あとはひらめき?
「リエット、これは本当に初歩的なアナグラムだ。解けたらこの濃厚チョコレートケーキは、リエットのものだ。だが解けなかったら……仕方ない。昨日に続き、ぼくが食べるしかないな」
ジークにそう言われた私は歯軋りをするしかない。
今日は一月四日。既にコルネ伯爵から命じられた絶対安静期間は終わっている。私はメイドとしても、諜報員としても、再びバリバリ動くつもりでいた。毎朝の特訓でも、体を思う存分で動かしたいと思っていたのだけど……。
「コルネ伯爵から、念のためで重いものを持たせたり、腕を酷使する作業はまだ数日控えてほしいって言われたんだよ。だからね、オルリック嬢。おまえさんは今日一日、怪我をしていない方の手を使い、羽根はたきで、宮殿中の埃を落とすこと」
昨日はメイド長から、まさかのひたすらの埃落としを命じられてしまう。しかも朝の特訓も、ナックルダスターや警棒を使ったものでも、ナイフでもなく、乗馬でもない。
「リエット、暗号解読をやろう。どのみち冬になったらやるつもりだった。心機一転、新年から新しいことに取り組む。前向きでいいだろう?」
ジークにそう言われ、アナグラムを解くように言われたのだけど……。
「無理! 昔からアナグラムは苦手です!」
「!? そうなのか? だが諜報部で暗号……アナグラムは必須なんだが……」
「免除して、ジーク!」
うるうるの瞳で甘えるようにジークを見上げると「くっ…… リエット、そんな愛らしい目で僕を見るな……! 免除してやりたいが、さすがに無理だ。特訓を続けるしかない!」と、陥落には失敗。そして今日もまた、朝から暗号の解読に取り組むことになった。
「単語の並び替えだよ、リエット。法則を見つけ、絞り込み、あとはひらめき! 解けた時のカタルシスは半端ないぞ!」
「そう言われても……」
ジークに渡された紙に書かれているのは『A fated soulmate is regrieving.』だ。その意味は『運命の恋人は、またも悲しみに沈んでいる』と、随分ドラマチックな言葉である。何か演劇やオペラのセリフのように思えてしまうが……。
(まったくわからない。簡単なアナグラムと言うけれど、それはジーク基準なのでは!? 一般的な難易度はかなり高いと思う)
早朝、この時間、利用者のいない宮殿の敷地内にある王立図書館。ジークが鍵を借り、閲覧室で私はこのアナグラムと睨めっこだった。しかも目の前には濃厚で甘い香りを漂わせるチョコレートケーキが置かれているのだ。
(食べたい……。あの脳天を直撃するような甘さのチョコレートケーキを食べたい!)
そこでもう一度アナグラムに目を向ける。
(……全然、わからない!)
もう降参も同然でジークにヒントを求める。
「仕方ないなぁ、リエット。最大のヒントは人名が二つ、使われている」
「人名!?」
「そう。もう一つのヒントは……そうだな。ただで教えるわけにはいかない。諜報員としてリエット、僕から聞き出してみろ」
「あ、わかりました」
そこで椅子から立ち上がった私は、服の袖に仕込んでおいたナイフを使い、ジークの首元に当てる。
「な……リエット……! それは……」
あまりの素早さと、まさかの袖からナイフを取り出したことで、さしものジークも驚愕していた。
「奇術の一つを応用しただけですよ。よくあるでしょう? 手にはカードがありません、となっているのに、次の瞬間。その手にカードがあらわれる。袖に仕込んでいるんですよ。それをこのナイフで応用したまでです」
「……そんな応用、反則だ!」
その言葉を聞いた私は、ため息をつくしかない。
「ジーク、何度も言っているはずです。私、勝つためなら手段は選びませんので」
「……そうだったよ。リエットの豪胆さは僕のツボだった。仕方ないな。最大のヒントを与えよう」
ジークのその一言で、私はナイフを引っ込める。
「Loveだ。愛だよ、リエット。存分にカタルシスを味わうといい」
そう言われ、私は「愛……?」となり、『A fated soulmate is regrieving.』と書かれた紙を睨んだ結果。じわじわと浮かび上がる答えに、私は「I can't believe this!」と呟くことになる。
「お! リエット! ついにアナグラム解読成功か!」
「ジーク! なんておふさげを!」
「ふざけてなんかいないさ。僕の気持ちだよ、リエット」
そう言うとジークは、数多の令嬢を虜にしそうなウィンクをするが、私への効果は……てきめんなわけがない!
「ジークフリートはマリエットを愛してる――そんなアナグラム、却下です!」
叫ぶのと同時で、私は濃厚チョコレートケーキがのったお皿を手にして、その後はもう思いっきりかぶりつく。
「こら、リエット! まだ正解とも言っていないのに!」
「違うのですか!?]
私がくわっと噛みつく勢いで尋ねると、ジークは「い、いや、違わないぞ、リエット。大正解だ!」と答える。
この瞬間。私は心に誓う。
(「ジークの大馬鹿野郎」で高難易度のアナグラムを絶対に作ってやる!)
そう心に誓うことで、春になる頃には……
「リエット……。暗号文は……アナグラムは完璧だ。あんなに苦手だと言っていたのに」
「ジークのおかげです!」
「そうか。それは……よかった……よかったんだよな?」
「……そうですね」
薄笑いを浮かべる私を見て、ジークは困り切った表情で尋ねる。
「ところでリエット。このアナグラム。ミラーの副長官である僕の頭脳を持ってしても、解くことが出来ないのだが……」
「解けた時のカタルシスはそれはもう、たまらないですよ。ぜひ、自力で解いてください!」
「……! ヒント、ヒントはないのか、リエット!」
「ヒント? そうですね。私の心からの想いを込めました!」
「何!? リエットの心からの想い……ならば絶対に紐解かないといけないな……」
本気を出したジークは翌日、そのアナグラムを解く。そして――。
「リエット……古代語まで使い、こんなアナグラムを作るなんて……ヒドイ……!」
ここで私の溜飲はようやく下がるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます~
ホリデーシーズン更新はこれにて完了です!
地味に日付合わせで物語を書くって……大変でしたがやりがいはありました~
ちなみにリエットとジークですが
二人にはゴールインして欲しい⇒ニコニコマーク
いちゃいちゃする二人を見たい⇒指マーク
このままのじれじれがいい⇒爆笑マーク
よかったら読者様のご希望をお聞かせくださいませ~
【お知らせ】\新春特別更新します/
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』
https://book1.adouzi.eu.org/n3124kp/
「……公爵令嬢が、地に堕ちたな。生き延びるため、その穢れを知らぬ体を差し出すつもりか?」
このセリフの作品の、夏以来の更新を今晩行います~
歯磨きしながらOR明日の時間がある時にでも
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