テレンス嬢編
(ついに無事、二月十四日を迎えましたわ……!)
コルネ嬢が考案した寒い冬が温かく感じるチョコレートのイベント。
実施日は二月十四日と決まっていた。
(コルネ嬢は不思議とその日がいいと言っていたけれど、準備期間を逆算しても確かにこの日が最適でしたわ)
手作りに挑戦する令嬢は大勢いて、街中のお店では異例のチョコレート格安販売に平民たちが殺到。しかもコルネ伯爵によるイベントであるとわかると、みんな大喜び。
今回は、ちょっと頑張ることで、一度も食べたことがないチョコレートが手に入るのだ。購入して異性に贈るが、それは「一緒に食べて見よう」になる可能性が圧倒的に高い。夫婦仲良く、親子で、恋人同士で、恋人未満同士で、味わうことになるだろう。
(何よりもチョコレートを購入することで、当事者になれる。これが一番嬉しいのよね。傍観者でいるより、気持ちが盛り上がる)
十三日にお使いがてら、街の様子を確認したが、チョコレートを販売するお店は軒並み行列ができていた。
(まさに心温まるイベントだわ。しかも寒い冬だからこそ、人とのつながりが温かく感じられるわ)
もろもろ無事、進行したことに安堵しながら、スコット筆頭補佐官に渡すために用意したチョコレートを箱にいれると、綺麗にラッピングを行う。
(最後にこのリボンをかけて完成ね)
昔から、手紙を綺麗に折り畳んだり、リボンを結わいたりは得意だった。ラッピングもきちんとできたので、あとは昼食の時間を待つだけだ。
昼食はいつもコルネ嬢がメイドの給仕で食事となる。その前後で侍女たちも昼食をとるのだ。
(夜はコルネ嬢は殿下とオペラの観劇があるわ。私はそれに同行することになっている。よってスコット筆頭補佐官にチョコレートを渡すなら、この昼の時間がチャンスよ)
婚約者であるスコット筆頭補佐官に、ただチョコレートを渡すだけなのに。そこにコルネ嬢の言う『想いを込めて渡すの。これはチョコレートに気持ちを込めて渡すイベントですから』という魔法のような言葉が追加されると、何と言うか胸がときめきく。
そんな状態だったので、午前中はあっという間に過ぎ、お昼の時間に突入。ルベール嬢、モンクレルテ嬢ら半分の侍女に先に昼食をとらせ、後半でお昼休憩となった私は……。
昼食前に、待ち合わせ場所となっている中庭へと向かう。
ベリー色のドレスの裾がいつもより大きく揺れるのは、気が急いているから。歩幅が広くなり、少しでも早く中庭へ到着したいと思っている。
「スコット筆頭補佐官!」
スノードロップが咲き誇る花壇のそばに、オリーブブラウンの長髪を後ろで一本に束ね、眼鏡をかけたスコット筆頭補佐官が待ってくれている!
アンティークグリーンのセットアップ姿の彼は、私を見ると笑顔でこちらへ駆け寄ってくれた。
「ルイーザ嬢!」
思わず抱きつきたくなるのを我慢して、私は急ぎ足になっていた歩みを緩める。
深呼吸をして、いつもの速度に戻し、スコット筆頭補佐官と向き合う。
「スコット筆頭補佐官。コルネ伯爵考案のチョコレートイベントで作ったものです。よかったら召し上がってくださいませ」
「……ルイーザ嬢! ありがとうございます!」
すでにこのチョコレートのイベントについてスコット筆頭補佐官も知っていたのだろう。疑問を挟むことなく、紙袋を受け取ってくれる。
「いただくのは後にしますが、中を見てもいいですか?」
「ええ、構いませんわ」
「ではそちらのベンチに座りませんか」
スコット筆頭補佐官が手を差し出し、エスコートしてくれる。
そこで冬晴れの柔らかい陽射しが降り注ぐ中、ベンチに腰を下ろす。
「結わき方が完璧ですね」
シュルっと音を立て、リボンをほどきながら、スコット筆頭補佐官が微笑む。
「開けます」
「はい」
パカッと小さな音を立て、蓋を開けるとそこには六粒のハートのチョコレートが入っている。
「嬉しいです! これは……六回分の楽しみですね!」
「はい。スコット筆頭補佐官とご家族の分を用意しました。……大切に想う六人の家族を思い浮かべながら用意しました」
「六人の家族……?」
「はい。その……これがスコット筆頭補佐官。こちらがお義父様、お義母様、お義兄様。これはお義兄様の婚約者、そしてこちらは……未来に増えるかもしれない家族の分です」
「……ルイーザ嬢、それは……!」
「あくまで授かりものと言いますし、断言できるものではありません。ですがスコット筆頭補佐官と結婚したら……」
結婚して結ばれた二人の間で授かるかもしれないもの。それは新しい命だ。
「お義父様、お義母様、お義兄様、お義姉様ができるだけでも嬉しいです。それに愛する人と共に生きている。それだけでも幸せなのですが……。さらに家族が増えることがあれば、嬉しい、と思いまして」
「ルイーザ嬢」
スコット筆頭補佐官の瞳がうるうるしている。
「スコット筆頭補佐官、昼休みはもう終わりです。泣いてはダメですわよ」
「……! わかりました。泣きません。ただ……絶対にルイーザ嬢を幸せにします!」
「ありがとうございます」
スコット筆頭補佐官が優しくを私を抱きしめる。
コルネ嬢考案のチョコレートのイベント。
確かに私の心は温かい気持ちで満たされた。
お読みいただき、ありがとうございます~
ルイーザ嬢、お幸せに♡
さて、明日は誰でしょう~?















