置いていないと聞いたわ。どうしてあなたを置くことにしたのかしら?」
例の暗殺事件がきっかけで、私はレグルス王太子殿下に仕えることになったが、それは公にはなっていない。
「殿下が婚約を控える年齢となり、こういった形でご令嬢をもてなす機会も増えます。そこで一人ぐらい女性の使用人を置いてもいいと思われたのかもしれません。私は元々第二王女殿下にお仕えしていたので、使いやすいと思われたのではないでしょうか」
「なるほど。それで……殿下は噂通りの方なのかしら? ニコリと笑うこともなく、冷たく、厳しく、怖い方……というのは本当?」
これは他の令嬢も気になるようで、私の答えに耳をそばだてている様子が伝わって来た。
「殿下はそのお立場もあり、感情を強く表現することがありません。ですがそれが冷たい、厳しい、怖い……とは私は思わないです。クールに感じるかもしれませんが、根は大変お優しい方だと思います」
「そうなのね。それを聞けて安心だわ。殿下は今日のお茶会のメニューで、どれがお好きかしら?」
「それは……他の令嬢も戻られたら話しますね。皆さん、気になっていらっしゃると思うので」
その瞬間、テレンス公爵令嬢の眉がくいっと上がる。だがまさにレストルームに行っていた令嬢たちが戻って来た。全員が着席したタイミングで、私は今日のお茶会のメニューについて紹介し、こう伝えることになる。
「レグルス王太子殿下は事前に今日のメニューの味見をなさっています。皆様に出すスイーツとセイボリー、美味しいものにしたいと考えられたからです」
私のこの言葉に令嬢たちは「まあ、なんてお優しいのかしら!」「私たちのためにわざわざ味見されるなんて!」と喜びの声が起きる。やはりレグルス王太子殿下に対し、冷たく、厳しく、怖い……というイメージがあるのだ。気遣いができると分かることで、そのマイナスなイメージが少し変わった気がする。
(ここでさらにレグルス王太子殿下のイメージを変えるわよ!)
「味見をした中でも、殿下が特に気に入っていたもの、それは意外かもしれませんが――」
スイートポテトとカボチャのパウンドケーキを気に入っていたこと。それを明かそうとしていた私の腰は、優しく抱き寄せられた。
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