それぞれのホリデーシーズン⑨12/26
言われたパン屋へ向かおうと思ったが、よくよく考えるとついさっき朝食をいただいたばかりだった。
(パンは昼食にしよう)
そこで街中でウィンドウショッピングを始めると、あちこちでポスターが目に付く。そこには「『ホリデーシーズンのお楽しみ! 毎年恒例! パントマイム初日公演『シンデレラ』」と書かれ、素敵なイラストが添えられている。
(そういえば子どもの頃、この時期によくパントマイムを観ていたわね)
懐かしい気持ちもあるし、公演時間は十時からとちょうどいい。
(終わったら昼食よ。完璧だわ)
ポスターに書かれた地図を頭に入れ、私は会場を目指し、歩き出した。
◇
観劇した感想はこの一言に尽きる。
(楽しかった!)
パントマイムは大人しく鑑賞する演劇と違い、観客と一体型なのだ。つまり「危ないー!」「騙されないでー」「がんばれー!」「負けるな!」とピンチを知らせ、応援したりの掛け声が許されている。ゆえに盛り上がりが半端ないのだ。
(だからなのかしら。圧倒的にファミリー客が多かった)
演劇と違い、一人客は圧倒的に少ない。公演が始まってしまえば、わいわいと盛り上がり、一人で観覧していることは忘れる。
それでもこうやって観劇を終えた今、この感想を誰かと話せたらいいのに、と思ってしまう。
その瞬間、脳裏に浮かぶのは、バターブロンドの柔らかそうな髪と赤銅色の瞳。口を開ければ、しょうもないことばかり。でもただ笑顔でそこにいると、多くの令嬢が胸をときめかせるハンサム貴公子。
(最悪だわ。どうして今、この瞬間にジークを思い浮かべるのかしら? 私、何かの呪いでもかけられているの? せっかくジークが王都にいなくて羽を伸ばせるのに!)
頭をぶんぶん振り、歩き出そうとして……!
「どうした、リエット。前方不注意だぞ、完全に」
後ろからふわりと抱き寄せられ、感じるのはミントの香り。
(え、嘘……)
驚愕して首を後ろに向け、そこで冬の陽射しを受けて輝く赤銅色の瞳と目が合う。
「……なんで? どうしてここにいるの? 狐狩は……?」
「狐狩は早朝、日の出と共にスタートした。そこで僕はありとあらゆる知識を総動員し、そして優秀な猟犬たちをコントロールし、ギャラリーから一時間程拍手喝采を集めた。それだけやれば十分だろう?」
「まさか……」
「ジークフリート家の名は十分アピールできた。僕は仕事が早い男だから。で、大急ぎで王都へ戻って来た」
「なんで……なんで戻って来たのですか……」
「いい質問だ。まず、僕は王都に住んでいる。戻るのが当然。次に、今日はBoxing Dayだ。リエットは休みだろう? 僕も今日はフリーだ。そうなったら……デートするしかないだろう!」
このジークの答えに私は「Are you serious?」と呟くことになる。
「うん? リエット、よく聞こえないな。それより、もう昼時だ。お腹空いただろう? ちゃんといい店を見つけてある! リエットが喜ぶチーズ専門店だ」
「チーズの専門店!……じゃないです! ジーク、狐狩大会を抜け出すなんて、ジークフリート侯爵が困っているのでは!?」
「おや? リエット。優しんだな。もしかしてパパ大好きっ子か?」
「ジーク!」
足を踏んづけてやろうとするも、ジークは身軽にそれを避ける。
「問題ないよ。狐狩は本当に狐を捕えるわけではない。ギャラリーにどれだけ狩猟のパフォーマンスを見せられるか、だ。僕は一時間フルフルでみんなを満足させた。僕と同じことを出来る奴は、あの場にいないだろう。僕は狐狩の達人としての名をちゃんと残したから、父親も文句は言えない。だから先に王都へ戻ることも認めた。つまり父親も了承している。安心していい」
「そうなのですね……」
「リエットは親思いなんだな」
「……そんなことはないですよ。私は……両親にさんざん迷惑をかけたから修道院に送られたんですから……」
そこでジークは当たり前のように私の手を握った。
エスコートではなく手の平を合わせ、指を絡め「人出が多いからな。迷子にならないように」とウィンクする。
「それで、なんでまた両親に迷惑をかけることなんてしたんだ?」
「それは……」
そこからチーズ専門店に着くまで。着いてから、料理が出てくるまで。料理が出て食べている間も、私は自分と両親、父親の関係についてジークに打ち明けていた。
両親との関係を誰かに事細かく話すのは初めてのことだった。だがジークは諜報部ミラーの副長官であり、尋問のプロ。あっさりその話術に乗り、私は――すべてを話していた。
「なるほどな。リエットにはそんな可愛い反抗期もあったわけか」
「可愛い? ただの生意気です」
「そんなことない。僕からしたら、父親を大好きで、もっと見てくれと可愛く甘えているようにしかみえない。少し乱暴が過ぎたところもあった。だがそんな過去もあるから、今のリエットがある。人間、間違いをせずに生きられたらそれが一番だ。だが心がある。感情があるんだ。そこを無視して生きて行くことはできない。だからリエットはちょっと道から外れることをしたが……。ちゃんと自分で軌道修正したじゃないか。自分が悪いことをした。それについてはちゃんとごめんなさいをしている。そして今は世のため、人のために頑張っているんだ。それでいいんだよ、リエット」
そう言って食後のデザートのチーズケーキを頬張るジークは……。諜報部ミラーの副長官と言えど、年齢はそこまで上ではない。なんなら私とたいして変わらない年齢なのに。その言葉には説得力があり、何よりも……。
(温かい。ジークの言葉は……私の心にものすごく沁みるんだ)
「おい、リエット、泣くなっ!」
「泣いていません! いえ、泣いています! このチーズケーキが絶品過ぎて!」
「!? なんだ……チーズケーキ……。まったく。リエットは本当に食べ物が一番だな。そのうち『一番はジーク様です』と言わせて見せるからな!」
震えるような冬の寒さなのに。なぜかジークといると……心がいつもぽかぽかだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
このエピソードでジークが好きになった人。
前からジークが推しの方。
指マークでジークの応援
ぜひぜひよろしくお願いします☆彡















