お茶会当日
いよいよ迎えたお茶会当日。
ホストであるレグルス王太子殿下に仕える侍女として、目立たずに控える必要がある。
そこでモスグリーンに黒のレースがあしらわれたドレスに着替え、テーブルセッティングなど最終確認を行う。銀食器はきちんと磨き込まれたものであるか。テーブルに飾る生花に傷みはないか。
(王太子殿下主催のお茶会。気が抜けないわ!)
「ふむ。ここで茶会を行うのか」
レグルス王太子殿下の声に似ているが、その声は年齢を感じさせる。まさかと思い、振り返ると、毛皮のついた深紅のマントを羽織った男性がいる。
(この男性は……国王陛下だわ!)
「国王陛下にご挨拶いたします。コルネ侯爵家の三女アンジェリカ・リリー・コルネです。現在、行儀見習いとして、レグルス王太子殿下の侍女をしております」
「ははは。そう固くならないでもいい。そなたの活躍は既に耳に届いておる。四日後の舞踏会でも顔を合わせることになっていたが、気になってしまったので、つい足を運んでしまった」
これには「!」と驚くことになる。
今日のお茶会は秋薔薇が咲き誇る庭園の一画で行うことにしていた。気温も穏やかで、寒すぎることもない。念のためでウールのショールや膝掛けも貸し出すことにして、秋の青空と薔薇を愛でるお茶会にするつもりだった。
(宮殿から王宮へ向かうのに、庭園を通り抜けるとショートカットになる。てっきり国王陛下もそれでここに偶然現れたのかと思ったら……。わざわざ足を運んだのは……王太子主催のお茶会。しかも婚約者候補の令嬢を招くのだ。ちゃんと準備ができているか、確認したくなったに違いないわ。王家の威厳に関わることでもあるから)
「レグルスを暗殺者の魔の手から救い、粉薬を飲みやすくする手法を考案して、金属のペン先のついた羽根ペンを提案、便利な算盤の使用も発案している。そなたが実に賢いコルネ嬢であると、レグルスからは耳にタコができる程聞かされているが……。まだ若い王太子主催の茶会。そのわりには、随分と落ち着いた雰囲気にまとまっているな」
婉曲な言い回しをしてくれているが、ようは地味であると指摘している。これは国王陛下だけではなく、レグルス殿下やスコット筆頭補佐官からも指摘される可能性があった。ゆえに私は落ち着いて説明を行う。
「このテーブルセッティングには、舞台セットの役目がございます」
「舞台セット?」
「お茶会に参加されるご令嬢たちを際立たせる舞台セットとしての役目が、あるはずなのです。ゆえにあえてシックにまとめました」
そこで私はさらに詳しい理由を解説する。
「秋が深まり、木々の紅葉も始まり、令嬢たちは季節を意識したドレスをまといます。紅葉を思わせる、レッド、オレンジ、イエローなどのドレスを着る令嬢が増えるんです。彼女たちのドレスが引き立つには、テーブルクロスやナプキンの色は、深みのある色が好ましい。そこでアースカラーとも呼べる、自然界で見られる色を採用することにしました」
「なるほど。アースカラーか。初めて聞いたぞ。だがイメージは沸きやすい」
「ありがとうございます。森の中の苔むした小道に落ちている紅葉した葉。つい目が向いてしまうのではないでしょうか。モスグリーンにレッド、オレンジ、イエローはとても映えるため、視線がそちらへ向きやすい。ただモスグリーン一色ではのっぺりしてしまいます。そこでアクセントでゴールドを取り入れることにしました。ナプキンリングやティーカップには、ゴールドを使ったものを選んでいます」
私の話を聞いた国王陛下は深く頷いた。
「……確かにそなたの言う色味のドレスであれば、このテーブルセッティングで実に映える。まさにこの一画が、秋の深まりを感じさせ、絵になるような景色に変わるのか。……宮廷画家を呼び、記念の絵を描かせよう」
これにはビックリだが国王陛下はすぐそばにいる侍従に声をかける。さらに付き従う廷臣たちも「素敵な一枚に仕上がりそうですね」と国王陛下をヨイショするので、「そうであろう。王立図書館のホールに飾らせよう」と陛下もご機嫌だ。
「レグルスがそなたを大いに気に入る理由もよく分かった。これまでコーデリアの侍女をしていたようだが、その時にそなたの名が話題に上ることはない。まさに主に恵まれたわけだ」
「! コーデリア第二王女殿下には、大変よくしていただきました。淑女としての振る舞いをそばで見られることは、私自身の勉強にもなりましたので」
「ははは。レグルスの言う通りで、そなたは人を立てるのが上手い。ところでレグルスはどうだ。いずれ国王になる男として、そなたにはどう映る?」
国王陛下からこんなことを尋ねられると思わず、ビックリしてしまう。だがレグルス王太子殿下には素晴らしい点が沢山ある。いくらでも語ることができそうだった。そこで手始めでこんなふうに伝えることになる。
「レグルス王太子殿下は、やがて国の頂点に立つ人間として、日々様々なことに疑問をお持ちです。その疑問を解消し、お役に立てればと思い、本で得た知識を助言したところ……。殿下は真摯に受け止め、粉薬の飲み方であれ、羽根ペンのことも、算盤についても。どれだけ国益になるか、国民にとって有益になるかを即座に考え、動かれています。そういったところは本当に尊敬できます。間違いなく、人心を掴む立派な国王になられるかと」
「そうか。そなたから見たレグルスは、どうやら魅力的な男のようだな」
「はい! お役に立てて私自身、嬉しいです」
そこで「ご令嬢たちが続々、エントランスに到着しています」とレグルス王太子殿下付きの従者が報告してくれる。
「ではこれで失礼しよう。レグルスはそなたのこと、とても高く評価している。これからもレグルスのこと、頼んだぞ」
「はい! うけたまわりました」
私は深々と頭を下げた。
お読みいただき、ありがとうございます!
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筆者もようやく明日からお盆休み
(というかただの週末!?)
次話は明日の13時頃公開予定です。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします~☆彡






















































