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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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ニューイヤー

 遂に新年を迎えた。


 宮殿の敷地内に建てられた時計塔、街中の時計塔が一斉に鐘を鳴らす。その音は、楽団が演奏を止めた舞踏会の会場にも届く。


「殿下、ハッピーニューイヤー!」

「アンジェリカ、ハッピーニューイヤー!」


 これはハグだからと心の中で思いながら、アンジェリカのその細い体を思いっきり抱きしめた。


 ピオニーの甘い香りが彼女の髪や体から匂い立ち、そのまま押し倒したくなる衝動をこらえることになる。


 あの日。


 アンジェリカに会う以前、令嬢への興味はゼロに近かった。男として、王太子として、いつかは婚約して結婚して跡継ぎを得る。それは義務であり、自分からそのための行為をしたいという気持ちには、少しもならなかった。


 だが彼女に心惹かれていくと、その瞳に自分が映るだけでは足らず、自分の腕の中で抱きしめたい。その薔薇のような唇にキスをしたい。さらにその先も……と考えるようになった。


 この考えを自室でするならまだいい。


 しかしこの衝動は厄介で、アンジェリカ本人を目の前にすると、抑えが効かないほど昂ってしまうのだ。


(まさか自分にこんなに欲望があったなんて)


 驚きであったし、戸惑いはある。


 感情を抑制することが当たり前だったのだ。でもこの衝動だけは、どうにもならない。しかもアンジェリカにはこの切望する気持ちが丸見えなのだ。


(それでもアンジェリカがわたしを嫌うことはない。むしろ顔を赤くして、瞳を潤ませて……。彼女の心は読めない。でもきっとアンジェリカもわたしと同じ気持ちなのではないか)


 その考えはとても甘美である。


「殿下、ハッピーニューイヤー」


 ハグというにはいささか長くアンジェリカを抱きしめていると、スコットが絶妙なタイミングでグラスを手に、わたしに声をかけた。


 ◇


 ニューイヤーも公務はあるが、スタートはゆっくりだ。ブランチで王族が一堂に介し、卵料理や軽めの肉料理などをいただく。その後は婚約式を行った大聖堂へ王族全員で向かい、ミサが行われる。午後は臣下や有力貴族たちが謁見の間に集い、新年の挨拶だ。そしてこの新年の挨拶の場で官僚試験や使用人の昇級試験の合格者が発表される。


(合格者の情報は現状、父上……陛下しか知らない。アンジェリカはテレンス嬢が合格したのかどうか、気になっているようだな)


 このわたしの見立ては正解で、大聖堂のミサで、国の平和と国民の幸福の祈りをあげた後、アンジェリカは個人的な祈願をしていたが……。


「みんな、合格するようにと願ったわ。でも特にテレンス嬢には……昨年末に辛い出来事があったのよ。だからこそ新年には朗報が届いて欲しいの」


 あの愛らしい顔でそう言っているのを聞くと、わたしが国王なら全員合格にしただろう……なんて思ってしまい、アンジェリカから「殿下! それはダメです。採点はきちんとしないと! 国力が落ちます!」と可愛く抗議されてしまう。


 権力を濫用せず、正しく公平にと考えられるアンジェリカを見るにつけ、抱きしめたい衝動を抑えるのに苦労することになった。


 その一方で時は刻一刻と流れ、大聖堂から戻ると、慶賀の儀の準備となり、アイスブルーのフロックコートへ着替えることになる。


「殿下、コルネ嬢は本日白のドレスです。宝飾品がゴールドということなので、カフスとタイの飾りはこちらを」


 スコットに言われるままに宝飾品を身につける。


(正直、着飾るのは子リスで、わたしは彼女が映えるなら何でもいいのだが……)


「殿下、マントはパールシルバーのものがよろしいかと」

「わかった。昔からわたしの衣装はスコットに任せている。今日も頼んだ」

「……殿下がそれだから、僕が嫁だのと言われてしまうんですよ! でもまあ、このお役目もあと少し。殿下とコルネ嬢の結婚式は六月なんですからね!」


 スコットのこんな言葉を聞いてしまったからか。エスコートするために、アンジェリカの部屋に向かい、新雪の雪のようなドレスを着た彼女を見た瞬間……。


(まるでウェディングドレスではないか!)


