それぞれのホリデーシーズン⑥12/24
聖なる夜の舞踏会の会場となるホールには、四隅にシンボルツリーが飾られ、そこに沢山のギフトボックスが置かれている。舞踏会に招待された貴族たちは、帰りがけにこのギフトを一人一つ、持ち帰ることができた。国王陛下からのサプライズプレゼントで、中には高級ワインや舶来品のスイーツが入っている。
この一年で献上され、食べて美味しかったパイナップルケーキや落雁などのスイーツを、私は国王陛下にも提案している。陛下も気に入ってくださり、このギフトボックスにはこれらのスイーツも含まれていた。
《舶来品のスイーツや高級ワインもあるが、貴族たちが驚くのはアンジェリカの考案した品々に違いない。まだ量産化されていないシャンパンストッパー、温熱カイロ、小型の爪切り。どれも大変便利な品々だ。来年になれば工場での生産が始まる。一足早くアンジェリカの考案品を手に入れた貴族は大喜びだろう。わたしの最愛の有能さを、とくと噛み締めるがいい》
たとえ聖なる夜の舞踏会でも、変わらぬポーカーフェイスのレグルス王太子殿下であるが、用意されているギフトを見て、心の中はご満悦になっている。しかも私のことをべた褒めしてくれているのだ。
(これは頬が緩みそうになり、大変よ!)
そんなふうに思っているとファンファーレが流れ、国王陛下夫妻の入場となる。
今回は国王陛下夫妻以外の王族は先に入場し、玉座の側で待機となっていた。
こうして国王陛下夫妻が玉座につくと、舞踏会の開始の挨拶を口にする。
「今宵の聖なる夜を祝う舞踏会、心ゆくまで楽しんで欲しい。今回、皆が手に入れることになるギフトには、我が息子、レグルスの婚約者であるコルネ伯爵の素晴らしい考案品も含まれている。まだ量産されていない、希少なもの。手に入れたものは実に幸運の持ち主だ。きっと来年も良きことがあるであろう」
これにはホール内が盛大にざわめく。
《アンジェリカの考案品を手に入れたいと、貴族たちはダンスそっちのけになりそうだな》
レグルス王太子殿下は、会場の令嬢たちの熱い視線を集めているのに、変わらずの無表情。しかし心の中ではニマニマ状態。私はそのギャップに笑いを堪えるので大変だ。
そんなことをしていると「では最初のダンスから始めようか。我が国からは王太子のレグルス、そして――」と国王陛下が紹介するのは、大陸の一番南にあるマリーナ王国の姫君。
「こちらのマリーナ王国の第一王女クレハ殿下にお願いしよう」
紹介されたのは赤毛の巻き毛の可愛らしい王女で、レグルス王太子殿下を見て、「わーっ」と顔を輝かせている。本日の昼過ぎに到着したマリーナ王国の王女を出迎えたのは国王陛下夫妻で、ご夫妻以外の王族はこの場が初めましての対面だった。
クレハ第一王女はウキウキでレグルス王太子殿下にエスコートされ、ホールの中央へ向かうが、殿下自身はいつもの無表情。そこだけは絶対にぶれない。
「では」という感じで国王陛下が合図を送り、前奏がスタートする。
レグルス王太子殿下は表情を変えないが、クレハ第一王女はもう見事な笑顔でダンスを踊り、彼女の侍女と思われる令嬢たちは瞳を輝かせ、拍手を送っていた。
こうしてフィニッシュを迎えたのだけど……。
「レグルス王太子殿下、次は第二王女のランでお願いします!」
「殿下、その次は第三王女のルーラでお願いします」
「その後は……」
驚いた。
マリーナ王国からやって来た姫君は……総勢七名もいたのだ……!
レグルス王太子殿下は最初のタームで三人の王女とダンスし、三十分の休憩を挟み、続けて第四王女~第六王女とダンスして、休憩。そして最後に第七王女とダンスをしたのだけど……。
七名の姫君とのダンスを終えたレグルス王太子殿下を待ち受けていたのは、国内の有力貴族の令嬢たち。本来、最初のダンスの後で踊るはずだった令嬢たちだ。そうなるとレグルス王太子殿下は彼女たちとのダンスも無視できない。
かくして五名の令嬢とダンスし、レグルス王太子殿下はようやく社交で必要なダンスから解放されたのだけど……。
《七名の王女をこの季節に送り込むなんて、完全に経費節減のために違いない! 滞在中の飲食はもちろん、欲しいものがあればたいがいが無償で我が国が提供だ。まったく、いいように利用されているではないか! アンジェリカとのダンスだってずっとお預けだ。わたしより先にスコットやボルチモア医師とアンジェリカが、ダンスをしてしまったではないか……!》
レグルス王太子殿下がご立腹になる気持ちはわかる。なにせこの王太子としてのダンスで、既に三時間半が経っているのだ。間もなく舞踏会の終わりとなる、二十四時の鐘が鳴る時間も近づいていた。
それもあり、無表情ながらもしょんぼりが伝わるレグルス王太子殿下の手を取り、私は提案する。
「殿下。私はずっと殿下とのダンスを楽しみにしていました。これまでのダンスはウォームアップみたいなもの。約束通りで、トラウスの新曲のカドリーユを踊りましょう、殿下」
「アンジェリカ……!」
星空を思わせる紺碧色の瞳を全力で輝かせ、これまでの疲れはどこへやらで、レグルス王太子殿下が私をエスコートしてホールの中央へ向かう。スコット筆頭補佐官とテレンス嬢。宮廷医ボルチモアとダイアン。そして王女殿下とその婚約者とで、カドリーユを踊ることになる。
テンポのいい音楽にのり、カドリーユを踊り終えた時。
「皆様、窓の近くへどうぞ。間もなく二十四時の鐘が鳴り、聖なる夜を祝う花火が打ち上がります」
侍従長の声に、皆が窓辺に近づき、そして鐘が鳴り――。
冬空に閃光のような白い花火が輝き、なんとそこに白い雪が舞う。
「初雪です、アンジェリカ」
レグルス王太子殿下が優しく私の腰を抱き寄せる。
昨年の冬、レグルス王太子殿下はこう、私に教えてくれた。
――『初雪はその年で一度きりです。その景色を楽しめるのはその時だけ。さらに雪の白さはとても象徴的。まさに純愛であり、二人の想いは永遠に清らかに続く──そう言われているんですよ』
そしてこの後……。
「初雪の誓いです、アンジェリカ」
デジャヴを覚える。あの日もこう告げた後、レグルス王太子殿下は――。
ふわりと優しく。
皆が窓の外の花火と雪に夢中になる中、レグルス王太子殿下の唇が、私の唇へと重なった。
聖なる夜に。
Wishing you a Merry Christmas!
お読みいただき、ありがとうございます!
物語の進行にあわせ、明日は朝更新!
朝はお忙しい方も多いと思うのでご都合のつくタイミングで無理なくご覧くださいませ~♪















