それぞれのホリデーシーズン⑩12/27
「コルネ伯爵!」
「どうされましたか、スコット筆頭補佐官」
コルネ伯爵の部屋に、わたくしの婚約者でもあるスコット筆頭補佐官が慌てた様子で訪ねてきた。
◇
十二月二十七日。
今年も残りあとわずかとなったこの日、王宮の各所で大掃除が進められていた。といっても王宮は毎日のように丁寧な清掃が行われている。この大掃除で行われるのは、カーテンや絨毯を新品に変えることだった。
カーテンは流行に合わせ、変えることが当たり前。
だが絨毯は手織りの最高級品が使われており、一世代で使い切ることもおかしくない。部分的な痛みは都度補修され、美術品的な価値を持つような絨毯は、そう安易に張り替えることはなかった。
しかし今回、七名もの姫君を送り込んだマリーナ王国が、王家に献上したのはペルージャ絨毯。小国でありながら、滅びることなく脈々とマリーナ王国が続くのは、このペルージャ絨毯のおかげだった。
ペルージャ絨毯は、職人による手織り品で、最高級品を仕上げるには年単位、ものによっては十年以上かかることもある。ペルージャ絨毯の職人は女性が多い。彼女たちは商品以外に、自身の婚礼の持参品として絨毯を織るという。その絨毯は、機織りを始めて嫁ぐその日まで織り続けるとも言われていた。そうなると二十年ものなんて絨毯がざらにあるわけだ。
それだけ手間暇をかけたペルージャ絨毯は、もはや芸術品と同じ扱いであり、国同士の贈答品としても用いられる。そして今回、最高品質のペルージャ絨毯を受け取った国王陛下は、レグルス王太子殿下へ授けることを決めたのだ。聖なる夜の舞踏会で、マリーナ王国の七人の姫君とダンスを踊ったことへの褒美の意味を込めた決定だった。
そこで十五年ぶりにレグルス王太子殿下の部屋の絨毯を張り替えることになったという。
「そしてまさに先程、殿下が馬術されている時間を使い、絨毯の張替えを行うことになりました。家具を一旦別室へ搬出し、前室と寝室の絨毯を剥がしたのですが……」
そこでコルネ伯爵の対面のソファに座るスコット筆頭補佐官は、ローテーブルの方へ身を乗り出す。
「……コルネ伯爵にぜひお見せしたいものが発見されたのです!」
「殿下の部屋で絨毯を剥がしたら発見されたもの……もしや秘密の通路への入口や隠し金庫、かしら?」
「! 秘密の通路への入口は確かに殿下の部屋にございます。ですが絨毯の下ですと、いざとなった時、大変です。家具をどけて、絨毯を持ち上げて……としているのは不都合かと。よって秘密の通路の入口ではございません。隠し金庫も同じ理由でそこにはございませんね。隠すのは一度だけで、何十年も開ける予定がなければそこでもいいのでしょうが……」
これを聞いたコルネ伯爵は「確かにそうですね。……そうなると、何かしら? 想像がつきませんわね」と呟き、わたくしを見る。
「……絨毯の裏に隠しておいたお金が見つかる、なんてことは聞いたことがありますが……。あとは推理小説でよく見かける、遺体が……骨が見つかったとか、そのような話ぐらいしか想像できませんわ」
大人のジョークを交えたわたくしの言葉に、コルネ伯爵がくすくすと笑い、スコット筆頭補佐官も苦笑しながら応じる。
「さすがに殿下の部屋で骨が見つかることはありません。一体何が見つかったのか。見に行きませんか」
「そうね。ちょっと探偵気分だわ。殿下の部屋にお邪魔してみましょう。テレンス嬢、ルベール嬢、一緒について来てくださる? モンクレルテ嬢とララ嬢はお留守番をしていてちょうだい。間もなくマルグリット夫人が戻るから、手紙と書簡の仕分けをお願いね」
「「「「かしこまりました、コルネ伯爵!」」」」
こうしてわたくしはコルネ伯爵とルベール嬢と共にレグルス王太子殿下の部屋へ向かうことになった。
