サプライズ
小箱を開けるとそこに入っていたのは……。
エメラルドのイヤリング!
三粒のエメラルドは、見事に濃い緑から淡い緑にグラデーションになるよう、縦に三連で並んでいる。使われている金具などはゴールドで、とても高級に思えた。
「あ、あの、これは……」
「これはいわゆる殿下からのボーナスですよ! もう連日八面六臂の大活躍ですからね。貰えるものは貰っておく。何よりこれは贈り物ですから」
スコット筆頭補佐官がそう言ってウィンクをして、当のレグルス王太子殿下は……。
《王家に代々伝わるものだし、宝石は本物だ。でも流行のデザインというわけでもないし、新品でもなければ、彼女のためにオーダーしたものではない。見た目は青虫を彷彿させるし……。いくら宝物庫から持って来た物とはいえ、失礼だっただろうか》
聞こえてきた心の声に、腰が抜けそうになる。
(ほ、宝物庫から持って来た!? た、大変。王家の宝物庫なんて言ったら、本当に国宝級のものばかりよ! それに青虫になんか見えないですよ、殿下!)
《……あまり嬉しそうな顔ではないな。やはりスコットの言っていた通り、侍女としてわたしに仕えているのだから、宝飾品など……》
「レグルス王太子殿下、とても素敵なイヤリング、ありがとうございます! とても素敵なものですが、シンプルで飽きの来ないデザインで、そしてとても上品で洗練されたものです。これであれば今、つけても問題ないかと思います。……早速、つけさせていただいてもよろしいでしょうか!?」
心の声でレグルス王太子殿下がしょんぼりしそうになっていると分かったので、私はすぐにつけることを提案する。
《良かった……! 気に入ってくれたのだな。よし、よし》
心の声は大喜びしているが、レグルス王太子殿下が声に出して言った言葉は……。
「もうそのイヤリングは君のものです。わたしに許可をとるまでもなく、好きないようにしていただいて構わないですよ」
ポーカーフェイスでそう言うが、星空のような紺碧色の瞳は、キラキラと輝いている。
(目は口程に物を言うとはこのことね……)
そんなことを思いながらイヤリングをつけ、今度は私からのサプライズの番よ!と思ったら。
「父上と話し、君たちの労をねぎらう場を作ることにしました」
引き出しからさらに何かを取り出した。
その何かは封筒。
先程と同じで、私の目の前に封筒が置かれた。
封筒には美しい字で私のフルネームが書かれている。手に取り、裏返すと王家の紋章入りの封蝋。
「開けさせていただきます」
レグルス王太子殿下は頷き、でも心の声は聞こえてこない。
(何かしら……)
封筒からカードを取り出すと、そこに書かれていたのは……。
「舞踏会の招待状……?」
「秋のこの時期、多くの貴族がカントリーハウスに戻るため、舞踏会はオフシーズンになります。それでも王都に貴族がゼロではないですからね。彼らを招待しつつ、主役は粉薬のために尽力した方々、さらにこれから羽根ペンで頑張っていただく鍛冶職人の皆さんということで、殿下は御礼を込めた舞踏会を開くことを国王陛下に提案し、快諾されたのです。つまりこの舞踏会の主役はいつもの貴族ではなく、使用人や職人の皆さんなんですよ」
すかさずスコット筆頭補佐官がフォローしてくれたので、この季節外れの舞踏会の意図を理解することになった。
(というか、レグルス王太子殿下……神だわ! かつて使用人のために舞踏会を開くことを提案した王族なんていたかしら? 許可してくれた国王陛下も神! というかみんながスポットライトを浴びる場をもうけてもらえて本当によかったわ! ダイアンも美味しいお酒が飲めるって大喜びね)
つい前世の感覚で喜んでいると……。
《自分自身の個人的な贈り物より、使用人みんなの労をねぎらうことになる舞踏会の方に、こんなに嬉しそうな顔になるとは》
レグルス王太子殿下のこの心の声には、私のこと、買い被りし過ぎていますよ!と言いたくなってしまう。
(だってイヤリングはあまりにもすごい物だったから反応できなかっただけなのに! イヤリングも舞踏会も。どちらも同じぐらい嬉しいわ!)
朝からこんな粋なサプライズをしてくれたレグルス王太子殿下。
(今度こそ、私の番よ!)
「レグルス王太子殿下、イヤリングといい、この舞踏会といい、心からのお気遣い、ありがとうございます。ここまでしていただけることに、とても感動です。実は私からもサプライズがあります」
そこで一旦自分の席……いつも座っている椅子に戻り、そのサイドテーブルに置いてあった木箱を手にとる。そしてレグルス王太子殿下が座る執務机に戻り、「どうぞ、ご覧ください」と木箱を置いた。
興味を引かれたスコット筆頭補佐官が席を立ち、こちらへとやって来る。
「これは……初めて目にします。何ですか?」
レグルス王太子殿下が木箱の中に入っている物を取り出した。
お読みいただき、ありがとうございます!
タイトルとぴったりな更新をした気分♬
次話は明日の18時頃公開予定です!
お盆休みも仕事ですが更新頑張れるよう
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