酔っ払いのぼやき?
スコット筆頭補佐官から「殿下のことを頼みます!」と言われ、これは侍女としてレグルス王太子殿下のことを支えてほしいと言っているのだと理解した。
「分かりました。侍女としてしっかり、レグルス王太子殿下にお仕えします!」
「いえ、そうではなく」
「?」
ワイングラスを口に運びながら、スコット筆頭補佐官は素っ頓狂なことを言い出す。
「殿下はコルネ嬢に気を許していると思います! そんなふうに気を許している女性は、母君である王妃殿下、妹君の王女殿下たちぐらいです。そして後にも先にも、もう二度とそんな女性は現れない気がするんです」
「そんなことはないかと」
するとスコット筆頭補佐官はぶんぶんと首を振る。あまりにも勢いよく振るので、酔いがさらに回らないか心配になるが、彼は気にすることなく話を続けた。
「殿下がコルネ嬢に気を許しているのは、信頼しているからだと思います。出会いは自身の暗殺未遂の場。恐ろしさで腰を抜かすか、我が身を守るために逃げてもおかしくないのに、コルネ嬢は危険を顧みず、殿下のために動かれました」
「今思えば無謀でしたし、結局、私が助けられたのですが……」
「それについてはお互いに助け合ったでいいと思います。でも話はそこで終わりません! コルネ嬢は殿下が苦手な化膿止めの粉薬を飲みやすくする方法を考え出しましたよね! しかもさらなる要望に応え、貴族でも平民でも粉薬を飲みやすくする秘策を生み出しました!」
スコット筆頭補佐官が熱く語るので、私は苦笑するしかない。
「でもあの煮こごりを使う方法は、料理人の皆さんが考案したんですよ」
「その料理人たちは、コルネ嬢がゼリーを使う方法を提示してくれたから、思いつけたと言っていました!」
そこで言葉を切り、ワインを飲むと、スコット筆頭補佐官は話を続ける。
「粉薬を皮切りに、コルネ嬢は殿下の悩みを次々に解決しましたよね? その悩みは僕の悩みでもありました。羽根ペンのペン先に金属を装備し、インク瓶にひたす回数を減らすなんて……実に画期的です!」
「何かの文献で見た手法で、私はぼんやり覚えていただけですよ。それに机上の空論で終わらなかったのかは、鍛治職人の皆さんのおかげです。特にダイアンさんが」
「そこです、そこなんですよ!」
「!?」
スコット筆頭補佐官は再び私の手をとる。
「そうやって自身が前に出るのではなく、他の方を立てられる。そういう謙虚なところも本当に立派だと思います!」
「でも本当に私は本で得た知識を口にしているだけですから……」
「本なんて僕だって山ほど読んでいます。でも適切なタイミングで本から得た知識を披露できるかと言うと……出来ません! それが出来るだけでもコルネ嬢はすごいと思います」
こうもベタ褒めされると流石に照れ臭い。
「それに算盤も本当にすごいですよ。使い方まで覚えていること。尊敬しています、心から!」
「あ、ありがとうございます……」
そこでようやくスコット筆頭補佐官が私の手を離し、この会話も終わりかと思ったらそうではない!
「と言うことで、お分かりかと思いますが、コルネ嬢は人として、とても魅力的なんですよ。僕もコルネ嬢にゾッコンです。殿下も間違いないと思います」
「お二人に信頼いただけて嬉しい限りです」
「はい。ですから、名乗りをあげてください!」
(名乗りを上げる……?)
頭には疑問符が踊る。
「令嬢の婚約話は十五歳から出始めますが、令息は十八歳になると、縁談話が始まります。高位貴族の令息ともなると、求婚状や推薦状が令嬢の両親から届けられます。王太子殿下は先月十八歳になりました。そして明日、十月一日が縁談話の解禁日です」
「つまり殿下のところに大量の求婚状や推薦状が届くわけですね」
「はい。でも殿下はろくに見る気もないでしょう。その立場から、相手なんて選べないと思っているんです。一番好条件の相手と、義務的に婚約すると思っているんですよ!」
王族であり、王太子なら、そうなっても仕方ないと思う。
「ですが状況が変わりました! 殿下は絶対にコルネ嬢のことが好きだと思います!」
「!? 何を言い出すんですか、スコット筆頭補佐官! 不敬罪、侮辱罪に問われますよ!?」
「どうしてですか? 長年殿下を見ていた僕の勘です! 間違いないですよ!」
(スコット筆頭補佐官は、何を勘違いしているのかしら!? レグルス王太子殿下は確かに私を気に入り、感謝をしてくれているが、それは有能な部下、使用人の一人としてなのに! ここで誤解をして、婚約者になりたいと名乗りを上げたら……うんざりされるだけよ!)
あのクールな表情で淡々と「身の程をわきまえていただきたいです」と言われたら……。
(三年ぐらい立ち直れない気がするわ!)
「コルネ嬢、ぜひ殿下に推薦状を送りましょう! 何なら僕がその推薦状を書きますよ!」
「結構です! 私は殿下の侍女で、それ以上ではないのですから! 酔っ払いも大概にしてください!」
ピシャリと告げてもスコット筆頭補佐官はしばらくの間、「絶対に上手くいきますから〜」と食い下がり、私は辟易することになった。
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