それぞれのホリデーシーズン⑪12/28
「ようやく十二月二十八日が終わった。残り三日だ。大丈夫。誰も風邪を引いていない。喉の痛みや鼻水が出るという訴えもなかった。熱も全員、平熱。よし、大丈夫だ!」
そこで王宮に用意されている宮廷医室から退出することにする。
王族全員の健康を記録した診療簿は鍵付きの金庫にしまう。王族の健康状態は国家に関わること。万一にも盗まれると困る。
ということで鍵をかけるとそれを首から下げ、デスクの引き出しなどの鍵も全て施錠し、その鍵は白衣のポケットへしまう。
すべてを終えると、ランプを消し、部屋から出てそこの鍵もかける。
(本当に鍵が多いな……)
そんなことを思いながら廊下を歩き出すと、顔見知りの警備兵とすれ違う。
「ご苦労様です」
「ボルチモア先生もお疲れさまでした」
いつも通り挨拶をして、曲がり角を曲がる。するとアトリア王国の騎士とは違う隊服姿の男性と、侍女らしき女性がこちらへと歩いて来た。
(これは……あ、マリーナ王国の)
そう思いながら、二人に会釈して、通り過ぎようとした瞬間。
いきなり騎士に腕を掴まれたと思ったら、もう片方の手で口と鼻に布を押し当てられる。
(揮発性のこの匂い……吸ったらダメだ! 意識を失う)
手を布に伸ばそうとすると、女の手に邪魔をされる。そして女は空いている手で、僕の白衣のポケットから鍵束を掴んだのだ!
(大変だ! 王族の医療情報を盗もうとしているのでは!? マリーナ王国は友好国ではなかったのか!?)
絶望的な気持ちになったその時、「「うっ」」と、僕に襲い掛かった男と女が呻く。同時に二人は僕から離れ――。
「はあっ」と拳を繰り出すのは……メイド!? まさか、オルリック嬢??
「お兄さんの相手はこっち!」と、人差し指をクイクイとさせ、あの騎士のような男を挑発するのは……。
(誰だ!?)
たまに宮殿内で見かける美貌の貴公子だが、名前は知らない。
「うぐっ」
オルリック嬢が女の頬にパンチし、カチッ、コロンと何かが転がる。
「!」
血の付いた歯が転がっていた。
殴られた女の顔を見ると、鼻血がたれ、唇が切れ、頬は赤く腫れあがっている。一方のオルリック嬢の拳には……。
(あ、あれは、ナックルダスター!?)
アカデミーの授業では各種武器で受ける傷について学んでいる。同時に。ありとあらゆる武器について熟知することになる。よって一目でその武器がわかったが……。
(な、なぜメイドであるオルリック嬢が、ナックルダスターを??)
驚愕していると、敵の女が短剣を取り出し、オルリック嬢に襲いかかる。
歯が一本折れているのだ、あの女は。相当な激痛が走っているだろうに、短剣を持つ動きには痛みを感じさせない。
(もしかするとあらかじめ鎮痛剤を服用しているのかもしれない。そうだったらあの騎士のような男もこの女も、敵のスパイだ!)
そこでキン、キンという金属音にビクッとして音の方を見ると、美貌の貴公子と男が剣での戦闘をスタートさせている。
貴公子は、剣とは無縁の上品そうな青年に見えたが、とんでもない。手首をスナップさせ、次々と繰り出す突きの攻撃に、敵の男は完全に呑まれている。
(す、すごい……)
つい見惚れてしまうが、そうではない。助けを呼ばなければ!
そこで声を出そうとして、口が動かないことに気づく。さらに尻餅をついた状態から体を動かそうとするが……。
(さっき鼻と口に押し当てられた薬だ。中途半端な吸引だったから、気絶まで至らない。だが体の自由が効かない……! 声も出せない!)
警備兵は巡回をしている。
だがさっきここを通り過ぎたばかり。
まだしばらくここへは戻ってこない。
(それまでただ座り、この戦闘を眺めているしかないのか……)
「!」
そこで頬に何かがあった気配がして、手を動かそうとするが、動かない。代わりで床にぽたっと血が滴り落ちる。
(!? いつの間にか斬られた!?)
そう思ったが違う。オルリック嬢の上腕のシャツが破れ、そこに血がにじんでいる。つまりあの女の短剣で斬られたんだ……! その血が飛び散った!
ナックルダスターと短剣での戦闘。
短剣が圧倒的に有利だ。ナックルダスターは相手に触れて初めて攻撃威力が出る。だが短剣があると、距離を縮めることもままならない。
(くそっ、どうしたら……)
そう思いながら医者の本能で、オルリック嬢の傷の様子を観察してしまう。
(傷は……深くはない。だがこの戦闘で体を動かせば、出血は増える。まだ傷は一か所だが、増えれば彼女にとってマイナスになってしまう)
助けを求めるように美貌の貴公子の方を見ると、そちらは男の制圧を完了させ、拘束を始めている。
(すごい。あの貴公子は……騎士、なのか……?)
「はぁーっ」
「!」
オルリック嬢が脚を振り上げ、女の手から短剣を叩き落とした。
(す、すごい……)
しかも振り上げた脚、その太腿にはホルスターがあり、そこから何かを取り出したと思ったら……。いつの間にかオルリック嬢の手に棒がある。しかも一振りした瞬間、長さがでていた。
女は短剣を拾い、構えるが……。
そこからの金属製の棒を使ったオルリック嬢の攻撃は……見ている僕は、もはや敵の襲撃を目撃しているのではなく、武術大会の競技を見ているような心地である。つまりは興奮し「いけーっ、オルリック嬢」と叫びたい状態!
「はぁっ!」
女の手から短剣が吹き飛び、それを足でキャッチしたのはあの美貌の青年。
その間にオルリック嬢は足払いで女を転倒させ、うつ伏せの女に馬乗りになると、そのまま首を絞めあげる。
女の首がガクンと垂れ、気絶したと分かる。
「であえー、くせ者がいるぞー!」
そこでようやく警備兵が駆けつけ来た。
お読みいただき、ありがとうございます!
まさに『24』のような緊張感〜!















