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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
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オルリック嬢編(前編)

「ホワイティア先生、コルネ伯爵のチョコレートのイベントで手作りしました。昨年は怪我の治療でお世話になりました。私からの感謝のギフトです!」

「おおおおお、これはこれは! わしがもらってよいのか!?」

「はい、ぜひお召し上がりください!」

「嬉しいのう」


 二月十四日。


 前日に私は大きなハートのチョコレートを二つ作った。

 ホワイティア先生に御礼で渡すため、と、予備。


 コルネ伯爵がいろいろな人に渡す……というのを手伝い、沢山の小さなサイズのチョコレートも作っている。でもそれはそれとして、私が翌朝部屋に持ち帰り、ラッピングしたのはこの二つだけだったが……。


「おはよう、リエット」

「おはようございます、ジーク」


 暗号解読を学ぶため、今朝も図書館にやって来た。


「リエット。今日は一つの単語でアナグラムを作る方法を考えよう」

「げっ」

「うん? 今、貴族令嬢らしからぬ言葉が聞こえたな」

「……気のせいだと思います」

「そうか」


 沈黙ができ、ジークが咳払いをして再び口を開く。


「……今日、僕が用意したのは、バタークリームたっぷりのケーキだ。それなのに……」


 椅子に座る私のそばにジークが近づく。


「バタークリームではない、甘美な香りがする」


 そう言うとジークが私の耳元に顔を寄せた。

 甘美な香り……ジークのミントの香水と息が耳と首にかかり、体の奥深くがゾクリと震える。


「……特に何も感じません」

「そうかな? リエットから、とても甘い香りがするのだが……」


(ジークの息が熱い……)


 首筋にかかるジークの吐息に悶絶しそうになりながら、歯を食いしばり、羽根ペンを握りしめる。


「まあ……いいだろう。まだ固まっていないのかもしれない」

「はい?」

「いや、何でもない。では早速、始めるぞ」


 咳払いした後のジークからは散々いじめられ、くたくたになる。

 しかもバタークリームのケーキは食べられなかった。


(だから暗号解読は嫌い!)


 なんとか朝食を得てメイドとしての仕事を開始する。


「さっき、ウィテカーさんにチョコレートを渡したわ!」

「私はホーキンズさんにあげたわよ!」

「私はホーソン卿に贈ったら笑顔で受け取ってもらえたわ!」


 廊下ですれ違う侍女の方々はチョコレートイベントの話をしている。それを聞き、私も思う。


(昼休憩でホワイティア先生のところへ行き、チョコレートを渡そう)


 こうして午前中は掃除や洗濯に追われ、十二時半から昼休憩となる。


 宮殿の客間に滞在している賓客が多く、社交界シーズンのメイドは忙しい。休憩時間も三十分しかないので、私は急ぎ足で宮殿の廊下を歩いていたが……。


 あちこちでチョコレートを渡す貴族令嬢、使用人の女性が見られる。


 そこかしこでキューピットが飛んでいるように思えてしまう。


「リエット」

「!? 何ですかジーク」


 私の進路を塞ぐように、突然現れたジークに「邪魔」と思いながら尋ねると……。


「昼休憩の時間は短いのだろう? だから僕からやって来てみた」

「? なぜです?」

「え、リエット、僕に用事があるのだろう?」

「はい……?」

「え、違うのか!? だってとっても急いでるから……」

「ホワイティア先生のところへ向かっているんです! 私に用事がないなら、もういいですか?」

「……!」


 ジークは「えええ、そうなの!?」となぜか盛大に驚きながらも私に道を譲る。


 私は「一体何なの……?」と思いながらもホワイティア先生のところへ向かい、代わりに大量の包帯をもらい……。


「オルリック嬢、どうしたのですか!? どなたか大怪我をされたのですか!?」


 廊下でバッタリ遭遇したルベール嬢からは、木箱いっぱいの包帯を抱えていることを驚かれてしまう。


「安心してください、ルベール嬢。誰も怪我はしていません。ホワイティア先生にチョコレートをプレゼントしたら、大喜びで……。御礼でなぜか包帯を大量にいただきました。私、かなり強くなったんで、言え、何でもありません。ともかく包帯をこんなに使うことは……ないと思うので、騎士団に届けようかと」


 うっかり発言をしそうになり、何とか誤魔化し、騎士団本部の建物へ向かう。包帯を届けると大喜びされ、御礼で武具の手入れに使うオイルをもらえて私も大喜び。


「オルリック嬢、客間の掃除がまだ終わっていないんだよ。手伝ってもらえるかい?」

「了解です、メイド長」


 午後も大忙しで時間が過ぎ、短いティータイムのため、使用人の休憩室でビスコッティとミルクティーをかき込んでいると……。


「きゃ~」「素敵!」「なんてハンサムなの!」


 休憩室にいたメイドと侍女が悲鳴のようなささやき声を上げている。


 何事かと思い、目をやると、そこには美しいバターブロンドを揺らし、赤銅色の瞳を細め、白い歯を見せて微笑む貴公子……。


「なんだ。ジークじゃない」

「おいおい、リエット! それ、声に出ているから! それに『なんだ』はないだろう、『なんだ』は!」


 ジークが私に話し掛けると、一斉に休憩室にいる女性たちから矢のような視線が集まる。


 貴公子にしか見えないジークが特定の女性に声をかければ、結婚適齢期の未婚女性なら過剰反応したくなる気持ちは……よくわかる。


(というか普段は人がいないところにひょっこり現れ、私に声をかけるのに。よりによって今日に限り、こんな大勢の前で声をかけるなんて!)


 イラッとしながら席から立ち上がると「ちょっとジーク、こっちへ来てください(怒)」と腕を引くが、ジークはなぜかニコニコ笑顔で「まあまあリエット、そう急ぐな」と嬉しそうにしている。


(こっちがイライラしているの、伝わっていない!?)


 使用人の休憩室の裏口を出ると、洗濯物を干すスペースにつながっている。

 この後、ちょうど洗濯物を取り込む予定だったので、ちょどいい。


(いや、そんなことしている場合ではないのかもしれないわ)


 そこで私はジークに問う。


「それでジーク。何ですか? 使用人の休憩室に現れるなんて。余程のことがあったのですよね?」


お読みいただき、ありがとうございます!

ジークは暗号解読の授業をみっちりしただけですが

リエットは恨み節です(笑)

そして何かがすれ違っている二人ですw

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