何だか可愛らしい。
翌朝。
オリーブ色のセットアップ姿のスコット筆頭補佐官は、軽い二日酔いで出勤となった。なんだかんだで一人でワインをボトルで五本開けているのに、軽い二日酔いで済んでいるということは。
(かなりの酒豪ね!)
そんなスコット筆頭補佐官のために、私は二日酔いに効きそうなドリンクを用意することにした。
「コルネ嬢、これは……?」
ミルクティー色のドレス姿の私に、スコット筆頭補佐官が尋ねる。
「二日酔いに少しは効くかもしれません。うすめのレモン水に蜂蜜とひとつまみの塩を加えたものです」
前世で言うならスポーツドリンクに近い飲み物を用意し、水分補給と電解質のバランスを整えることにしたのだ。
「僕のためにわざわざ用意いただけるなんて、やっぱりコルネ嬢は神です!」
執務机の椅子から立ち上がると、グラスを置いた私の手をスコット筆頭補佐官がまさに握りしめた時。パールホワイトのスーツを着たレグルス王太子殿下が、執務室へ入って来た。
「おはよう、二人とも」
《朝から何で二人は手を握り合っているんだ!?》
発せられている声は冷静なのに。
心の声の方は、何だかとても苛立っている。
(というか、確かに朝から何で私はスコット筆頭補佐官と手を握り合っているの!?)
しごく尤もな指摘だったので、私はスッと手を引っ込める。そこへノックと共に現れたのは侍従長。彼の後ろに続く執事たちは、巻物を山のように持参している。
「レグルス王太子殿下、今朝届いた求婚状と推薦状です。国王陛下もおっしゃられていたと思いますが、殿下はこれより婚約者を選ぶ必要がございます。きちんとこれらをご覧いただき、いずれかの姫君、令嬢と婚約をなさってくださいませ。どうしても決めきれないのであれば、陛下がお決めになるかと」
侍従長の言葉を聞いたレグルス王太子殿下は「分かっております」と素直に返事をし、心の声の方では……。
《どうせ最終的な決定権は父上なのだろう……》
スコット筆頭補佐官が言う通りで、諦めモードかと思いきや!
《いや、でも……。粉薬の件、羽根ペン、算盤と立て続けに父上を喜ばせることができている。今ならわたしの希望を押し通せるかもしれない。父上は厳しいが、実力を示せば話を聞いてくれるはず》
「こうなることを予想し、こちらを用意しています。どうぞ、ここに入れてください」
スコット筆頭補佐官が木箱を自身の執務机の上に置いた。彼の執務机の周りに朝から沢山の木箱が置かれていると思ったら、求婚状や推薦状を入れるために用意していたようだ。
「ではそちらへいれさせていただきます」
侍従長が手をパン、パンと叩くと、執事が木箱に求婚状と推薦状を入れていく。
(すごいわ。もう木箱が一箱埋まってしまった!)
「それではまたお届けに参ります」
侍従長は深々とお辞儀をして退出し、スコット筆頭補佐官は木箱をレグルス王太子殿下の所へ運ぶ。
「殿下」
「分かっている」
ため息をついたレグルス王太子殿下の紺碧色の瞳と目が合う。
「……コルネ嬢ならどうやって婚約者を選びますか?」
(まさかそんな質問をされるとは思わなかったわ!)
「私は……令嬢という立場ですと、選ぶも何も……。ですがもし私が殿下のお立場であれば、すなわち私が王太子でしたら……。結婚相手は、即位後の治世にも影響するもの。月並みなアドバイスしかできませんが、伴侶選びは家柄・人柄をよく見てお決めになるといいのではないでしょうか。もし家柄は同格となったら、人柄を気に入られた方で選ぶとよいかと」
「具体的には? 人柄……一人一人とお見合いをするのですか?」
「いえ、これだけの数です。書類審査を経ても相当な数が残るでしょうから、その一人一人とお見合いでは殿下が執務をできなくなります」
《ではどうしろうと?》
心の声で拗ねているレグルス王太子殿下は、何だか可愛らしい。
「お茶会を開催してはどうでしょうか?」
「お茶会……ですか?」
「はい。縁談話でのお茶会は、家族同席の短い時間で行われますよね。そういったお茶会をやるわけではありません。婚約者候補の令嬢をある程度の人数で集め、お茶会を開催するのです。一人ずつと短い時間でもいいので話すのは勿論、お茶会の最中の令嬢の振る舞いも観察されるといいと思います」
《なるほど。婚約者候補が集うということは、その場にいる全員がライバルになる。その状況で各々の令嬢がどのように振る舞うのか。社交性を見つつ、その令嬢の本性を探れと》
(さすが勘のいいレグルス王太子殿下。私の言わんとすることをすぐに理解したわ!)
「コルネ嬢、君の発案はとても興味深いものです。その方法であれば……」
そこまで言うと、彼自身の心の声が反応している。
《人柄を知ることもできるし、時間も稼げる。それに……。ひとまず父上を説得するまでは、このお茶会の手法で行くとよさそうだ》
レグルス王太子殿下は、今日も変わらずポーカーフェイスではあるが、その紺碧色の瞳を輝かせる。
「スコット、君は執務を始めてくれたまえ。わたしはこの木箱の求婚状と推薦状を見て、お茶会に呼ぶ令嬢を決めようと思う。コルネ嬢はお茶会の仕切りを頼みます」
「「かしこまりました、殿下!」」
スコット筆頭補佐官と私は、声を揃えて返事をした。
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