それぞれのホリデーシーズン⑤12/24
ホリデーシーズンに突入してからの日々は、何だか慌ただしかった。公的な行事は減るものの、その分、奉仕活動が増える。
王妃殿下も王女たちも、そして私も。日中は孤児院や病院を慰問し、この冬を温かく過ごせるように、衣料品や食料品を届けていた。
その一方で国王陛下やレグルス王太子殿下は、新年を母国で迎えるため帰国する大使の挨拶を受けたり、地方領から王都へ来て新年を過ごす貴族の挨拶を受けたりで、大変忙しい時間を過ごす。
(レグルス王太子殿下と過ごす時間がないわけではないわ。朝食はいつも一緒で、昼食は別々になることが多い。でも夜は夕食会や晩餐会で一緒なのだけど……)
二人きりで過ごす時間が圧倒的に少なかった。
(オペラの観劇の最中は二人きりに近い。でもロイヤルボックス席には、侍女のみんなや護衛騎士もいるから……)
案の定で、二十四日の朝、朝食の席で顔を合わせたレグルス王太子殿下からは、こんな心の声が聞こえてくる。
《子リスとの二人きりの時間が全然ないではないか。今日の舞踏会、何としても子リスと二人きりの時間を作るぞ》
今日もポーカーフェイスでそんなことを思いながら、表向きでは……。
「かしこまりました、父上。小国とはいえ、姫君がこの年末年始を我が国で過ごすのであれば、王太子として、歓待いたします。今晩の舞踏会はその姫君と最初のダンスをいたしましょう」
アイスシルバーの髪をサラリと揺らし、実に優等生な回答をして、そして――。
《今日の舞踏会の最初のダンスは子リスと踊る――そう決めていたのに……。小国の姫君などどうでもいいではないか! なぜ母国で過ごさないのか》
私と最初のダンスをできないことに大変不満そうなのだ。でもその不満は一切口に出さず、国王陛下の命に従うレグルス王太子殿下にご褒美をあげることにする。
「殿下」
「どうしましたか、アンジェリカ」
ただ声をかけただけなのに、レグルス王太子殿下は、全力の気持ちを込めた瞳で私を見る。
(顔は無表情なのに、瞳が熱い……!)
星空を思わせる紺碧色の瞳に込められた熱い視線に蕩けそうになるが、気を引き締めて言葉を続ける。
「今回の舞踏会では、トラウスの新曲のカドリーユが演奏されるそうです。王家の方が指揮者にウィンクを送れば、その新曲を演奏くださるのだとか。それはぜひ殿下と踊りたいと思います」
「もちろんです。そうしましょう。父上、トラウスの新曲のカドリーユ、わたしとアンジェリカで踊る許可をいただけますか?」
「ああ、構わんぞ。好きにするがいい」
レグルス王太子殿下は喜びの極上の笑顔を浮かべた。
◇
「コルネ伯爵、お支度ができました」
テレンス嬢の言葉に、ルベール嬢とモンクレルテ嬢は「「大変、お美しいです!」」と声を揃える。
今宵の舞踏会のためにオーダーメイドしたドレスは、白い身頃から裾のスカイブルーへ見事にグラデーションするデザインで、スカートにはたっぷりのチュールが重ねられていた。そのチュールには模造宝石がグリッターのように散りばめられ、美しいことこの上ない。
「レグルス王太子殿下が参ります!」
彼の従者に告げられ、私たちは前室へ移動し、ソファに座り、待機。程なくして扉がノックされ、スカイブルーのテールコート姿のレグルス王太子殿下が登場した。
「アンジェリカ!」
私を見た瞬間、レグルス王太子殿下は、侍女や従者がいることを忘れたかのようで、普段は見せない極上の甘やかな笑顔になる。
《今日の子リスは一段と美しい……。聖なる夜に天から舞い降りた女神のようだ。このまま部屋に閉じ込め、朝まで……》
心の中ではいつものヤンデレ発言をしていて、私の脳内では『caution!』と黄色のテープと自主規制でいっぱいになる。
(もう、レグルス王太子殿下の心の声で、体が熱いわ!)
そんなことを心中で思っているとは想像もつかない優雅さで、レグルス王太子殿下は私に駆け寄ると、ソファから立ち上がるのを手伝う。そして私の手を取ると、実に洗練された仕草で甲へとキスを落とす。
その一連の動作を見ていた、テレンス嬢、ルベール嬢、モンクレルテ嬢は「「「ほうっ」」」とため息をつく。
「殿下、コルネ伯爵。会場へ向かってください」
咳払いをして、チラッとテレンス嬢を見るのは、スコット筆頭補佐官!
(美女を見て男性が鼻の下を伸ばすように。女性だって素敵な男性を見たら自然とため息が出ちゃうのよ、スコット筆頭補佐官。でも安心して。テレンス嬢の心は、スコット筆頭補佐官にしかないのだから)
そんなことを思いながら、レグルス王太子殿下のエスコートで部屋を出た。
お読みいただき、ありがとうございます!
クリスマス更新その1です!
本日はスペシャル、もう一話更新しますよー!