廊下を歩いていると、あちこちでカーテンの新調や、壁紙の張り替えなども進んでいる。その様子にいよいよ年の瀬が迫っていることを感じてしまう。
「コルネ伯爵、ルイーザ様!」
レグルス王太子殿下の部屋に着くと、オルリック嬢が口と鼻を布で多い、羽根はたきを手に迎えてくれる。そして足を踏み入れた前室には一切の家具がなく、床板が見渡せる状態だったが……。
「まあ、見て! これは……これは……これは……何?」
コルネ伯爵が首を傾げる。
「これは……ミミズク……フクロウでしょうか?」
ルベール嬢が答えを捻りだす。
「フクロウ? ではこのデッキブラシみたいなものは?」
コルネ伯爵に尋ねられ、これにはルベール嬢は「さあ……なぜそこに描かれているのか、謎ですね」と答えるしかない。するとコルネ伯爵は「こっちは何かしら?」と指さす。そこでわたくしが「ハサミ、でしょうか?」と応じる。すると「あ、これはウサギだと思います!」とスコット筆頭補佐官が笑顔になる。
皆が興味津々で眺めているもの。それは幼いレグルス王太子殿下による落書き! 剥き出しになった床板で、殿下の落書きが発見されたのだ!
どうやら金属……鍵の先端などで書いたもののようだ。修復せず、そのまま絨毯を敷いたのは、国王陛下夫妻が殿下の思い出として残したように思える。
「殿下の字はとても美しく読みやすいですのに」と私。「絵は苦手だったのかもしれないわね」とコルネ伯爵。「殿下の意外な一面を発見です」とルベール嬢。
「こら、お前たち、ここで何をしている!」
「「「「殿下」」」」
アイスブルーの乗馬服姿で登場したレグルス王太子殿下にみんなビックリ。一方の殿下は、アイスシルバーの髪をサラリと揺らし、紺碧色の瞳を向けたのは……。
「スコット!」
「す、すみません、殿下! でもコルネ伯爵は幼い頃の殿下を知りません。少しでも昔の殿下を伝えられたらと思い……」
(大変! スコット筆頭補佐官が、殿下に怒られてしまうわ)
婚約者としてスコット筆頭補佐官を庇わないと思ったその時。
「殿下のこの落書き、とても微笑ましいですわ。これは何を描かれたのか。ぜひ教えていただきたいです」
コルネ伯爵が女神のように微笑み、レグルス王太子殿下の手に触れると……。
その顔は氷の王太子。でも瞳は常夏の太陽のように甘く煌めく。
「アンジェリカがそう言うなら……」
するとレグルス王太子殿下は乗馬服に合わせて着用していたマントをはずし、床に広げ、コルネ伯爵を座らせる。そして自身もその隣に座ると……。
「これはリスだ」
「まあ、こちらはリスだったのですね」
(! フクロウではなく、リスでしたのね! というかデッキブラシみたいなものは……そうなると尻尾ですわ!)
思わず笑いそうになるが、それをこらえ、スコット筆頭補佐官とルベール嬢に目配せをする。
(忙しいお二人はここ最近、二人だけでゆっくり話す時間を持てていない。これから絨毯を敷き、家具を元に戻すのだから、そう長い時間、おしゃべりはできないわ。でもほんのひと時。お二人が昔話に花を咲かせる時間を作って差し上げましょう)
絶妙なタイミングでオルリック嬢が扉を開けてくれたので、私たちは静かに退出した。
お読みいただき、ありがとうございます!
今日からようやく年末年始休み〜
大掃除しないとねε-(´∀`; )
明日は夜更新です!
そしてなろうラジオ大賞7応募用の短編を
公開しました~
『悪役令嬢の我がまま~舞踏会に……~』
https://book1.adouzi.eu.org/n8107ln/
└応募規定で1000文字なので瞬きしている時間で読み終わります!?
短編なのでバナーの用意がないのですが
筆者のマイページや
上記URLをスマホで長押しコピー&ペーストで
よかったらご覧くださいませ☆彡