……ミラーの副長官が迷走し、恩人であるオルリック嬢といきなり結婚すると言い出したと聞いたが……。


(今なら彼の気持ちがわかる。わたしも六月を待たず、今すぐアンジェリカと式を挙げたい)


「で、殿下、それはダメです! みんな六月に向け、準備を重ねているんですよ! 彼らの集大成は六月に披露ですから!」


 アンジェリカにたしなめられてしまう。


「わかりました。楽しみは六月までとっておきます」


 そんな会話をしていると、スコットもテレンス嬢たち侍女も。とても不思議そうな顔をしている。皆、アンジェリカがわたしの心を読めるとは思わないから、突然始まる会話に、不思議でならないのだろう。


 そんな一幕の後、アンジェリカをエスコートして、謁見の間へ向かった。


 謁見の間には、既に新年の挨拶を行う貴族たちが集結している。


「国王陛下のおなり〜」


 侍従長の掛け声と共に、父上と母上を先頭に、わたしはアンジェリカをエスコートして入場となる。中に入ると美しく着飾った貴族たちがずらりと礼をして待ち受けていた。


 父上と母上は玉座に座り、わたしとアンジェリカは右側に控え、王女たちは左側に並んだ。


 父上は謁見の間にいる貴族たちを見渡すと、新年の挨拶を口にする。


「共に新年を迎えられたことを喜ばしく思う。神の加護が、この国とすべての民にあらんことを」


 この言葉を聞いた貴族達は一礼して着席する。


「今日という晴れの日に、国のため尽力する者たちの努力を示そうと思う。昨年末に行われた各試験の合格者をここに発表する」


 父上の口上と共に、各試験とその合格者の名が発表されていく。


 そのほとんどがこの場にいない者であるが、その名が書かれた合格者名簿は宮殿のエントランスに掲示されるので、そこで多くの受験者が確認することになる。


(官僚の昇級試験の合格者はほんのわずか。ここで発表される者はエリートの仲間入りとなる。貴族の多くが家門の維持のため、娘が複数いるのが当たり前。娘婿の候補として、ここにいる貴族はその名を覚えることになる)


「……以上が官僚昇級試験の合格者である。その栄光に拍手を」


 一斉に拍手が起き、それが終わるといよいよ使用人の昇級試験の合格者の発表である。使用人の昇級試験の場合、宮殿勤めをしている自身の娘や息子の名が呼ばれるかもしれないのだ。そしてもし呼ばれれば、新年早々大変な名誉になる。


「ではまず、バトラーの昇級試験の結果から発表する」


 チラリとアンジェリカを見ると、その顔は真剣そのもの。組んだ両手を胸の前に持ってきて、祈るようにしている。その姿を見ると、職権乱用と怒られてしまうが、やはりテレンス嬢を合格させたくなってしまう。


(だが冷静に考えたら、そんな必要ないだろう。テレンス嬢はスコットに聞いたところ、この半年かけ、真剣に上級侍女になるべく研鑽を重ね、勉強を続けてきた。彼女だったら実力で十分、合格できるはずだ)


 そうわたしが思った瞬間。


 アンジェリカがうるうるした瞳でわたしを見上げる。その表情に押し倒したくなる感情をなんとか呑み込み「大丈夫だ。きっと合格のはず」と思いを込めて頷く。


 視界の端にはアンジェリカ以上に緊張した面持ちのスコットの顔も見えている。


 当事者であるテレンス嬢はこの謁見の間ではなく、隣室で控えているが、今頃ドキドキだろう。合格者名簿の掲示は、父上の発表が終わってからだ。テレンス嬢自身が合否を知るのはわたしたちより後になる。


「では続けて上級侍女への昇級試験の結果を発表する。受験者は十五名、合格者は二名。一人目はアナベル・クレイン」


 そこで女性の「まあ」の声が響くが、これはクレイン男爵夫人だろう。王女の侍女を次女がしており、彼女が一人目の合格者だ。


「そしてもう一人。……このもう一人は我が国始まって以来の快挙を成し遂げておる。ゆえに後ほどその頭脳を讃え、黄金のメダルを贈ろうと思う。彼女はこの上級侍女試験で、前人未到の満点を叩き出した、稀に見る才女である」


 父上のこの発言に貴族たちは「!」と刮目することになる。


「上級侍女昇級試験、もう一人の合格者は……」


 父上の勿体ぶった“ため”に、わたしは笑いそうになるが、そこはいつも通りの無表情で何とか乗り切る。


「ルイーザ・マリー・テレンス嬢!」


 アンジェリカが興奮を抑えきれずにわたしに抱きつき、スコットがガッツポーズをした。


新年明けまして

おめでとうございます!

なろうで活動を始め

今年も後書きで挨拶が出来たこと。

嬉しくてなりません!

今年もよろしくお願いします。

皆様がドキドキハラハラ、現実を忘れ、物語の世界を旅できるよう、引き続き頑張ります☆彡


明日はお昼頃に公開します!

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